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六十五、呑気
『お嬢様。例のご友人がお見えです。起床していただけますか?』
ウチは化け狐に連れられ、本来待ち合わせをしていた友人が、現在住まいとしている持ち運び家屋、『水仙荘』へとやってきていた。
『水仙荘』は、陰陽術研究ヲタクの優菜が、陰陽術で独自に開発した持ち運びできる家屋であり、霊力のないものにその姿を見ることはできない。
縁側から化け狐が声をかけると、眠たそうな声が聞こえてきた。
「ん〜…もうその様な時間か?」
『えぇ。もうとうの昔に。』
人を待たせていることをまるで気にしていない様なのんびりさで、障子の奥からもそもそと着替えている様な音が聞こえる。
「ん…おかしいのぉ。才蔵、帯が見当たらぬ…。」
障子の奥から聞こえるのんきな声に、男化け狐がふうっと小さなため息をついた。
『入っても…?』
「おぉ…構わん。」
『では。少々お待ち下さい。』
化け狐がウチに軽く会釈をして障子の奥へ入ると、それから10分程して障子が開き、2人はウチの前に姿を現した。
「久しぶりじゃのう。紡殿。御機嫌麗しゅう。」
目の前にあったのは、日本人形の様な長い黒髪に品のある濃い紫色の着物を纏った、いつもの友人の姿だった。




