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六十一、無力
「…っ。」
千晶ちゃんの元に氷水を届け、雑木林へと戻った私は己の無力さに打ちひしがれていた。
拳心君は私が戻るのを待ちきれなかったらしく、姿が見えない。おそらく自分の通っている道場へ行き、再び1人での修行を再開しているのだろう。ここにいるのは私のみだ。
「くそっ…。」
木の幹を拳で強く叩き、ぐっと唇を噛み締める。
その時、目の前を桃色の花びらが通りすぎ、ふわりと甘い香りがした。
「…。」
『よせ…傷がつく。』
「!」
ハッとして顔をあげる。誰かが頬に手を添え、口元を指でそっとなぞった。その一連のやりとりで、噛み締めていた唇の力が緩む。目の前に立っていたのは、赤い長髪を高い位置で束ねた青年、ジョバンニだった。
自分がいたはずの雑木林は無くなり、代わりに走り回るととても気持ち良さそうな、青々とした大草原が広がっていた。




