二十四、迷子
「うわぁっ!すごいな。」
「キャー!凄いであります!ここぞ聖地でありますです!!」
「あ、こら。若葉ちゃん、ちょっと待って!」
私は嬉しさで暴走気味の若葉ちゃんの保護者として、延暦寺を訪れていた、
雲一つない青空に、お堂の朱色が良く映えている。
境内を跳ね回り、先へ先へと進んでしまう若葉ちゃんを落ち着かせることに悪戦苦闘しながら、地図と睨めっこする。
「んん?今うちら一体どこにいるんだ?東塔?西塔?んんん…分からん。」
あれ…?もしかしてヤバい??迷子?
ぼそぼそと呟いていると、先へ先へと進む若葉ちゃんが、心底楽しそうに私を呼ぶ声がした。
「千晶さーん!はーやーくー!」
「あーもう!恥ずかしいからもうちょっと落ち着いてよ!こっちは迷子…になっ…てないよ?うん。なってないなってない。」
「え?」
「え…?」
2人の間に流れる空気が固まった。
やだ、そんな顔しないで?気のせい気のせい…。
「千晶さん…今何と?」
「え…えと…恥ずかしいからもうちょっと落ち着…。」
「その後です!」
「ま…迷子に…。」
「迷子に…?」
「なり…ました。」
「…えぇ!?」
ナイスすぎるオーバーなモーションをつけて、若葉ちゃんが全身で驚く。ツインテールが激しく揺れる。
うん。嘘ついた。ごめんなさい。迷子です。
「ごめんっ!うち地図読めない人なの!」
「ど…どうやって皆さんのところに帰りましょう!?」
「だ…大丈夫!文明の利器なり式神を使えばきっと…。」
スマホを取り出して、茉恋さんに連絡を試みる。
ちなみに、G○ogleマップさんを使っても、私はよく迷っているので、当てにならない。そのレベルで、私の方向音痴は筋金入りである。
「すいませぇん。」
若葉ちゃんとは別の意味で落ち着きを失っていた私の背後から突然、やけに不自然さを感じる高音で声がかけられた。何の音も、気配もなく。
ーーゾクリ。
背筋に悪寒が走り、冷や汗が頬を伝う。何故だかは分からない。だが野生的な本能が、全身に張り巡らされた神経の全てが、後ろにいる者は危険だと強く知らせていた。
背後を取られるまで感じなかった圧が、こんなにも…重い。
向かいあっていた若葉ちゃんも、何かを感じ取ったらしく、青ざめた顔をして私の背後を見つめていた。
「っ…!」
「君たちが…。」
男が喋り始めると、背筋を駆け抜けた悪寒がより強いものへと変わる。
「若葉ちゃん!走って!」
ーードンッ。
衝撃。
何が起こったのか…分からない。
自分も走り出そうとした刹那、背中に走っていた悪寒が激痛に変わり、急激に意識が遠のいていく。
「千晶さんっ!」
「あーあ…。逃げないでちゃんと話聞いてくれる?」
視界が霞んでいき、体が前のめりに崩れ落ちていく。
「僕らの探してる陰陽師が君たちか、確認したかっただけなんだけど。」
薄れゆく意識の中、気合いと意地で身体を捻り、男の姿を視界に入れる。
無感情な瞳が、私を静かに見下ろしていた。




