七十一、予定変更
熱気と障気が充満する寺の敷地内、怒り狂った大蛇が才蔵を追いかけ、炎を撒き散らしながら暴れ回っていた。
ウチは少しずつ慎重に気配を殺していき、大蛇の意識から自分の存在を消した。
才蔵が大蛇の炎を避けるために飛び退き、その角度や距離が自分のいる方向から見て、小瓶の蓋を開いても才蔵を吸い込まないベストな塩梅になった瞬間、小瓶の蓋を一気に開いた。
ーービュォォォオオオ!!!!!!
『っ…!』
大きな音とともに突風が巻き起こり、大蛇から放たれていた障気がみるみる吸い込まれていく。
しかしここですぐ、違和感を感じた。
吸い込まれるのは障気ばかりで、大蛇の方が微動だにしない。
そうこうしているうちに、大蛇が紡の存在に気がつき方向を変える。
『何を…やっておる!!!』
滑る様に地面を這い、迫ってくる大蛇から急いで距離を取る。
「ちっ。おい才蔵!自分ウチに不良品渡したんとちゃうやろな!?」
『失礼ですね。流石の私もこの状況でその様な嫌がらせは致しませんよ。』
〈ふむ…。どうやら予定を変更した方が良さそうじゃな。〉
「『!』」
突然優菜の声が耳に入り、辺りを見回した。
〈ここじゃ、ここ。〉
声のする方を見てみると、才蔵の首筋に人の形をした和紙、形代がへばりついていた。
「おまっ…。」
『お嬢様…。ついて来るなら一言仰って頂きたいものですね。』
主人の目があることに気がついた才蔵が、普段の付き人としての振る舞いを正し、澄ました顔でそう告げた。
〈かたいことを言うな。必要が無ければ、こうして出張るつもりも無かったのじゃが、事情が変わったのでな。〉
「どういうことや。」
〈まぁ説明は置いといてじゃ。才蔵、とりあえず体の主導権をわらわに寄越せ。〉
『なっ…ちょっ…ぅ。』
優菜の声が聞こえていた形代が光を帯び、才蔵の体に沈み込んでいく。
才蔵の小さな抵抗の声の数秒後、才蔵の体から妖気とも霊気ともつかぬ風が解き放たれた。ゆっくりと開かれた才蔵の瞳は、元々の銀色ではなく、どこまでも深い、闇夜のような漆黒に変化していた。




