六十三、苦しみ
「う…。」
視界が霞んできた…。体が熱い。やばい…。
ぼんやりとした頭でそう考えていると、突然ひんやりした物が額に当てられた。
冷たくて気持ちがいい。
少し考えられる余裕ができた頭で、看病してくれている人物に礼を言おうと、視線を彷徨わせる。
程なくして心配してくれているような、気まずそうな複雑な顔をした恭士さんと目が合った。
「っ…ありがとう…ございます。」
「あ…あぁ。」
ふいっと、すぐ目を逸らされた。
やっぱり…言うこと聞かないで、動いてたからかな。
怒るの通り越して、呆れられたのかな…。
なんだかもう、色んな気持ちがない混ぜになってぐちゃぐちゃだ。
「っ…千晶?」
「っ…あ…。」
図々しくも、目元からすーっと雫が流れていった。
「ごめん…なさい。大丈夫です。」
「っ…どこが大丈夫やねん。」
謝罪の言葉を口にするとと、恭士そんは眉間にシワを寄せながら、少し強引に、それでいて優しく私の目元を拭った。
「謝んのは…俺の方や。スマン。」
「なんで…恭士さんは悪くない…。」
「助けに行くん遅れたのは俺らや。せやのについ…感情的に冷たいこと言うてしもたし、千晶がこない苦しそうなのに、俺にはなんも出来ることない。俺は…悔しい。」
ぎゅっと胸が苦しくなった。
気持ちが張り詰めているのか、私の涙を拭った恭士さんの手はひんやりと冷たかった。
「じゃ…怒ってないんですか?」
布団から片手を出し、恭士さんの腕を軽く掴んだ。
「怒ってへん。怒っとるとしたら、なんもできん自分自身にや。」
「そんなこと…ないです。私のこと、皆が真剣に心配してくれてるって分かって…私は幸せです。それに今…恭士さん、側にいてくれてるじゃないですか。」
そう。変に考えを巡らして、時折計算ずくで行動している私なんかを、みんな真剣に…。
私は恭士さんの腕を掴んだ手に、少し力を込めた。
「近くにいてくれるだけで…ここで終わってたまるか…死んでたまるかって…思えます。」
こんな中途半端な気持ちで、思わせぶりな態度をとった所で、終わりにしてなるものか。
ちゃんと元気になって、変な距離の縮め方はやめて戻らないと。少し恋愛対象として気になる存在から、ただの大切な仲間の1人に。
だから…、これで終わりにするから…。
「ちょっとだけ…手、握ってていい…ですか?」
「あぁ。…いくらでも。」
腕を掴んでいた手は恭士さんの掌の方へ移動し、きゅっと優しく握り返された。
ははっ…、これじゃ、本当に好きになったって…勘違いしそうになるな…。ただのシンパシー…なのに。
目蓋を閉じると、再び瞳から雫が流れ落ちていった。




