七十七、帰宅
「ただいま〜。」
「はい。おかえり〜。」
私は今、学校から自分の家に帰ってきた。形代ではなく、ちゃんとした生身の体で。
陰陽神社で目が覚めた後、恭士さんからことの顛末を聞き相談した結果、私は家でしっかり療養するという結論に至った。
優菜さんにお礼を言いに行った時、恭士さんが少し動揺していたのが気になったけど…まぁいいか。
優菜さんの割とざっくりした説明によると、今回の呪いの件で私は大分体力を使い、幾らか寿命が縮まっている可能性がある、とのことらしい。
複雑な気分だが、文句を言って何かが変わるわけじゃない。その時はその時だと思うことにした。
玄関から入ってまもなく、後ろに人の気配を感じる。
ーーこれは。
「…邪魔。」
「え…あ、ごめん。おかえり。」
帰って早々人のことを邪魔にしたこいつ。
同居しているひとつ下の従弟、楯本龍我は、ふてくされた顔をして『ただいま』も言わずに、私を追い越して家に上がった。
龍我は重そうなサブバックを肩に下げ、ズカズカと効果音なつきそうな足取りで自分の部屋へと向かう。
乱暴な手つきで蛇腹の扉を開け、バシャンと音を立てて扉を閉める。
唖然としている私の前に、台所から天気予報を観るために、ばあちゃんがリビングに現れた。
はっとして荷物を持ってリビングに入りながら、小声でばあちゃんに尋ねる。
「あいつ、どうしたの?最近機嫌悪くない?」
生身の体で龍我の様子を見たのは久々だが、ここ最近の機嫌が悪かったのは、形代と共有された記憶で知っていた。
しかし、その理由は分からない。
「何か最近ねぇ…、部活が楽しくないらしいんだよ。」
「へ…?あのバスケ馬鹿が?」
ばあちゃんの口から出た予想外の一言に、私は思わず素っ頓狂な声をあげた。
龍我は、バスケが大好きな父親、つまりは私の叔父の影響で、中学校の頃から夢中になってバスケをしていた、バスケ大好き人間だ。部屋には今でも、マイケル・ジョーダンの大きなポスターが天井に貼られているはず。それがどうして…?
キラッキラの笑顔で、楽しそうに部活をしていた中学生頃の顔と、先程の世界に絶望した様な顔がグルグルと頭の中を廻る。
閉められた扉の向こう側に、ベッドの上でボールを抱きしめるあいつの姿が、見える様な気がした。




