◆第十七話『ジズ戦④』
ドーリエが咆哮をあげながら盾を傾け、外へと岩を弾き飛ばした。
いまも襲いくる暴風に乗って飛んできたものだ。凄まじい衝撃だったようであのドーリエが体勢を崩していた。
そんな姿を前にしてヴァンが「ドーリエッ!」と叫んでいた。当のドーリエはのそりと起き上がりながら肩越しに振り返っている。
「大丈夫だよ! あんたはあたしが守ってみせる……!」
「頼む、無茶だけはしないでくれ……!」
2人がそんなやり取りをする最中、レオが再び飛んできた岩を弾き飛ばしていた。
「あ、あの!? 僕もっ、いるんだけど、ねっ……!」
「きついだろうが、2人はそのまま岩の対応を頼む!」
散発的ではあるが、暴風に乗ってくる岩はなおも飛んできていた。レオとドーリエを中心に弾きつつ、危険な場面はほかの前衛たちと協力して対応していく。
いったいいつまで続くのか。
その後もいやになるほどの間、岩を受け続けていたときだった。
ようやく暴風が止んだ。
ジズが一気に近づいてくると、舞台上空付近を旋回しはじめる。この挙動もまた狂騒状態前に見たものだ。
「またテンペストが来るぞ!」
そう叫びおえたのとほぼ同時、舞台各所で竜巻が発生。轟々と音を鳴らしながら舞台上で不規則に踊りはじめる。数は10と通常時と同じだ。これなら対応可能だが……問題は反撃手段だ。
「ルナ、頼む!」
「もちろん! でも……さすがに1人だと時間がかかるかもっ!」
「アッシュさん、わたくしは!?」
オルヴィがもどかしそうに視線を送ってきた。
今回、オルヴィには治癒用に魔力を温存する立ち回りをしてもらっていた。ゆえに、ここでオルヴィに攻撃させれば味方の治癒に手が回らなくなる可能性がある。だが、それもこの状態ではジリ貧だ。
《テンペスト》によって発生した竜巻はなおも舞台上で暴れ狂っている。避けるのは容易ではないものの、さすがにここまで昇ってきた猛者たちだ。ただちに致命的な状況にはならなさそうだ。
──これならッ!
「オルヴィも頼む! みんな、ここからはヒールなしだと思ってくれ!」
アッシュは近場まで迫った竜巻を躱しながら声を張り上げた。
仲間たちから心強い声が返ってくる中、オルヴィが攻撃に参加。《フレイムバースト》を放ちはじめる。
さすがに等級差もあってルナの火力には及ばないが、それでもやはり魔法の威力は強大とあってたしかに敵へと損傷を与えているようだった。
時間はかかるかもしれないが、これならいつか堕とせるはずだ。
そう思ったときだった。
ジズのすべてを包むように緑色の光が現れた。
障壁だ。ルナの放った矢とオルヴィの《フレイムバースト》が障壁に触れるなり爆発してしまう。余波はジズの翼に届いているようだが、直撃と比べるとその威力が半減しているのは間違いなかった。
「あれでは魔法がっ!」
「一応徹ってはいるみたいだけど……っ!」
ただでさえ火力不足な状況の中だ。
あれではジズを堕とせるとは思えない。
そう絶望にも似た感覚に見舞われたときだった。
突如としてジズの体を這いまわるように光が発生した。紫色のそれは1度明滅したのち、瞬く間にジズの腹底に収束。極太の稲光となって舞台へと迸った。
──逃げろ。
そう警告する暇なんてなかった。
稲光は舞台に到達するなり、拡散。舞台全域に瞬く間に広がると、その上に立っていた仲間たち全員を補足した。
遅れて聞こえてきた轟音に続いて炸裂音が響く。
そこには仲間たちが苦痛に呻く声も混ざりあっている。
アッシュもまた全身が焼けるような痛みに襲われ、その場に倒れ込んでしまった。体が痙攣したように痺れ、すぐには起き上がれない。
先の魔法は緑の塔12等級の《サンダーボルト》だ。
等級を超えた魔法を撃ってくるなんて反則だ。
そんな考えがよぎったが、そもそもそんなルールがあると明確に伝えられたわけでないことを思い出し、愚痴を呑み込んだ。
まだ体に痺れは残っている。
全身に走る痛みも相当なものだ。
だが、動けないほどでない。
なによりいまは先にすべきことがある。
アッシュはのそりと起き上がりながら視線を上げる。
敵はなおも舞台上空を旋回中なうえ、再び《テンペスト》を放ってきていた。仲間たちが満身創痍ながら、荒れ狂う竜巻から必死になって逃げ回りはじめる。
「おい、アッシュ! ありゃあまた撃ってくるぞ!」
「わかってる! わかってるが……っ!」
次の指示を出せとばかりにディバルから催促が飛んでくる。
仮にまた《サンダーボルト》が撃たれた場合、壊滅は必至だ。それほどまでに味方の損傷が激しい。一刻も早く反撃の糸口を掴まなければならない。
だが、前衛組ではそもそも攻撃が届かない。
頼みの後衛組の攻撃も障壁によって阻まれている。
手の打ちようがない。
──撤退すべきか。
いや、そもそも敵はこの空を支配する怪鳥だ。
逃げるとしても命がけとなることは間違いない。
それでもこのまま受けるだけよりもマシか。
幸い前衛組はまだ動けるものが多い。
雑魚相手に戦いながら入口まで戻れる可能性は充分にある。
いずれにせよ、取り返しがつかなくなる前に行動すべきだ。
味方からも判断を迫るような視線が向けられる中、アッシュは拳を握りながら口を開こうとした。
その瞬間だった。
ジズの遥か上。
天に数えきれないほどの光点が現れた。





