四十八、自分ばかり
「…露草。」
『何?』
拳心が立ち去って風の音だけが辺りに響く外、俺は露草に声をかけた。
胸元のペンダントが光り、中からキラキラと輝く羊、露草が現れる。
艶のある羊毛が月の光を反射して、少し眩しく思えた。
「今の俺…お前からどう見える?」
随分と漠然とした質問をしまったと思う。
しかし露草は、少し困った顔をしたものの真剣に答えを返した。
『ふわふわしてる…かな。』
「…そか。」
自分から話を振っておきながら、無責任な沈黙を作る俺に露草は文句も言わない。
昨日、今日と気まずくなってしまった千晶とのやり取りを想う。
自分が本当に言いたかった言葉は、世界の守り手としての自覚を持て、というような言葉ではなかった筈だし、本当は話しかけるのを避けたい訳じゃない。
きっとこれは、自分の中で気持ちの整理がまだ出来ていないから。
千晶のおかげで、千紘について心に抱え込んでいた闇のようなものが、ずっと染みついていた憑物が取れた。
橋姫の一件で、我を忘れた自分を現実に引き戻してくれた千晶には感謝しているし、信頼感のような何かを抱きはじめた自覚はあった。千晶がいなければ、きっと楽器をまた始めることもできなかった。
最近は千晶の突然の行動に驚かされてばかりで、気がつけば、もっと千晶のことが知りたい、もっと自分のことを知って欲しいと、思うようになっていた。
長々と死んだ彼女のことを引きずっておいて、もうこんな気持ちになるのかと、自分に呆れもした。
それでも、後ろを振り返ってばかりでは意味が無い。これも自然な流れかと、受け入れるつもりでいた。
そんな矢先、突然現れた同業者の敵により負傷した千晶の傷は、これまでのように治ることはなかった。それどころか、本人は隠していたが、どんどん広がっているようだった。恐らくは、呪いの一種。このままでは…。
千晶の姿がふとした瞬間に千紘と重なって見えて、恐ろしくなった。
結局のところ、長年抱えていた憑物は落ちていない。
今の自分は、勝手に千紘の幻影を千晶に見出して、ふらふらしているに過ぎなかった。
改めてそう自覚してしまえば、千晶にどう接していいのか分からなかった。
「こんな時でさえ、俺は自分のことばっかしやな。」
自分自身に目一杯の皮肉を込めて、そう呟いた。
自身で放ったその言葉に、思いの外気持ちをえぐられたことに、尚更腹が立った。




