五十七、あなたを想う
まただ…、あの時と同じ。
空間いっぱいに広がる、画面のような景色。
拳心さんや茉恋さんに、まるで別人のような態度で飛びかかっている自分が見える…。
「…なんだか…疲れてしまったです。」
このまま空気になって、無くなってしまえればいいのに…。
成海ちゃんのところに、行けたらいいのに。
このまま…。
ーーいや。そんな資格さえ…私には…。
『何してんだ?お前。』
突然、懐かしいようで厳しさのあるダミ声が、頭の上から降ってきた。
ゆっくり顔を上げると、両頬に2本、インディアンのような赤い模様が入った長髪茶髪の少年、式神の笹丸が立っている。
その姿は、野生児という言葉がぴったりな、少し荒っぽい雰囲気のものだ。
彼は体育座りで蹲る私の腕を強引に掴み、ぐいっと立ち上がらせた。
「ちょっ…何するですっ。離すですっ。」
抵抗すると、随分威力の高いベッドバッドが私のおでこにクリーンヒットしてきた。
「っ…!」
『お前のするべきことは、何だ?』
痛みでおでこを押さえている私に、笹丸は問いかけた。
『あいつの仇をうつことか?蹲って泣くことか?それとも、この世から消えることか?』
責め立てるように言葉を浴びせられ、胸が苦しくなってくる。
嫌だ…もう、考えたく無い。
体の震えが酷くなっていく。
『変わらねぇぞ。』
「っ…。」
『仇をうとうが、泣き続けようが、お前が死のうが、あいつが死んだ事実も、助けられなかった事実も変わりゃしねぇ。』
「そんなの…そんなの言われなくたって分かってるです!」
『分かってねぇよ!!!』
泣きながら言い返した私の胸ぐらを、笹丸は乱暴に掴んだ。
『分かってたらどうして!いつまでも自分を責め続ける!?何で!気持ちの統制がとれなくなるくらい、自分で自分に牙を向ける!?誰かがあいつの死を!お前のせいだなんて言ったのかよ!!!』
言ってないっ…、でも…でもっ…。
『お前が大好きだったやつは!自分の死をお前のせいにするようなクズだったのかよ!!!』
「違うっ!!!!!!」
反射のように、私は叫んで即答した。
思っていたよりも、大きな声が出た。
肩で息をして、震えているせいで上手く話せない。
「っ…成海ちゃんはっ…自分がしんどくても、皆を不安にさせないようにって…遠ざけられても、我慢しようとするです。…間違っても…誰かを悪く言ったりするような子じゃない!」
『…なら、お前がこうしていつまでも闇に呑まれてんのを、あいつがよしとすると思うか?』
私ははっとした。
「思わ…ないっ…!」
涙を拭いながら、そう言った。
『…それじゃ、改めて聞くぞ。お前のするべきことは…何だ?』
「私は…千晶先輩を助けるですっ!」
そう言った私の目を、笹丸は真っ直ぐに見た。
そして満足げにふっと笑い、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「なっ…何するで…!」
『いいじゃねぇか。…それでよ。』
荒々しい言葉遣いの割に、優しさのこもった声で笹丸は呟いた。
『救ってやれ。お前の手が…まだ届く奴を。』
「笹丸…。」
『生憎俺の陰陽戦術は治癒系じゃねぇけど、それでも、お前にできることはあるはずだ。』
笹丸と私の体が、暖かく淡い光に包まれていく。
『良くも悪くも真っ直ぐなお前なら…。』
馬鹿な程真っ直ぐに、真剣に、深刻に考えてしまう私なら…。
そんな私だからこそ…。
そうだ、私に出来ることって…きっとーー。
光に全身を包まれ、元の世界に戻っていく。
成海ちゃん、今の私は…いったいどんな顔であなたのことを想っていますか?




