五十八、猪突猛進
「っ…!」
「?」
俺は、自分たちに飛びかかっていた若葉の目の色が、急に不安定に変わっていることに気がつき、動きを止めた。
若葉は苦しげにもがき、その動きを鈍くする。
はぁはぁと肩で息をしながら口を開き、途切れ途切れに言葉を発した。
「っ…拳心…さんっ。上手く、避けてください…ですっ!」
状況を察し、素早く守りの体制に入る。
「陰陽戦術、亥の刻。」
ポンッと鼓の音がして、太陽と月が回転する。真夜中になったかのように辺りが暗くなり、月が若葉の後方で明るく光っている。
若葉の肩に光の粒子が集まり、鋭い牙のようなものがついた鎧が姿を現した。
若葉は右脚を後ろに引き、徒競走のスタンディングスタートのような構えをとり顔をぐっと上げた。
「『猪突猛進』!!!」
若葉はそう叫んで、力強く、爆発的な速度で前方に飛び出した。
若葉の光の牙が、避けようとする拳心の右脚をかすめて真っ直ぐに通り過ぎて行き、その衝撃波で300メートルほど先にある傾斜に2つの大穴が空いた。
「なっ…。」
「うわっ!」
巻き起こる風で、他の木の上にいた茉恋がバランスを崩し、幹にしがみ付く。
「…なんちゅー威力だ。」
ーードサリ。
陰陽戦術を会得し、体力を使い果たしたらしい若葉が、拳心の視線の先で倒れた。
木の上から降りた茉恋さんと、若葉の元に駆け寄る。
「っ、おい。大丈夫か?…って。」
「zzz…。」
「寝てるな。」
「寝てるねぇ。」
やんわりと笑みを浮かべて一つため息をつき、
「ま、ちょっとは寝かせてやるとするか。」
そう言って若葉の横にかがんだ。
土まみれになった三つ編みツインテールの少女の寝顔は、どこか清々しさを感じさせる、穏やかな寝顔だった。




