◆第七話『ザルボア戦③』
なんとか声が届いたか。
マキナが迫りくるもう1つの脅威に気づいたようだ。
《フレイムバースト》のほうを確認するよりも早く、その場から後退せんとしていた。そのまま腰をわずかに落とし、跳躍の体勢に入る。
だが、不幸にもスカルドラゴンの突進と重なってしまった。踏み込みが甘かったこともあり、マキナが体勢を崩す形で後方へ倒れてしまう。そこへ覆いかぶさる形でスカルドラゴンの押し寄せた。
瞬間、《フレイムバースト》がスカルドラゴンの頭に激突した。
腹の底まで震わせる轟音が辺りに響き渡る中、噴出する黒煙。その中から吹っ飛ぶようにしてマキナが転がってきた。ちょうどスカルドラゴンの突進と重なったことで直撃はまぬがれたようだが……。
クララの《フレイムバースト》は14等級の腕輪にはめられている。つまり属性石13個はめした主力攻撃だ。爆発の衝撃波だけでも相当なもので、前衛とはいえ格下の等級装備の挑戦者が受けるにはあまりにも強力すぎた。
転がる勢いが止まり、倒れたマキナはうずくまったまま起き上がらなかった。防具のすべてが黒こげになった状態だ。顔や手にはやけどしたような損傷が見られる。
「マキナさんっ!!」
ユインがすぐさま駆け寄ろうとするが、その足を止めていた。晴れた黒煙からスカルドラゴンが襲ってきたのだ。クララの《フレイムバースト》を受けて弱っているようだが、倒れるには至らなかったらしい。
ユインがスカルドラゴンとの交戦を再開する。しかし、マキナと2人でようやく抑えていた相手だ。彼女1人に任せるわけにはいかない。
「後衛はユインの援護に専念してくれ!」
そう指示を出す最中、アッシュはクララのほうを見やる。
彼女は先ほど《フレイムバースト》を放った場所から1歩も動いていなかった。放心した様子で倒れたマキナのほうを見つめている。
「あ、あたしのせいでマキナさんが……っ」
「しっかりしろ、クララッ! いまはマキナの治癒がなにより先だ!」
強い語調でなければいまのクララを動かすことは出来ない。
そう判断して怒号混じりの指示を飛ばしたが、幸いにも効果があったらしい。
クララが弾かれるようにして《テレポート》を連発。マキナのもとに駆け寄ると、すぐに《サンクチュアリを》を展開。《ヒール》をかけはじめた。
これでマキナは助かるだろう。
だが、状況は良くない。
……いや、最悪と言っていいだろう。
アッシュはいまも真っ青な顔で必死にマキナを治癒するクララを横目に見たのち、祭壇へと駆けだした。
スカルドラゴンの噛みつきを躱しつつ、反撃。
そのまま通り抜けてザルボアへと一直線に向かう。
「ラピス、強引に行くぞ!」
「わかった。あとに撃つわっ」
こちらの意図を察してくれたようだ。
ラピスもまた後ろから続いてくれていた。
「レオ、こいつらを頼む!」
「了解っ!」
レオもまた最低限の言葉、行動で理解してくれたようだ。祭壇から飛び降りたのち、こちらと交差した。
後方から聞こえてくる2度の重い衝撃音。
どうやら引き連れてきたスカルドラゴン2体をレオがせきとめてくれたようだ。
アッシュは階段を駆けあがり、瞬く間に祭壇上のザルボアと対峙。振り下ろしの1撃を見舞う。ローブを切り、その先の黒い影のごとく体にも傷をつけた。感触は肉と変わらない。
わずかに呻いたザルボアが炎のごとく影を左手にまとわせながら反撃してきた。予備動作が大きい。アッシュは引き戻した剣をすぐさま構え、深く体勢を落とした。すでに《ソードオブブレイブ》の発動条件は満たしている。
光り輝く剣身を打ち出しながら、アッシュはザルボアの脇を駆け抜けた。聞こえてくるざしゅっと小気味いい音。肩越しに振り返った先、ザルボアの腰半分が割かれていた。
だが、ザルボアはまだ消滅していない。
さすがはレア種といったところか。
だが、こちらもこれで終わるとは思っていない。
「ラピスッ!」
ザルボアの向こう側、飛び込んでくるラピスの姿が映り込んだ。その手にはバチバチと激しい炸裂音を鳴らしながら明滅する槍が握られている。
彼女の血統技術である《限界突破》だ。
その矛先がザルボアの胸元に直撃。接触点を中心に稲光が広がり、飛び散った。視界を埋め尽くす音と、なまじ肉に当てたとは思えない轟音が鳴り響く。
かすかに聞こえたザルボアのものと思しき慟哭もかき消えていた。
まもなく辺りに満ちた光が消えると、あわせてザルボアの体も紛れるように消滅していった。すぐさまスカルドラゴンたちを確認するが、同様に消滅している。
これで終わりだろう。
そう思った矢先、舞台外縁に置かれた3つの像が揃って目を赤く光らせた。
まだ続きがあるのか。
そう警戒したものの、3つの像は同時に亀裂が入り、瞬く間に崩れ去ってしまった。周囲を覆っていた赤黒い光のカーテンもすぅっと消滅していく。
これらの現象にいったいどのような意味があるのか。
祭壇上には戦利品が床に落ちている。
間違いなく終わった証拠だ。
ただ、そう思えない理由があった。
普段なら誰より早く戦利品を確認しにくるクララの姿がなかったからだ。
彼女はまだマキナのそばでしゃがみ込んでいた。横たわったマキナへと泣き顔を向けながら、必死に《ヒール》をかけつづけている。
「ごめんね……あたしのせいで……ごめんね……」
「だい……じょうぶ、だよ、ララたん。だから……そんな顔しないで……」
命の危険はなさそうだ。
のちに響くような負傷でもない。
ただ、14等級の《フレイムバースト》による余波を受けてしまった。盾持ちの前衛ならまだしも軽装のマキナでは、その被害も相当なものに違いない。
すぐさま完全回復とはいかないだろう。
いまも必死に治癒をほどこすクララとレイン。
彼女らを除いた全員とアッシュは視線を合わせた。
「ひとまず帰還しよう」
今回はマキナチームたちから受けた話だ。
あくまで彼女たち主体の攻略であり、あまり危険で強引な攻め方はするべきではないと考えていた。だが、マキナが負傷した状況とあって、その手段をとらざるを得なかった。
そして無事に敵は倒せた。
だが──。
なんとも後味の悪い勝利だ。





