◆第十八話『光輝の柱』
──あたしは役立たずだ。
クララは島に来てからまもなくして下した自己評価を思い出していた。
初めて組んだチームでは失敗ばかり。
ついには追い出され、孤独になってしまった。
自分には戦闘は向いていないかもしれない。
けれど、ほかに行くアテはなかった。
島から出れば殺されるかもしれないからだ。
そんな中でのことだった。
1人の挑戦者が──。
アッシュ・ブレイブが手を差し伸べてくれたのは。
居場所を作ってくれた。
素敵な仲間たちと引き合わせてくれた。
与えてくれたものを挙げればキリがない。
恩人という言葉では言い表せないほど自分にとってかけがえないの人だ。
そしてなにより大切で、大好きな人。
彼の役に立ちたい。
彼に褒めてもらいたい。
そんな気持ちがずっと根底にあったのは間違いなかった。
ただ、装備が充実していくたびに力が増しているように感じられた。出来ることが増え、自分自身が成長しているようにも感じられた。
きっとそのせいで錯覚を抱くようになってしまったのだろう。
自分が強い人間だ、と。
いまや最強の魔術師などともてはやされているが、実際は違うことを誰より自分が理解している。それでも抱いた錯覚が増長するに至ってしまったのだろう。
そのせいで大きな失敗をしてしまった。
大事な友達を傷つけてしまった。
あのときの光景は脳裏に焼きついている。
そのせいで魔法を撃つ際に全身が一瞬だけ硬直してしまう。
また誰かを傷つけてしまうのではないか。
怖い。
そう考えてしまうのだ。
いっそ戦うのをやめてもいいのではと考えたこともある。もう戦わずとも島で生活するぶんには充分すぎるほどのジュリーはあるからだ。
ただ、そうなればみんなと一緒にはいられなくなる。きっとみんなは気にしないと言ってくれるが、自分自身が許せなくなるのは間違いなかった。
これからもみんなと胸を張って一緒にいるために。
仲間として行動するためには戦いつづける必要があった。
──だから、あたしはあたしに出来ることをするんだ。
クララはふらつく体で必死に舞台上を駆けまわっていた。
魔力の枯渇寸前まで陥ったこともあり呼吸も難しく、吐き気もする。
倒れ込みたい気持ちで一杯だ。
けれど迫りくる竜巻の脅威から逃れるには走りつづけるしかない。
体力は減る一方だ。
ただ、逆に気力のほうは漲っていた。
不思議と先ほどまで感じていた不快感も消え失せている。
感覚的にわかる。
すでにすべての魔力が戻っているようだった。
間違いなく自身の血統技術である《精霊の泉》のおかげだと思われるが……。
これまでよりも戻るのが早すぎる。
ただ、その理由をさぐる暇はなかった。
いまもジズの攻撃で味方が脅威にさらされているからだ。
打開するにはジズを攻撃して舞台に堕とす必要がある。だが、そのためにはジズの障壁を貫通するほどの強力な攻撃を仕掛けなければならない。
オルヴィの《フレイムバースト》を見る限り、爆発系の攻撃では障壁を貫通させるのは難しいようだった。
──それなら……!
クララはローブ内側のポーチから1つの腕輪を取り出し、右腕にはめた。
これには最近、白の塔で入手したばかりの14等級の魔石が埋め込まれている。
強力ではあるものの、当てるのが非常に難しい魔法だ。
ただ、敵は空を覆うほどの巨体とあってそこは問題にならない。
クララはジズの遥か上空へと右の手のひらを向けた。
強力な魔法とはいえ、1発では堕としきれないかもしれない。
自身にある魔力のほぼすべてを使い切るつもりで魔法をストックしていく。
そのたびにジズの上空に生まれる光点。
数ははすでに20を超えている。
それらの光点を見るなり、アッシュがこちらを向いてきた。最初は驚いたような表情だったが、すぐに首肯を返してくれる。
本当にどうしていつもそうなのか。
その信頼が、いまの自分にはどうしようも嬉しく感じられて……。
なにより力となった。
「クララが敵を堕とす! 全員、攻撃準備ッ!」
先ほど魔力が枯れかけていたばかりだ。
通常の魔術師であればありえない魔力回復速度とあって味方の多くが困惑していた。
だが、誰よりも早く攻撃準備を始めたアッシュやレオ、ラピスとルナに続いてか。ほかの味方も弾かれるように続いていた。
味方の動きに心が熱くなった。
信頼に応えたい。
その一心から、クララはストックしたすべての魔法を放った。
「いっけぇぇえええええ──!!」
最終的に38となった光点。
それらから一斉にジズへと白い光が迸った。
白の塔14等級の魔法。
ステラ・レイ。
3等級魔法のレイ系と似て線状に放たれるものだ。
発射地点が使用者ではなく天上であることしか一見して違いはわからない。だが、実際は大きな違いがあった。
それは驚異的な貫通力だ。
降り注いだ《ステラ・レイ》がジズの障壁に到達するが、いっさいの抵抗感なく突き抜けた。その数もあって貫いた箇所は両翼の端から端に至っている。
ジズが金切り声をあげながら呻くと、その身をよじるように体勢を崩した。もはやはばたくことすらできないようで急降下を開始。舞台へと不格好に墜落した。
とてつもない揺れと衝突音が鳴り響く中、仲間たちが一斉にジズへと攻撃をしかけはじめる。
この機会を逃せばあとはないと各々が理解しているのだろう。全員が血統技術を含めた最高の攻撃でもって臨んでいた。
あちこちから鳴り響く苛烈な衝撃音。
ついにはジズの苦痛に満ちた鳴き声も弱まりだした、そのとき。
「ぉおおおおおおおおおおッ!」
アッシュが張り上げた声とともに、ジズの頭部へと《ソードオブブレイブ》を見舞った。
鋭く描かれた鈍色の剣閃。
それが消え去る中、ジズのけたたましい慟哭が響き渡った。
まるで空間すべてを支配していたかのようなジズの巨体。
それがまるで影に溶け込むように消滅していく。
とてつもない存在感を持っていたからか。
消失とともに勝利を実感するには充分だった。
味方たちから歓喜の声があがった。
クララにはそれがどこか遠く感じられた。
他人事のように思えたわけではない。
単純に魔力の使いすぎで頭がぼうっとしているのだ。
立っていられずに倒れてしまいそうになるが、そうはならなかった。まるでわかっていたかのようにアッシュがそっと抱きとめてくれたのだ。
「……アッシュくん」
「やったな。クララが頑張ったおかげだ。きっと全員がそう思ってるぞ」
アッシュの言葉にほかのみんなが頷いてくれていた。
称賛してもらえるのは素直に嬉しい。
いつもの自分ならいますぐにでも調子に乗っていただろう。
ただ、いまだけはこの喜びをみんなと分かち合いたいという気持ちがまさった。
「ありがとう。でも……あたしだけの頑張りじゃ絶対に勝てなかったよ。なによりアッシュくんが……みんなが信じてくれたからこそだよ。だからこれは──」
クララはアッシュの顔を一目見た。
その後、とびきりの笑みをみんなへと向ける。
「みんなの勝利、だよっ!」
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