二十六、拉致
「う…ん。」
…ん?ここ…どこ?
意識を取り戻し、ゆっくり目を開けた。私の眼前には、薄暗く広い和室が広がっている。
もぞりと体を動かすと、まるで寝違えた時のように、上半身の関節という関節に、鈍い痛みがある。というか、そもそも体が思うように動かない。
自分の置かれた状況が分からない時ほど、意外にも人は冷静になるものらしく、周りや自分がどのような状態になっているのかを、一つ一つ確認した。
どうやら自分は、パイプ椅子に縛りつけられているらしい。恐らくは、ガムテープで。手首が後ろで縛られているが、腕が短いのを無理矢理パイプ椅子を挟んで縛られているせいなのか、肩が痛い。どうにかして抜け出せないかと考えてみるが、薄らと見えるガムテープの数カ所に、呪符のようなものが貼られていた。下手なことをしたら危険、そう感じた。
「あ…気がついたかな?」
前方から、キィキィと何かが揺れる音がする。ふっと息を吐く気配がした瞬間、いつから置いてあったのか分からない、足元から2列になって3メートルくらい真っ直ぐ並べられた行灯に、連鎖反応のように火が灯っていった。
「陰陽術を使わなかったのは賢明な判断だね。もし君がこの場から脱出しようと陰陽術を使っていたら、君の体は灰になっていた。」
やけに綺麗な高音の、落ち着いた男の声。その声の主は、行灯の先でこの場に不釣合いなロッキングチェアに揺られ、薄暗い和室の中で分厚い洋書のページをめくっていた。
「今の反応からすると、君たちが陰陽師なのは間違いないみたいだね。」
「だっ…誰なの!?」
「それを聞いて、君はどうする訳?」
男は、対した興味は無い、とでも言うようにただ本を見つめ、時折ページをペラペラとめくっていた。
「どうって状況を確認…いやいや!ていうか何で私のこと縛って、こんな訳わかんない場所に拉致してんの!?若葉ちゃんはどこ!?何でこんなことされなきゃ何ないのよ!?そもそもこっちが先に質問して…。」
「煩い。」
「っ…あぁぁぁあああああっ!!!!!!」
男が感情の感じられない冷め切った声でそう言い放つと、ガムテープに貼られていた呪符の一つ一つから炎が現れ、私を襲った。
「痛いんだろうね。火傷って。皮膚が爛れて衣服と癒着し、衣服を無理に脱がそうとすれば、皮膚が剥がれる。今自分が置かれている状況を、もう少し理解した方ががいいよ。」
「っっっ…!!!」
なんなのっ…こいつ!
男はそう言うと無表情のまま本を閉じ、私に向かって歩いて来た。
「まあ、君が煩くしないって約束できるなら。」
男は、歯を食いしばり下を向いて痛みに堪えていた私の顎を掴み、グッと上を向かせた。
男の手のひんやりとした感触に、一瞬体がビクつく。
「僕の喋れる範囲で、教えてあげてもいいよ。」
初めて目が合う。綺麗な高音で話すその男は、女性と見紛うほどえらく端正な顔立ちで、現実味に欠ける、感情の無い瞳で私を見下ろしていた。




