七十五、謎の女性
『また来たのかい?何回来たところで、あんたは生者の世には戻れないよ。』
川の向こう側から現れた女性に、たつえさんはそう声をかけた。
その言葉に、女性は悲しげな笑みを浮かべる。
緩くウェーブのかかった茶髪が印象的な、儚げな女性。
『前から言ってるじゃないですか。そんなつもりで来てる訳じゃないです。ただ…。』
その時、何かが入った訳でもないのに川の水面が揺らいだ。
それと同時に、ドクンッと私の心臓が跳ねる。
突然のことに驚き、片膝をつく。
「っ!?…な…に?」
全体へ広がっていく波紋。
強く風が吹き、巻き起こる花吹雪に思わず目を瞑る。
ーーはよ戻ってきぃ。
「!?」
聞き慣れた優しい声が、頭の中に響く。
花吹雪から顔を守りながら、そっと目を開ける。水面には陰陽神社の一室で布団に横たわる私と、その左手を祈るように握りしめ、心配そうに私を見つめている恭士さんの姿があった。
「恭士さん…。」
『どうやら、お戻りの時間のようだね。』
後ろを振り返ると、たつえさんがニコリと微笑んでそう言った。
そっか…私、元の世界に戻れるんだ!
直感的にそう分かり、安堵して顔を正面に戻すと対岸にいた女性とバッチリ目が合う。
「…え?」
優しく微笑む彼女の頬を、ひと滴の涙が伝う。
風の音で良く聞こえないが、私に向かって何かを叫んでいる。
『ーー!!!』
「…っ!」
一段と強く風が吹き、花の渦が私を包み込む。
視界が花吹雪に遮られ、次第に女性の姿が見えなくなっていく。
最後に見えたのは、右腕を伸ばした私に、優しく手を振る彼女の姿だった。




