五十二、バトル修行
木の葉が擦れる音だけが聞こえる雑木林の中、1人、目を瞑り仁王立ちしていた拳心君が、突然カッと目を見開き身を翻した。その直後、彼の真横の地面に動き封じの呪符が飛んでいく。
間髪入れずに数枚の同じ呪符が2方向から飛んでいくが、彼はいとも簡単にそれを全てかわしていく。
「さすが格闘技してるだけあるね。気配の察知能力と瞬発力が桁違いっ!」
拳心君は呪符をかわしながら、呪符が飛んできたうちの私側の方に素早く近寄って来る。
「そっちこそ、こっちが追いつけないくらい足早いじゃないっすか。それにっ…!」
拳心君は突然振り向いて結界を張り、反対側から放たれた若葉ちゃんの呪符をはじき返した。
「2人で先に俺をのしちまおうっていうのも、中々考えたんじゃないっすか?」
「さすがに真剣勝負って言っても、あんま酷い怪我させる訳にもいかないからね。となると、強力な攻撃呪術を使った戦いというよりは物理的な力のぶつかり合い、必然的に肉弾戦になる。それで拳心君に勝つためには…。」
「協力プレイの方がやりやすいのでありますですっ!」
足の早い私が逃げ回りながら離れた場所からの攻撃を行い、できた僅かな隙をついて若葉ちゃんが近距離からの攻撃を仕掛ける。
しかし、その考えられた戦法を拳心君は何度も容易く切り抜ける。
「くっ…全く当たらないのでありま…あっ!」
避けられた自分の仕掛けた攻撃の勢いで若葉ちゃんよろめいたその時、拳心君は彼女の突き出された右腕を自分の右腕で掴み、後頭部に右脚で裏回し蹴りを炸裂させた。
「がっ…!」
苦悶の表情を浮かべ、前のめりに倒れる。
その勢いで彼女がかけていたメガネが外れ、地面に転がった。
「一応加減はしたぜ。まだまだ甘ぇ…ん?」
勝負あったと思っただろうその時、拳心君は背後から尋常ならざる気配を感じたらしく振り向いた。
「殺して…やる…。殺してやる…。殺してやる。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す!!!」
視線の先で、闘気のような殺気のようなものを纏った若葉ちゃんが、ゆらりと立ち上がった。
「…よくも…女の頭をそんな乱暴に蹴り抜けるもんだなぁっ!」
ゆっくりと顔を上げた若葉ちゃんは、今までに見たことのない、まるで別人のような怒りの表情を浮かべていた。
「…やっぱりでやがったか。」
拳心君は冷や汗を垂らして苦笑し、私は困惑していた。
「何…?あの顔は…あの子は…。」
歯軋りをし、凶悪な表情をした若葉ちゃんが、そこに立っていた。
「メガネ外して中二病みてぇな言葉遣いになった時に、時々見えたんだよな。ふとした瞬間に…この面がよぉ。」
「この俺を引きずり出しやがって…地獄で後悔しても、おせぇからなぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!」
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私には、大切な親友がいた。
…3年前までは。




