二十二、賑やか
「えっ?比叡山でありますか!?」
恭士さんの実家を訪れてから数日後。陰陽神社の拝殿の中で、若葉ちゃんが目を輝かせて、ちゃぶ台の反対側に座っている仙太郎さんの方へ、身を乗り出した。
「あ…あぁ。何故そんなに目をキラキラさせている?」
仙太郎さんが若葉ちゃんの反応に戸惑っていると、彼女は自分の頬を両手で覆い、うっとり顔で語り始めた。
「比叡山と言えば!数年前に再連載を始めた和風バトル漫画の聖地でございますです!はぁぁぁ一度訪れてみたいと思ってはいましたが、こんなに持つ早くその日が訪れるとは!私幸せの極みでございます!早く行きましょう!今すぐ行きましょう!!!」
「い…一旦落ち着け!さしあたって俺たちにも準備というものが…あぁっ!」
「仙太郎さぁん。つ・れ・て・っ・て♡」
「ギャー!!!離れろ!気色悪いぞ!!」
猫撫で声で仙太郎さんにしなだれかかる若葉ちゃんを見て苦笑していると、近くにいた雫ちゃんが私の袖を控えめに引っ張った。
「ん?どうしたの?雫ちゃん。」
「皆さん、いつもこんな感じなんですか?」
「あはは。うん。賑やかにやってるよ。個性的な人多くてちょっと大変だけど。」
苦笑して答えると、雫ちゃんは節目がちに顔を背けた。
その顔を追いかける様に、軽く下から覗き込む。
「どう?新しい生活…。やっぱりまだ大変かな?」
「ごっ…ごめんなさいっ!気を使わせてしまって…。」
まぁたこの子は…。
私は小さくため息をついた。
「雫ちゃん。ちょっとこっち向いて。」
「は…はいっ!って…ふわぁっ!なにふるんへふかひはひふぁん!」
ニヤリと笑い、自分の方へ顔を向けた雫ちゃんの頬を軽く引っ張った。
「だって、雫ちゃん気ぃ遣いすぎなんだもん!いつまでも他人行儀にしてるともっと悪戯しちゃうぞ〜!」
「ふわぁぁあ!」
「うりうり!反応が可愛いぞこのやろう!」
「きゃー!」
「…。」
「…そんで?比叡山に出るかもしれへん式神っちゅうんは、どれなんや?」
表で追いかけっこを始めた私と雫ちゃんを放置し、階段で煙草をふかしていた紡さんが、何事も無かったかの様に、仙太郎さんに話の続きを促した。
「あ…あぁ。『子』だ。ここ最近、古い建造物が次々と崩れ落ち、その被害は、まるで比叡山を目指しているかのように、真っ直ぐ拡大している。断定は出来ないが、怪異譚の舞台として、比叡山はうってつけの地だと俺は思う。」
「ほぉん?んじゃ、とっとと終わらせよか。」
そう言うと紡さんは、階段にグリグリと煙草を押し付けて立ち上がった。
「奴が比叡山に辿り着く前に、な。」




