八十、夢の声
青葉が日の光を浴びて、キラキラと輝く山の中。急な山道を歩く俺は、はぁはぁと息をあげているが、風が涼しく、不思議と嫌な気分はしない。
道の横には川が流れており、その向こう側の岩場には大きな滝がある。
『…また悩み事か?』
滝に影が現れ、その奥にある洞窟からいつもの声が聞こえた。
そうか…これはまた、いつもの夢か。
「うん。まぁ、そんなとこ。」
姿の見えない誰かの声に、これまたいつもの様に返事をする。
「でも、ここに来ればあんたが話聞いてくれるし、大分気は楽になるから…。」
『だが目が覚めれば、また顔を合わせたくない者たちがいるだろう?』
「…。」
謎の声の言葉に、俺は押し黙る。
『…罰を…与えたいとは思わないか?』
「え…。」
『以前から言っている様に、お前にはその気になれば世界を覆す力が備わっている。泣き寝入りする必要など無い。』
「なんだよ…あんた、この前と言ってること違くね?第一、俺にそんな力ねーよ。」
少し前までは、力を振りかざそうとしないことこそがお前の良さだとか、そんなことを言っていた気がする。
『最近のお前を見ていると、いつなんどき壊れてしまってもおかしくないと思えてな…。私も思うところがあったのだよ。』
確かに理不尽な現実を憎んではいるが、最近は諦めに近い感情を抱き始めていて、でも、諦めたくないのも事実で…。
心底どーでもいいと思うことができたなら、どんなに楽だろうと暇さえあれば考えている始末だ。
「そーだな…。もし…もし我慢出来なくなったら、そん時は全部めちゃくちゃにすんのも悪くない…かもしんねーな。」
天を仰ぎながら、ぽつりとそう呟く。
『その言葉…忘れないぞ。』
「え…?」
最後に影の主が何か言ったが、俺には聞き取ることができなかった。
影が見えなくなると同時に、見える景色が滲んでいく。
あぁ、目が…覚めてしまう。
現実が俺を、元の世界に引き戻す。
戻りたくない、元の世界に。




