五十五、それしかできない
学校再開初日の夜:LINE電話
「成海ちゃん、大丈夫でありますか?」
「うん!平気平気。みんなに移しちゃ悪いし、仕方ないよ!」
「あのっ…!学校で前みたいに近くでお喋りは難しいけど、いつでも電話してきていいでありますからね!」
「…そう?ごめんね。気つかわせちゃって。」
成海ちゃんは、少し寂しそうに笑った。
私はその態度に、少しだけ怒った。
「謝らないでくださいです!私は…私は、大好きな成海ちゃんが不安な時に、そばにいて1番に支えられる友達でいたい!だから…無理に笑ったりしないでですっ!!!」
私の大声に、成海ちゃんがはっとしたのが分かった。
そしてぽつりぽつりと、話始めた。
「…本当はね…お父さんとお母さん、しばらく帰って来てないんだ。」
「えっ。」
「電話はかかってくるの。でも…お仕事忙しくなっちゃってるし、私に移しちゃうと悪いからってことで、帰れなくなってるの。」
「それじゃ…ご飯とかどうやって…。」
「あ、それは大丈夫なの。お手伝いさんみたいな人がちょっと前からやってくれてるから。ただ…ただね…。」
成海ちゃんが、泣きそうな声で言葉を詰まらせた。
「このまま…お父さんとお母さん、帰って来れなかったら…どうしようって…。」
電話越しに、彼女の嗚咽とぱたぱたと雫が落ちる音が聞こえた。
「怖くて怖くて…どうしていいか分かんないよ…。」
見得を切ったところで、この時まだ小学3年生の私には、成海ちゃんにどんな言葉をかければいいのか、分からなかった。
話を聞いて、「きっと大丈夫だよ。」そんな無責任な言葉を電話越しに喋るくらいのことしか、私には出来なかった。
「成海ちゃん。私は成海ちゃんの話を、聞くことしかできないであります。でも成海ちゃんが感じてる不安を、私が聞くことで少しでも軽くできるなら…。だから、もっと頼って欲しいであります。」
「うんっ…ありがとう。若葉ちゃん!」
成海ちゃんが、泣きながら無理のない笑顔になったような、そんな気がした。
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私たちは学校で近くにいられない分、互いを繋ぎ止めるように、毎晩電話で話をした。
私の大切な人が、不安と寂しさで泣いている。
いつか笑顔の彼女と、また学校でアニメの話ができるその時まで、何時間だって電話をしよう。何度だって話を聞こう。私にできることは、きっとそれくらいしかないから…。
しかしその“いつか”は、永遠に来なかった。




