四十二、暗躍者
『沙羅双樹』。12世紀頃に誕生した、陰陽寮以外での陰陽師活動を生業とする、民間陰陽師の無法集団。目的のためなら、呪殺に手を染めることも厭わない、闇の陰陽師。当時国に敷かれていた律令制により、御法度とされていた陰陽寮以外での陰陽師活動を行い、陰陽寮の者ではない官僚や貴族と私的に繋がることで、政治を操った暗躍者たち。
「尚、彼らの登場以降、陰陽寮内の"正式な"陰陽師たちまでもがその風潮に流されるようになった…。」
『沙羅双樹』に関する記述は、その一行で終わっていた。
「皆に知らせましょう。仙太郎さんに聞いたら何か思い出すかも…。」
私は顔を上げ、振り返った。
「すまんな。残念ながら、この数百年間『沙羅双樹』を名乗る集団と見えたことは無い。」
「うおっ!?」
「うわぁぁぁっ!っ…いてて…い…いつ戻ったんですか?」
一体どの辺りから話を聞いていたのか、私と茉恋さんのすぐ後ろに仙太郎さんが立っていた。
後に続いて、他のメンバーもぞろぞろと鳥居をくぐって戻って来る。
「今し方だ。丁度『子』の陰陽師が見つかったからここ戻るようにと、連絡しようとしていた。」
「うわぁぁぁっ!」
仙太郎さんが言い終わるや否や、男性の情けない叫び声と派手な音が聞こえた。
呆れたような顔の仙太郎さんの横から顔を出すと、少し脱色したような黒髪、分かりやすく言ってしまえばグレーの髪色をした青年が、地面に頭をめり込ませていた。
なんとも言えない表情で、茉恋さんと顔を見合わせる。
「あいつだ。」
青年は顔を真っ赤にして、ガバッと起き上がると、
「あ…こんにちは。那須川風磨です。よろしく…お願いします。」
風磨と名乗った青年は、へへっと苦笑いをして、左頬を指で掻いていた。




