◆第十五話『ジズ戦②』
アッシュは喉が痛むのもいとわずに叫んだ。
直後、全員が弾かれたように駆けだした。
さすがに10等級以上の挑戦者ばかりとあってか。
誰もが《テンペスト》の前兆を把握していたようだ。
散開までの動きが驚くほどなめらかだった。
おかげで次に発生した竜巻に誰一人として呑み込まれずに終わった。
ただ、《テンペスト》の威力はしっかりと10等級相応になっているようだった。
竜巻は人を10人も軽く呑み込めるほどの太さを誇っている。
しかも、それが舞台のあちこちで発生して荒れ狂っていた。
その数10本。
おかげで舞台の上を駆けまわされていた。
「くそっ、攻撃されてばっかじゃねえか!」
「そうは言っても近接はなすすべがない……っ」
「卑怯です、ずるいです! 鳥のくせにぃっ!」
ベイマンズの愚痴にシビラとルグシャラが追随する形で声をあげる。
実際その通りだった。
ここまで前衛組は攻撃すら出来ていない。
後衛組に至ってもここまで迎撃や補助に回っていてほぼ攻撃できていない状態だ。唯一、ルナだけがその身軽さを活かして弓で攻撃をしかけているが──。
放たれた矢は頭上で旋回中のジズに到達。
赤の矢の特性である爆発を起こした。
いまやルナの弓は14等級に達している。
その威力は相当なものだが、しかしジズに怯んだ様子はなかった。あの大きさとあってか、豆粒程度が当たった程度にしか思っていないのかもしれない。
そのさまを見てか、ルナが悔し気に顔を歪めている。
「後衛だけで倒せればいいんだけど……!」
「何日かかるかわかりませんね」
リトリィが冷静な口調でそうこぼした。
彼女も隙を見つけて《フレイムバースト》を放っているが、ジズに大した損傷は与えられていない。
ほかの後衛たちも同様に攻撃をしかけているが、散発的で効果は薄いようだ。
「これは墜としてもらうしかないねぇ……!」
ヴァネッサが鋭い眼光でジズを射貫きながら言った。
彼女の言うとおりその選択しかないだろう。
アッシュはロウと視線を見合わせる。
すでに考えがまとまっていたのか、首肯が返ってきた。
「ならば狙うのは翼。そして舞台上に堕とせるようタイミングを見計らい、集中砲火をすべきだろう。アッシュ、きみが指示を出してくれ!」
「わかった!」
先ほどからジズは頭上で旋回を続けている。
《テンペスト》中はそうせざるを得ないのかもしれない。
厄介な攻撃だが、その挙動はこちらにとっては最大の好機だ。
ただ、ジズが墜落した際、舞台上に落ちるよう調整する必要がある。アッシュはいまも襲いくる竜巻を避けながらジズの動きを注視する。
やがてジズが反転し、ちょうど舞台に向かいはじめた。
その瞬間を捉えるなり、アッシュは声を張り上げる。
「いまだ! 左翼を狙え!」
後衛陣が一斉に攻撃を開始。
ジズの左翼に集中砲火を浴びせはじめた。
いくら大きな敵とはいえ、相手は動き回る。使われる魔法は《フレイムバースト》や《フレイムレイ》といった発動時間のかからないものばかりだ。
明滅する赤い光。
腹の底まで響く轟音。
これまで悠々と空を飛んでいたジズが、始めて苦しむような声をあげた。黒煙が晴れると、焦げたようにあちこちがぼろぼろになった羽が目に入る。
どうやら相当な傷を負わせられたようだ。
左翼の怪我で上手くはばたけなくなったジズが体勢を崩し、そのまま下降。舞台へと墜落してきた。
襲ってくる凄まじい揺れと風圧に思わず膝をついてしまいそうになった。
だが、いまは絶好のチャンスだ。
一瞬たりとも無駄にはできない。
「総攻撃ッ!」
アッシュは思い切り声を張り上げた。
前衛組とともに咆哮をあげながら一気に敵との距離を詰める。
「好き放題された分、百倍にして返してやるぜぇッ!」
「この鳥野郎、おらぁあああああッ!」
「ぶった斬ってやります鳥ぃっ! ヒィイイイァアアアッ!」
まさに荒くれものといった声をあげるベイマンズとヴァン。
続いてルグシャラも狂人のごとく奇声をあげて突っ込んでいく。
彼らのような言葉こそ出さないが、前衛組は総じて鬱憤が溜まっていたらしい。全員が墜ちたジズに接近するなり、凄まじい剣幕で攻撃をしかけていた。
あちこちから苛烈な打撃音、斬撃音が聞こえてくる。
アッシュはジズの頭部へ向かっていた。
併走する形でそばにはディバルもいる。
「右をやれるか、親父!」
「誰に言ってんだ、任せろ!」
どの部位を狙うか。
細かい対象を伝えていない。
だが、ディバルとの間にそれは無用だった。
互いに左右へと膨らんだのち、駆けた勢いそのままに跳躍。ジズの深い緑色に染まった宝石のごとく眼球へと剣を突き立てた。
ぐさりと深く刺した箇所から大量の血が噴出する。
ジズが悲鳴のごとく声をあげると、もだえ苦しむように全身を痙攣させはじめた。どうやら思った以上の損傷を与えられたようだ。
「あたしらも負けてらんないねえ、いくよシビラっ」
「ああ、合わせるっ!」
ヴァネッサとシビラもまた連携し、ジズの首元へと斬撃を見舞っていた。2人の攻撃もまた相当な傷を負わせたようだ。大量の血が噴出している。
後衛組も前衛組の邪魔にならないよう、翼に向かって魔法を撃ちつづけている。
いまのうちに可能な限り攻撃を仕掛けたい。
あわよくばこのまま倒しきりたいところだ。
そう思いながら一心不乱になって攻撃をしかけつづけていた、そのとき。
のそりと起き上がったジズが翼をはためかせ、金切り声をあげた。
あわせて発生した突風に全員が吹き飛ばされる。
危うく舞台から落とされるところだったが、全員なんとか留まれたようだ。
しかし、再び接近する機会までは与えてもらえなかった。こちらが体勢を戻す間にジズはすでに飛び上がり、空へと戻っていた。
舞台から離れ、遠くで旋回。
こちらに向き直ろうとしている。
アッシュは思わず舌打ちしてしまう。
「仕留めきれなかったか……!」
「さすが大型といったところね」
ラピスもまた悔し気な声をあげていた。
彼女の言うとおり、敵は耐久力に秀でた大型レア種だ。
そう簡単に沈められる相手でないことはわかっていた。
だが、攻撃機会の少ない相手だ。
可能なら先の総攻撃で仕留めておきたかった。
「ただ、いまので相当なダメージを負わせたはずです!」
「そのぶん敵も怒ってるみたいだけどねっ」
リトリィの希望的な言葉に、そう注意を促すルナ。
実際、ジズの様子が変貌していた。
その緑の眼球が赤く染まっていたのだ。
先ほど負わせた傷から流れた血ではなく、明らかに発光している。
「みな警戒しろ! 敵の攻撃が変化する可能性が──なっ!?」
「じょ、冗談ですよね……」
ロウが驚愕し、リトリィにいたっては恐怖で顔を歪めていた。
無理もない。
ジズ正面に描かれた《メテオストライク》の魔法陣。
その数が尋常ではなかった。
アッシュは思わず乾いた笑みを浮かべてしまう。
「10ってばかげてるだろ……!」
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