◆第十二話『討伐クエスト3の獣の1』
「みんなこんなところにどうして……」
青の塔内部から外に出た直後だった。
クララがきょとんとしながら足を止めた。
無理もない。
チームメンバーが勢揃いで出迎えてくれていたのだから。
「フロストアローを取りにいったときに声をかけておいたんだ。大事な仲間のことなんだから当然だろ?」
実際にはマキナに皆を呼ぶよう頼んでおいた、というのが正しいか。当の彼女は気を遣ったのか、この場にはいないようだが。
ルナがクララへと優しく微笑みかける。
「顔を見る限りもう大丈夫そうかな?」
「……うん。心配かけてごめんね」
「謝る必要なんてないよ。ね、ラピス」
「ええ。クララが戻ってきた。それだけで充分よ」
「ルナさぁん、ラピスさぁん……!」
クララが情けない声をあげると、そのままラピスとルナに抱きついていた。顔をこすりつけていてわからないが、涙もたくさん流しているようだ。
見た目こそ違えど、いまや完全に姉妹そのものだ。
そんな微笑ましい光景を横目に見ながら、レオがこちらの隣にやってきた。
「一件落着だね。でもあれだけ塞ぎ込んでたのによく立ち直ってくれたね。どんな魔法を使ったんだい? アッシュくん」
「ま、最初から組んでるからこそ出来ることってのがあるんだよ」
「つまり秘密ってことかな?」
「そういうことにしといてくれ」
いま話すのは野暮な気がした。
いつか時間が経ったときにでも、クララを交えて面白おかしく話すのも良さそうだ。
「さて、ようやくチーム全員が揃ったことだし、あの話をしてもいいんじゃないかな?」
しばらくしてクララが落ちつきはじめたときだった。
ルナが頃合いをはかったようにそう話を切り出してきた。
事情を知らないクララが鼻をすすったのち首を傾げる。
教えてとばかりにその視線はこちらに向けられていた。
「この前、変なレア種を倒しただろ。あれのあとにすぐ解放されたクエストがあったみたいでな」
正確にはミルマから呼び出されて知ったことだ。
彼女らの様子から察するに簡単なクエストでないことは予想できた。
立ちはだかる困難はどれほどのものか。
湧き上がる高揚感を覚えながら、アッシュは口の端を吊り上げた。
「3の獣……そのうちの1つ。ジズの討伐だ」
◆◆◆◆◆
落ちついて話をするため、ログハウスに帰還。
すでに陽が落ちたこともあり、夕食をとりながらということになった。
クララの復帰祝いを兼ねていることもあり、食卓に並ぶ料理は豪勢だ。
事情を聞いたルナがすぐさま下準備をしてくれたようだが、間に合うはずもなく──出来合いの品がほとんだ。
それでもクララにとってはご馳走に変わりなかったらしい。頬が膨れるほど口に含んではがつがつと食べている。
「美味しぃよぉ」
「ほら、クララ。ほっぺについてる」
んぅっとクララが声を漏らしながら、ラピスに頬を拭ってもらっていた。
最近のクララであったら子ども扱いされることに抵抗するところだが、いまは食い気がまさっているらしい。大人しくされるがままだった。
「そういえばさっきの話の続きだけど……ジズってどこにいるの?」
ごくんっと喉を鳴らしたクララがそう訊いてきた。
「91階の終盤に出てきた鳥がいただろ」
「ありえないぐらいでかかった鳥だよね」
「あれのことらしい」
「嘘でしょ? あ~いう演出で出してるだけかと思ってた……」
「残念ながらミルマからのたしかな情報だ」
初めて聞いたときはクララと同じように耳を疑った。
あれほどまでに大きな敵はいままでに見たことがない。それこそ見上げた空一面を覆えるほどの体躯だ。倒すという思考に至らないのも無理はなかった。
「しかも厄介なことに時限制のクエストらしくてな。あと3日で消えるそうだ」
「そういう事情もあってマキナたちがクエストを譲ってくれたんだ。自分たちが10等級階層に到達するにはまだまだかかりそうだからって」
そうルナが経緯を補足してくれる。
マキナたちとしては始めたクエストが到達階層の関係で中断させられたのだ。悔しいことこのうえないだろう。
ただ、それが奮起する理由にはなったらしい。
いつかまたわたしたちでクエストを受けなおそう、と。
彼女らチームはやる気に満ちた様子だった。
「そうだったんだね。でも、あと3日って……もうほとんどないじゃん。あたしのせいだね……」
「そこを気にしても仕方ないだろ。そもそもまだやるかどうかも決めてないしな」
言いながら、アッシュは仲間たちのほうを見やった。
「間違いなく大型だろうし、準備もしないとだからね」
「ヴァネッサとベイマンズチームの協力もないと厳しそうだよね」
「なによりクララが本調子じゃない中で倒せるかわからないしね」
レオに続いてルナ、ラピスが難しい顔でそう意見を述べてきた。
──本調子ではない。
そう指摘を受けたクララがばつが悪そうに顔を俯ける。
再び魔法を使えるようにはなった。
だが、果たして以前のように戦えるのか。
そこに関してはまだ確証が持てない状態だ。
クララ自身が誰より理解しているからか。
その表情からは不安の色がしかと見て取れた。
「ちなみにその3日を過ぎたあとにまた受け直しって出来るのかな?」
「さあな。そこまでは教えてもらえなかった」
もう受けることは出来ない可能性もある。
仮に再度受けられたとしてもわざわざ期間を設けるぐらいだ。
次の機会は数年後と言われてもおかしくはないだろう。
「……やろう、やろうよ。あたしなら大丈夫だから!」
しばらく悩んでいたクララが、がばっと顔を上げるなりそう声をあげた。その表情はやる気に満ち溢れている。
「クララくん、無理はしてないかい?」
レオが心配するように優しく問いかけていた。
きっと空元気に見えてしまったからだろう。
「うん、本当にもう大丈夫だからっ」
クララが両手に拳を作り、元気をアピールしてくる。
本人がここまでやる気になっているのだ。
もはや止める理由はない。
「わかった、挑戦しよう。みんなもいいか?」
改めて確認すると、首肯が返ってきた。
途端、クララが嬉しそうに顔を綻ばせる。
「ありがとう、みんな……あたしみんなの足を引っ張らないように頑張るから!」
少々気負い過ぎているように見えなくもない。
だが、塞ぎこんでいるよりはずっとマシだ。
なによりクララが完全に立ち直るには、きっと自信が必要だ。そのためにもこの大きな討伐クエストはうってつけとも言える。
アッシュは全員と顔を見合わせたのち、力強く宣言する。
「よし、じゃあ準備開始だ!」





