◆第十六話『ジズ戦③』
緑の塔10等級の目玉魔法とも言える《メテオストライク》。
その威力はあまりにも凄まじいため、せいぜい増加したところで5つ程度だろう、と予想していたのだが──。
どうやら甘く見過ぎていたようだ。
まさか10個同時とは。
あれでは逃げ場なんてどこにもない。
「アッシュくん、《虚栄防壁》ならいつでも!」
「それは最後の手段だ!」
レオの血統技術である《虚栄防壁》は展開した光壁によって広範囲を守るものだ。しかし、その代償として衝撃がすべてレオに与えられる。
これまで幾度となく救われた《虚栄防壁》ではあるが、今回は規模が規模だ。いくらレオでも耐えられるかはあやしい。最悪の場合、死ぬ可能性だってある。
まずは1か所に固まるべきか。
そこから盾組に続いて前衛組によるに防御陣。後衛組による迎撃や《ストーンウォール》で耐えしのぐしか手はないか。
ただ、それでもあの規模の《メテオストライク》ともなれば耐えきるのは難しいだろう。
……なにか、なにかほかに手はないのか!?
「ロウさんリトリィさん、なんとか2つずつお願いっ!」
その声は後方から聞こえてきた。
振り返った先、クララがジズに向けて右手を向けていた。
そのそばでは困惑するロウとリトリィの姿も見える。
「で、出来なくはないが……」
「それでも6つ残ってしまいます!」
「あとは全部、あたしがやるからっ!」
そう力強く宣言するクララ。
こわばった表情ながら、その表情からは失敗する未来なんてまるで想像していないようだった。
相殺に使用する《スーパーノヴァ》のような大規模かつ高威力魔法は1発撃つだけでもかなりの魔力を消耗する。
そして今回も相殺するとなれば、ロウとリトリィは3発目となる。
いくら2人が優秀とはいえ、魔力が底を尽きる可能性が高い。
そんな中、クララは残った6つの《メテオストライク》をすべて処理するという。もはや一般的な魔術師では不可能な領域だ。
ロウとリトリィから揃って目線を向けられた。
どうすべきか、判断を問われているようだ。
「……クララの言うとおりに! 頼む!」
アッシュは一瞬の逡巡を経て、そう叫んだ。
おそらく先日のようにクララは己が力を過信したわけではない。
彼女がいま身に着けたローブのトワイライトシリーズには、魔力量が極大に増加する効果がある。そのうえでクララが持つ血統技術──《精霊の泉》があれば乗り越えることは可能だ。かなりギリギリかもしれないが……。
──いまのクララならやれるはずだ。
やり取りをしている間にも《メテオストライク》はその姿のすべてを魔法陣から現していた。それらのうち4つがロウとリトリィが生成した《スーパーノヴァ》によって相殺される。
続いてクララも《スーパーノヴァ》を生成。
襲いくる巨岩を見事に迎撃したが、その数は残り6つすべてではなかった。
半分の3つのみ。
残った巨岩たちはいまも轟々と周囲の空気を呑み込むようにして落下してきている。
「やっぱ1度に6発は無理か!?」
そうベイマンズが見上げながら身構えはじめた。
直後──。
クララが「大丈夫っ!」と声をあげた。
ふぅと息を整えたのち、再び右手を空へゆっくりと突きだしている。
その落ちつきぶりから心配はしていなかったが、残り3つの《メテオストライク》の進路上にも《スーパーノヴァ》が生成された。それらは膨張し、一気に炸裂する。
舞台との距離がかなり近づいていたこともあってか、先に放たれた《スーパーノヴァ》よりも余波が大きかった。視界のほぼすべてが白で埋め尽くされる中、凄まじい爆風が襲いくる。
やがて視界が晴れたとき、巨岩はどこにも見当たらなかった。破片も綺麗さっぱり消滅している。
「以前から底なしだとは思っていたが……」
「……多いなんてものではないな」
ヴァネッサとシビラが驚愕の声をあげていた。
6つの《メテオストライク》をたった1人で迎撃しきったのだ。
驚くのも無理はなかった。
《精霊の泉》は所持者に無限の魔力を与えるものと言われていたが、実際は違う。
魔力を瞬時に回復するというものだ。
つまり1度に大量に魔力を使えば枯渇は避けられないが……。
今回のようにわずかながら間隔をあければ魔力の回復が間に合うと踏んだのだろう。ただ、それでも実行に移すにはかなりの勇気が必要だったはずだ。
本人なりに魔力量から限界を計算していたのだろう。
間違いなくクララの功績だ。
そう胸中で称賛していたときだった。
ロウとリトリィが揃って顔を歪めていた。
2人とも立っているのもやっとのようでその場に膝をついてしまっている。
「うぅ……っ」
クララもふらついていた。
さすがに《精霊の泉》をもってしても後半の3発を撃つまでに魔力を全回復するには至っていなかったようだ。枯渇しかける寸前といったところか。
時間が経てばまたすぐに復帰できるはずだが──。
敵は待ってくれないようだった。
ジズが荒々しくはばたきはじめていた。
その巨大な翼から生み出した暴風が一気に襲いかかってくる。
このままでは舞台から吹き飛ばされてしまうが──。
「みなさんが頑張ってくれたぶん、ここはわたくしがっ!」
オルヴィが《ストーンウォール》を生成した。
横並び2枚を前後に配した形だ。
彼女には治癒役として控えてもらっていたが、ほかの魔術師たちが魔法を撃てる状況ではない中、任せるほかない。
味方が《ストーンウォール》で作られた簡易防壁内へと駆け込んできてからほぼ間もなく、暴風が襲ってきた。相変わらず凄まじい勢いだ。ただの風とは思えないほどの音が空いた箇所から聞こえてくる。
いまのところ前方の《ストーンウォール》はみしみしと音をたててはいるが、
耐えられている。それでも警戒を怠らず、レオとドーリエの2人は盾を構えてくれている。
魔術師たちの魔力切れで総崩れになりかけたが、なんとか持ち直せそうだ。これなら凌ぎ切れる、と。そう思った矢先だった。
突如として前方の《ストーンウォール》が弾けるように四散した。風で破壊されたとは思えない壊れ方だと思ったが、疑問はすぐに解消された。
大きな岩が飛び込んできたのだ。
《メテオストライク》ほどバカげた大きさではないにしろ、ひと5人分ほどはある。
ちょうどドーリエの構えた盾へと激突。
とてつもなく重く鈍い音を響かせる。
「ぐぉおおおおおおッ!」





