十一、覚
数ヶ月前。
猿女《猿女》雫、12歳。中学一年生。
特技、人の心が読める。
歩く。歩く。歩く。
人目を避けるように、顔を見られないように、伸ばした前髪で目元を隠し、下を向いたまま、ただ足早に家へ向かって歩く。
自意識過剰と思われるかもしれない。それでも私には、周りをただ通り過ぎていく人を始め、散歩中の犬に至るまで、あらゆる生き物の視線が、自分のことを指すように見つめているような気がした。
否、見つめているというのは言い過ぎだが、自分を視界に入れた者たちが、その容姿を見て不審がっていることは事実だった。
だって…私にはそれが、分かって《・・・・》しまうのだから。
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『えー、呼び出しをします。1年3組、猿女雫さん。猿女雫さん。至急、職員室まで来るように。』
いったい、これで何度目になるだろう。校内放送で担任に呼び出され、とぼとぼと俯きながら教室を出た。
その際に感じるものは、クラスメイトの心の声。呆れる者、嘲笑う者、蔑む者、恐れる者。様々な負の感情が、自分目掛けて突き刺さって来る。
逃げるように教室を後にしても、結局は教師という、負の感情を自分に向けて来る者の元へ、わざわざ出向いて行かなければならないのだから、逃げるというのも違うのだが。それでも、重い足を引きずる様にして職員室に向かう。
ノックをして、クラスと名前を名乗り、職員室に入る。扉が閉まると同時に、担任の怒号が頭から降って来る。
「お前は、何度言ったらわかるんだ!!!髪は染めるな!!!カラーコンタクトを付けるなと何百回言われたら分かるんだ!!!!!!!」
廊下まで響くその声に、ビクリと身を強張らせる。
「で…ですから…髪も目も何もしてな…。」
「そんなことがあって言い訳ないだろぉぉぉおおお!!!!!!」
最早ヒステリーを起こしている担任教師を見るのも、いったいこれで何度目だろうか。
この教師は、自分の言っていることがめちゃくちゃであることは分かっていた。だからと言って目の前にいる私の存在を認めてしまうと、科学的に存在しないとされている生物の存在を認めてしまうことになる。担任は、それを己に納得させることが出来ないでいた。
職員室内にいる他の教員は、触らぬ神に祟りなしと、知らん顔で他の仕事に勤しんでいた。
もっとも、心を読むことができる私には、そんな教師たちの知らん振りも筒抜けだったのだが。
この街ができるずっと以前から、近くの山に住み着いていたと伝わる妖怪、覚。
人の心を読む妖怪と、哀れな人間との間に産まれた半妖。この街以外の人間に、絶対に存在が知られてはならない忌み子。それが、猿女雫という少女だった。




