十六、外の世界
「おじさん?ねぇ、雫怒ってないよ?だから…さ、こっち向いてよ。」
陰陽師となった雫ちゃんが悪霊を祓い、狒々は正気に戻った。しかし、目を覚まし、事情を理解してからは一度も雫ちゃんを直視しようとせず、黙々と壊れたツリーハウスを直していた。
「そ…そうだおじさんっ。何か手伝うことない?雫頑張って手伝…。」
どうしていいか分からず、雫ちゃんが狒々に話しかけ続けていると、作業をしていた狒々の手が、ふと止まった。
『なぁ?雫。』
「な…何?おじさん。」
『その人たちと一緒に…お前はこの街を出なさい。』
「へっ?」
狒々の突然の言葉に、雫ちゃんが驚嘆の声を漏らした。
『今までの儂らには、この街と山という狭い世界にしか、知り合いはおらなんだ。おったにしても、大抵それは味方じゃない。』
何かを思い出すように、しんみりとした表情で狒々は天を仰いだ。
『悪霊に憑かれとったとは言え、儂は数十年ぶりに人を襲ってしもうた。儂と一緒に暮らしとったら、お前への風当たりが悪くなるのが目に見えとる。』
「で…でも私は…今まで通りおじさんと暮らしていたいよ。」
春にしてはやけに冷たい風が、2人の間を通り抜けていく。
『今まで通りには、もうできんのじゃ。』
「あ…。」
振り向いた狒々の表情は、どこか寂しそうで、それでいて安心したようなものだった。
『行け。外の世界に、きっとお前の居場所はある。』
「やだよ…待ってよ!」
「うわっ…!」
ゴウッと突然風の音が鳴り、雫ちゃんを含めた私たちの体が宙に舞う。
「おじさん…おじさーーーん!!!」
雫ちゃんの叫び声が響く中、陰陽師たちは、狒々の風によって山の麓にある神社へ吹き飛ばされた。
『幸せになれ…雫。』
狒々の最後の呟きは、風の音に掻き消された。




