◆第六話『ザルボア戦②』
スカルドラゴンとは何度か戦ったことがあった。
大した攻撃はしてこないが、単純に耐久力が高い。
通常の小型レア種と比べても頭一つ抜きんでているほどだ。
「レア種がレア種を召喚ってそんなのアリなの!?」
「目の前にいるんだ! 神様的にはアリってことだろ!」
マキナの訴えに、アッシュは皮肉を込めて返す。
もちろん、いまもベヌスの館でふんぞり返りながら観ている神様に届けという思いも込めてだ。
「レオはそのまま抜けろ! 骨は俺とラピスで一体ずつもつ! ユインとマキナで残りの1体を頼めるか!?」
「やります!」
「まっかせてー!」
指示通りに前衛組がわかれ、スカルドラゴンを担当する。
ユインとマキナに任せることに多少の不安はある。だが、スカルドラゴンの攻撃は単調なものが多い。彼女らでも初見で対応するのは難しくないはずだ。
眼前のスカルドラゴンが突進しながら噛みついてきた。それをいなしながら長剣で一撃を入れる。ひるんだスカルドラゴンだが、負けじと尻尾を振って足払いをしかけてきた。それを軽く跳躍して躱しつつ、また反撃する。
およそ剣で仕掛けたとは思えない鈍い接触音が響く。
対処は余裕だが、やはりすぐ倒すのは難しい相手だ。
「後衛は全体の援護を!」
そう指示を飛ばす間にレオが祭壇に到達。
ザルボアに肉薄し、剣で牽制していた。
ザルボアはまるで舞い落ちる木の葉のようにひらひらと攻撃を躱している。ただ、レオの剣撃から逃れるのは容易ではなかったらしい。幾度かローブを切られている。
とはいえ、あの様子では倒しきることはできなさそうだ。
そう思った瞬間、1本の矢が鋭い音を鳴らしながらそばを翔けぬけていった。
ルナが放った矢だ。
矢は瞬く間にザルボアに到達。
その体をローブごと貫くかに思えたが、しかし接触直前で勢いを失った。
ザルボアの正面に現れた障壁に阻まれたのだ。
甲高い接触音だけが辺りに響き渡る。
「弾かれたっ!?」
ルナの驚愕する声が聞こえてくる。
同じ物理であるレオの攻撃は通じている状況だ。
おそらくザルボアを守っている障壁は遠距離攻撃に反応するものと見て間違いないだろう。
「だったらこれでっ!」
クララがすかさず追撃を試みていた。
放たれたのは《フレイムバースト》だ。
たしかに魔法なら通る可能性はまだ残されているが──。
希望は早々についえた。
轟々と燃え盛る火球はザルボアに肉迫できなかった。
ルナの矢と同様、障壁に遮られたのだ。
凄まじい爆発音を響かせる《フレイムバースト》。その余波は凄まじく、直後に溢れた黒煙がレオを一瞬にして包み込む。
「ご、ごめんレオさん!」
「大丈夫! 僕はなんともないよ!」
ザルボアへと接近戦を再びしかけながら、無事をアピールするレオ。
たしかに被害はなかったものの、あれはレオだからこそだ。
クララの《フレイムバースト》はいまや14等級。
並みの挑戦者であれば余波だけで致命傷になりかねない。
「一旦後衛はスカルドラゴンにのみ攻撃をしつつ、様子見してくれ! ルナだけは牽制でレオの援護も頼む!」
「了解!」
敵の気をそらすためにも時折しかけたほうがいいとの判断だ。
指示を出している間にもアッシュは眼前のスカルドラゴンに対して斬撃を浴びせていた。
「近距離攻撃しかダメってんなら、こいつを倒して援護しにいくしかないよな……っ!」
すでに剣身は光を放っている。
《ソードオブブレイブ》の発動条件を満たした証だ。
スカルドラゴンが巨体を感じさせない軽やかな跳躍で上空から飛びかかってきた。
これ以上ないタイミングだ。
アッシュはわずかに腰を落とし、襲いくるスカルドラゴンを薙ぎ払う形で一閃。その骨の体を両断した。
接触音ではなく空気を斬った音が鳴る。
《ソードオブブレイブ》を使用した際、よく起こる現象だった。
スカルドラゴンが崩れ落ちると、骨が砂のように変化。
風に吹かれたようにさらさらと消え去っていく。
レオの援護には単独で行くべきか。
あるいはほかのスカルドラゴンを倒して全員で行くべきか。
一瞬の逡巡を経て、全員での援護を選択。
ユインとマキナが対峙するスカルドラゴンに向かおうとした、そのときだった。
そばの床に魔法陣が出現。
そこから新たなスカルドラゴンが姿を見せていた。
「くそっ、そういうタイプか……!」
アッシュは舌打ちしつつ、再び現れたスカルドラゴンとの戦闘を再開する。ほかの2体のスカルドラゴンも後衛陣の援護によってちょうど消滅していた。だが、やはり同じようにすぐさま再召喚されていた。
「キリないじゃんこれー!」
「厄介な相手ですね……っ」
マキナとユインが苦し気な顔でそうこぼす。
彼女らの様子からして、そう長くはもたないだろう。
「だったらこれでっ!」
クララの意気盛んな声が聞こえたかと思うや、スカルドラゴンの頭上に光点が出現。下方へとそのまま光が勢いよく迸る。
線となって地面に突き刺さるが、しかしその途上にスカルドラゴンの姿はなかった。光点が現れた時点でまるで危険を察知したように退避されてしまったのだ。
「避けられたぁっ!?」
先の魔法は最近、白の塔14等級階層で手に入れたばかりの魔法──《ステラ・レイ》だ。凄まじい貫通力を誇るが、天上から降り注ぐタイプの魔法とあってか、空間把握能力も要求されるようで当てるのが難しいようだった。
「攻撃の機会はまだあるはずだ! 魔力は温存しておけ!」
「ぐぅっ」
クララの悔し気な呻きが聞こえてくる。
最中、ラピスからどうするとばかりの視線が向けられた。
レオがザルボアに攻撃をしかけているとはいえ、決め手にかく状況だ。このままではジリ貧になりかねない。
危険を冒して一気に勝負をしかけるべきか。
仮にしかけるにしても1番リスクの低いものでしかけたい。
そう頭を回転させているときだった。
「やっぱり……!」
幾度目かの矢がザルボアの障壁によって弾かれたときだった。
クララから閃いたかのような声をあげてた。
かと思うや、彼女は舞台外縁を駆けはじめる。
「クララ、どこに行くつもりだ!?」
「あの障壁、正面にしか張られてないみたい! 回り込んで撃てばきっと当たるよ!」
「待てクララ! 単独行動は控えろ!」
「大丈夫、あたしにはテレポートがあるから!」
ちょうどスカルドラゴンとの距離が近くなる区画で《テレポート》を使用。迂回する形でザルボアの側面に辿りついていた。
幸いスカルドラゴンから狙われている様子はない。
ザルボアもクララに気づいた様子はなかった。
それを見てか、クララがすぐさま3発の《フレイムバースト》を放った。薄暗い舞台を赤々と染めながら勢いよく突き進む火球が、あと少しでザルボアに到達する──。
直前。
堀から赤黒い光が放たれた。
舞台がまるでカーテンのような赤黒い光で包まれる中、ザルボアの体も赤黒く変色していた。レオから突き出された剣を手で軽々と弾いたのち、ザルボアが両手を横一杯に広げる。
と、肉迫する《フレイムバースト》を反射。
しかもすべてが角度を無視して反射されていた。
向かう先はスカルドラゴンと対峙する者たち。
それぞれ1発ずつだ。
「……えっ!?」
驚愕するクララの声が聞こえる中、反射した《フレイムバースト》が対象者に到達せんとしていた。
アッシュは状況を見守っていたこともあり、難なく回避する。ラピスのほうも無事に躱したようだ。ただ──。
マキナはそうもいかなかった。
スカルドラゴン相手に余裕のない戦闘を繰り広げていたこともあり、反射した《フレイムバースト》の進路に気づけていない。
アッシュは喉が痛むのも構わず声を張り上げる。
「避けろマキナぁっ!」





