六十八、才蔵
両側に並ぶ、古き好き商店街の街並み、寺に続くにしては、そう長くない階段。
初夏の日差しが、もう春は終わりだと言わんばかりにギラギラと照り付けていた。
ウチは優菜に言われて、才蔵と共にとある寺へ向かっていた。
「ったく。優菜も人遣い粗いなぁ。手伝えとか言うといて、自分は来る気始めっから無かったやんけ。」
ぶつぶつと文句を言いながら、階段の1段目に足をかける。
『お嬢様は完全なインドア人間ですからねぇ。このような日の元に出ては、すぐに体調を崩してしまわれます。来なくて当然ですよ。その方が、私も安心できます。』
後ろを歩いていた才蔵は、眼鏡をくいっと持ち上げながら笑みを浮かべてそう言った。
「はっ。どの口が言うてんやろなぁ。本音やと、さっさと死んだ方がええと思っとるくせに。」
『失礼ですね。相変わらず才賀家のお嬢様もお人が悪い。』
会う時はいつも、才蔵はわざと家の名前を出してウチを不快な気分にさせていた。
才蔵は、幼き日の優菜に倒された狐の妖怪、優菜に契約を結ばせられた悪行罰示式神だ。
自分の姿を見ることができた、まだ幼少の優菜を化かすべく、それまで他の人間にしてきた様に彼女に近づいたところ、強力な新陰陽術の実験台にされ返り討ちにあったという、哀れな化け狐。
何の罪悪感もなく、危険な陰陽術を無邪気な笑顔で使用、開発する、サイコパス幼女と出会ってしまったことが運のツキ。
以来、三十余年の長きに渡り、優菜との契約で悪行罰示式神をしている。
一時期どうにかして契約を無効にしようと試行錯誤し、優菜に楯突いていたこともあったらしいが、どれも上手く事が運ばず、程なくして諦めた。結果、優菜に対する不満とストレスにより、元々ひねくれていた性格がさらにねじ曲がり、今の形になったらしい。
『さ、とっとと終わらせてしまいましょう。』
2人で階段を登りきり、たどり着いた仁王門の先には、少々不穏な空気が漂う葉桜と本殿が並んでいた。




