四十五、気配り
「どうしたらいいんでしょうねぇ?」
「人ごとみたいに言ってんじゃねぇよ。」
私は再び障子の隙間から、月を見上げた。
「恭士さんたちって、もう帰りました?」
「…多分な。」
拳心さんは少し考え込むようにして答えた。
「…恭士さん、怒ってました?」
「…機嫌良くは無かったな。」
「そうですか…。」
私は物憂げな表情で黙ると体を起こし、ペットボトルのお茶を口に運んだ。その瞬間、唐突に拳心さんがとんでもないことを言い出した。
「なぁ。お前生見さんのこと好きなの?」
「!?…っ!ゲホッ…ゲホッ…!っ…いきなり何言い出すんですか!お茶噴き出すとこだったじゃないですか!!!」
「汚っ。」
「未遂です!」
何の脈絡も無しに、しんみりとお茶を飲んでいる最中に何を言い出すのか。相変わらず、少しデリカシーに欠ける先輩である。
「いや、ふと気になっただけだ。ただお前、部活で怪我した後の荷物持ちで連れてたやついたから、あいつが彼氏じゃねぇのかなって思ってよ。」
お茶を飲み直し、キャップを閉めながら答えた。
「あぁ。輝は彼氏じゃなくて腐れ縁ですよ。まぁ、本来の学校生活だとかなりの時間一緒にいるので、彼氏だと思われることは確かに多いですけど。というか、拳心さんも恋バナなんかするんですね。」
意外だと笑った。
「今回はたまたまだ。それこそ、最近のお前らよく一緒にいるし、仲良いなと思ってよ。」
「相変わらず、人のことよく見てますね。」
空手部でキャプテンを務めただけのことはある。自然と周りの人間に気を配る術が、身についているのだろう。
その気配りの上手さといいストイックさといい、彼が在学していた時はまるで超人のように見えて、こんな空手以外の話をする日が来るとは思ってもいなかった。
「まぁ、言いたく無きゃ言わなくていい。そっちの部屋にいるから、何かあったら声かけろ。」
拳心さんはそう言って立ち上がると、「おやすみ。」の一言を残して、私のいる部屋から出て行った。
障子はやはり、3cmほど開けて行ってくれた。




