三十三、足手纏い
延暦寺が崩壊してしまった翌日、『子』を式神とする陰陽師の仲間も未だ見つからないまま、私たちは一旦近場の宿に引き返して来た。
今までがあまりに順調すぎたのかもしれない…。
縁あるものは引かれあう。とはいえ、自分たちがそれぞれの地を訪れたタイミングで丁度仲間が見つかるという、これまでの話が出来すぎていた。
そして、仲間がすんなりと見つからないことの他に、もう一つ問題があった。
「…ごめん。」
「あっ…謝らないで下さい!元はと言えば私が捕まったのが悪いんだし、仕方ないですって!」
「けど…!」
朝の日差しが差し込む宿の一室。私の目の前で、茉恋さんが悔しそうに下唇を噛み締めていた。布団から上半身を起こして座っている私は、茉恋さんのその様子におろおろしていた。
今他のメンバーは引き続き仲間の捜索と、今回の件に絡んだ『沙羅双樹』についての情報収集に出払っている。
私の着ている寝巻きの袖から、ちらりと見える手首には火傷の跡が残っていた。
織雅がいなくなってまもなく、茉恋さんが私を治療しようとした際に分かったこと。それは、陰陽術によってつけられた傷は、茉恋さんの力で治せないということだった。
事情が事情であるため、病院に行くという選択肢は無い。皮膚と服が癒着した部分を剥がすこともできないため、刺激しない様切りとり、冷やすくらいの手当てしか出来なかった。
「私昨日、考え無しに行動しちゃって死ぬかもしれなかった訳ですし。生きてただけ儲けもんですよ。」
実は結構痛いけど、これ以上心配かけたくない。なるべく明るく聞こえる様にへらへらとそう言うと、部屋の戸を数回ノックする音が聞こえた。
「入ってええか〜?」
「あ、どうぞ〜。」
もう書き慣れた関西弁に返事をすると、声の主が戸を開けて部屋に入ってくる。
「具合はどうや?」
「あぁ。動くとビリビリしますけど…まぁ我慢できなくは無いですかね。もうちょっと休んだら、他の皆と合流して仲間探…。」
「アホか。」
今まで聞いたことの無い、偉く冷たい声で恭士さんがピシャリと私の言葉を遮った。
その言い方に、私と茉恋さんは驚きで目を丸くする。
「戦場での怪我人は足手まといや。今回はそれを言いに来た。」
「…っ。」
「俺たちは、きたるべき大災厄の時に12人全員が揃ってなあかん。それなのに、その時が来る前の戦いで死にましたなんてことになってみぃ。誰が世界を守んねん。」
「ちょっと!そんな言い方って…!」
「分かりました。」
反論して立ち上がろうとした茉恋さんの袖を掴み、静止する。
「千晶ちゃん?」
「いいんです。茉恋さん。私は…私たちは大災厄を止めるために集う仲間。目的を見失う訳にはいきません。皆を必要以上の危険に、晒したくはない。」
この時の私の声は、少々上ずっていたかもしれない。
意を決した様に顔を上げ、恭士さんを真っ直ぐに見る。
「しばらくの間、皆さんに任せます。だから…。」
恭士はさんは私の視線を、しっかりと受け止めた。
「私が足手まといじゃ無くなるまで、絶対死なないで下さい。」
「…あぁ。」
恭士さんは少しの間の後、短い返事を残して部屋を後にした。




