十二、願い
「ただいま…。」
『…おぉ。おかえり雫。』
私が帰宅したのは、山の奥深く。お父さんとお母さんが死んでからずっと住んでいる。知り合いの妖怪、狒々のおじさんがいるツリーハウスだった。
このツリーハウスは元々、お母さんがお父さんに会いに来た時のために作ったもので、お父さんが町に降りた際におじさんに譲られたものだった。2人が亡くなっている今、私はおじさんと共に、ここに住んでいる。
『また何かあったんか?』
雨漏りをしていた屋根の補修作業をしながら、おじさんはそれとなく、穏やかな声音で尋ねてきた。
でも私は、小さく頷くだけで言葉を発しようとはしなかった。
『この前も言ったじゃろう。そんなに嫌な思いしてまで、人里に降りるこたぁねぇ。儂とここで静かに暮らすんじゃだめか?』
俯きながら、部屋の隅にスクールバッグを置いた。
「おじさんとの暮らしも、悪くないんだよ?でも…でも私ね…っ。」
泣きそうになり、その先の言葉が続かなくなってしまう。そんな私を見て、おじさんは小さくため息をついた。補修作業をやめ、私の元へ降りてくると、あやすように背中をさすった。それによって、目に溜まっていた涙が押し出されるように溢れ出す。
信じたかった。お父さんとお母さんのように、半妖の自分とおじさんのように、人間も妖怪も関係なく仲良くなれると。
一緒に遊んで、一緒に勉強して、一緒にご飯を食べて、楽しく過ごすことができると、信じていたかった。
父と母が夢見ていた、街の外にある世界を、いつか堂々と見に行くという願いを叶えたいと、私はそう…思っていたのだった。




