七十二、格が違う
「…優菜、か?」
ウチの呟きに、狐は口元に手を置いてクスリと微笑んだ。
〈ふむ。上手くいった様じゃな。…何を鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしておる。わらわは正真正銘、紡殿のよく知る慶雲寺優菜じゃ。〉
「…またむちゃくちゃなチート陰陽術開発しよって。」
状況を理解したウチは、そう言って苦笑いした。
「で?どう事情が変わったんや?」
〈紡殿も薄々は勘付いておろう。あの化け蛇…どうやらわらわにしか倒せぬらしい。少々残念じゃが、怨念集めはお預けじゃ。〉
「ふん…。それで?どうするんや?」
笑みを浮かべてそう尋ねると、優菜は愉快そうにウチへ微笑み返した。
〈決まっておる。こんな楽しいお遊びの当事者になれるなど…願ったり叶ったりじゃ。〉
優菜は腕を持ち上げ、暴れ回る大蛇を囲む様に狐火を放った。
『馬鹿め!それは私には効かぬと…。!?』
大蛇は自分の出した炎で、再び狐火を呑み込もうとしたが、狐火は逆に赤い炎を呑み込み、一回りも二回りも大きくなった。
その様子を見て、優菜はニヤリと笑みを浮かべる。
〈何を驚いておる。術者がわらわに変わったのだから、わらわの力が上回ることなど当たり前じゃろう。〉
『な…に?』
〈蛇よ。わらわはここ最近、もっと駒が欲しいと思っておったのじゃ。わらわの命に忠実に従う駒がの。丁度良い機会に現れてくれたこと、感謝する。〉
『駒…だと?』
青白い炎の中で、苦しみ悶えながら大蛇は必死に抵抗する。
〈無駄じゃ。やめておけ。お主の炎では、才蔵の炎を上回ることはできん。〉
『何を…つい先刻の出来事を否定する気か!』
〈それは選ばれし陰陽師の制限があるが故。お主の赤き炎は…せいぜい1800K。才蔵のこの青き炎は、およそ16000K。お主が先程言った様に、格が違うのじゃよ。〉
『なっ…。』
〈わらわがこやつを手放さぬのは、戦闘能力、知力、適応能力が非常に優れておるからじゃ。私が使えぬ駒を、わざわざ数十年たもとに置いておくように見えるか?〉
『ひっ…!』
〈祓い給い、清め給え。〉
炎に囲まれ逃げられなくなった大蛇に向かい、悪そうな笑みを浮かべた優菜が手をかざす。
〈神ながら護り給い、幸え給え。〉
優菜の掌の前に五芒星の描かれた円が浮かび上がり、現れた五芒星がぐるぐると回転する。
〈六根清浄。〉
五芒星の印が光り彼女の手の中に、不思議な形をした水晶が現れる。
〈急急如律令!〉
ドッという衝撃と共に、五芒星の描かれた円が大蛇へと飛んでいく。
『ッ…ギャァァァアアア!!!!!!』
叫び声と共に大蛇は爆散し、キラキラと光を放ちながら、空を覆っていた黒雲を払い退けた。




