六十四、待ち合わせ
よく晴れた日の朝、ウチはある人物と開店直後で人の少ない食事処で待ち合わせをしていた。
相手は今回の探し人、千晶にかけられた呪いを解ける可能性がある古い友人、慶雲寺優菜である。
待ち合わせ時間6分前、ガラガラっと木製の扉が、音を立てて開いた。
音の方向に視線を向けると、見覚えはあるができれば会いたくなかった、待ち人とは別の人間が店内へ入ってきた。
恐らく目立たぬよう私服で来たのだろうが、きっちりとした着こなしや立ち振る舞いで、どこか浮世離れした雰囲気を醸し出している。そいつは滑るように店内を見渡すと、紡を見つけるなり不敵な笑みを浮かべて近づいてきた。音も立てず、優雅な足取りで近く姿には隙がなく、少々気味が悪い。
『遅れて申し訳ありません。以前のあなたは、いつも時間に遅れて来ていたことを踏まえて、少しばかり遅めの到着になるよう支度を済ませたのですが、お待たせしてしまったようですね。』
その男はニコリと貼り付けたような笑みを浮かべると、右手の中指でクイッと眼鏡を上げた。
「ウチが待ち合わせしたんは、優菜とのはずや。お前やあらへん。」
遠回しな嫌味に苛立ち、やや乱暴にそう言った。
『生憎、お嬢様は昨晩まで徹夜で研究に没頭しておりまして、3時間ほど前に就寝したばかりなのですよ。起こしてしまっては可哀想でしょう?』
「ちっ…まだあいつはそないな生活しとるんか。相っ変わらず自由奔放やな。悪いけど叩き起こさせてもらうで、こっちは時間が無いんや。はよせんと手遅れになる。さっさとウチに居場所教え。」
『おや。才賀家のお嬢様は、人にものを頼む時にそのような態度を取れと教育されたのでしょうか?そのようでは、一体どこの家の出かと品位を疑われてしまいますよ?』
「すまんなぁ。この場の一体どこ《・・》に人がおるか分からんかったさかい。教えて貰えるか?」
人を挑発するような男の台詞に、挑発し返すような言葉を返す。
『おやおや。才賀家のお嬢様もお人が悪い。目の前にこうして立っているではありませんか。』
紡はガタンと音をたてて立ち上がると、男の喉元に呪符を突きつけ、低い声で言った。
「御託はもうええ。お前に付きおうとるのは時間の無駄や。さっさとしろ。」
男はわざとらしく両手を上げ、卑屈な笑みを浮かべる。
『ええ。初めからそのつもりでここに参りましたよ。どうぞ、私について来てください。』
「…この化け狐が。」
ギロリと男を睨みつけ、吐き捨てるようにそう言った。




