三十四、八つ当たり
「何かあったか?」
「いえ。精々警察がピリピリしてマスコミがうじゃうじゃいるくらいであります。昨日の鼠が今どこにいるのかも分かりません。」
「そうか。」
比叡山に戻った俺は、予備の眼鏡をかけた若葉たちの元に合流した。
「恭士さんこそ、何かありましたですか?先ほどより顔色が優れないように見えますです。」
「…気のせいやろ。」
そんなに分かりやすく顔に出ていただろうか。なるべく悟られないように、さらりと返事を返した。
「どうでしたですか?千晶先輩の具合…。」
若葉に恐る恐る尋ねられ、俯き加減で少し考えながら答える。
「…本人は『大丈夫や。』って言うてる。せやけど、そんな訳あらへん。」
ついさっき会ってきた少女の様子をはっきりと思い出す。へらへらと笑ってはいた。しかし、本人が気がついているかどうか知らないが、ちょっとした動きをする度に眉間にシワが寄っていた。
無理してんのがバレバレやねん…ボケ…。
「まったく…最初の頃はピーピー泣き叫んどった癖に、いらん我慢覚えよって。」
痩せ我慢が見え見えやと、悔しさでため息が漏れた。拳を堅く握る。
なんもできひん自分に腹が立つ。
あんなん…ただの八つ当たりや…。
「あのっ…!」
唐突に、後ろからがさがさと音がした。草をかき分けて、1人の若い男が突然声をかけてくる。
神妙な顔つきで現れたその男をよく見ると、それは見覚えのある顔だった。
「あんた…ラーメン屋の…。」
「あなたたちですか?何かの仲間を探してる陰陽師って。」
「!」
一瞬にして思考が切り替わり、顔が強張る。
「あっ!いえ。別に邪魔しようとかそんなんじゃ無くてっ…!」
男は慌てた様子で、眼前で両手をふった。
敵意は無いと必死に伝えようとしている顔だった。
「なんかよく分かんないんですけど…昨日の鼠、僕がやっつけちゃったみたいなので。」
「…は!?」
突然現れた男の発言に、その場合にいた者たちがコロコロと表情を変える。
「えっと…穏便にお話させて貰えると、ありがたいです。」
男は少々申し訳無さそうに、頬を指で掻いて言った。




