◆第三話『賑やかな朝の光景』
横合いから聞こえてきた声。
その先を辿ると、覚えのある女性がこちらに向かって手を振っていた。
ぷっくりとした唇に片側で結った髪が特徴的な、垢ぬけた挑戦者のマキナだ。その後ろからは彼女のチームメンバーであるユインとザーラ、レインも続いている。
個人だけでなくチームとしても親交の深い挑戦者たちだ。
一足先に駆け寄ってきたマキナがクララと手を取り合ってはしゃぎはじめる。
仲の良さは相変わらずだ。
たまに2人だけで遊んでいることもあってか、その仲は随分と深まっているように思う。
「マキナさんっ! 珍しいね、こんな時間に」
「最近、ようやく進みはじめたからね~」
「あ~……8等級から日帰り難しくなるもんね」
8等級階層は巨大な竜が闊歩することもあり、7等級までの階層と比べて段違いに広い。ゆえに1階の攻略に2日かけるのがセオリーとなっている。
「よっ、マキナ」
「おはよ、マイダーリ──ぐぇっ」
流れるように抱きつこうとしてくるマキナ。
その襟元を、後ろから近づいたユインが躊躇なくグイッと引っ張った。
「ちょっとなにするのぉ、ユインちゃん! もうアシュたんとはラブラブなんだからべつにいいでしょー!」
「どうしてもというならどうぞ。ですが、いいんですか? いまの状態でくっついても」
「あっ……」
察したらしいマキナが自身の服のにおいをすんすんと嗅ぎはじめた。
実際、どうなのかは知らないが看過できないレベルだったらしい。
マキナが恥ずかしそうにあとずさった。
「俺は気にしないけどな」
「1回意識しちゃったらダメかも。ユインちゃんありがと……女を捨てずにすんだよっ」
「どういたしまして。ということでおはようございます、みなさん」
言って、ユインが律儀に挨拶をしてくる。
初めて会ったときから彼女はなにも変わらない。
小柄な背丈も、抑揚の少ない話し方も。
ただ、空気感については変わった気がする。
以前よりも自信がついたのか、存在感が増した形だ。
「頑張ってるみたいだな」
「はい、なんとか。アッシュさんたちには離されるばかりで悔しいですが」
「俺たちも必死だからな」
「それでもやっぱりもっと上をと思ってしまいます……アッシュさんの隣に立っても恥ずかしくないように」
真剣な顔で見つめてくるユイン。
そこには戦士としてだけでなく、異性としての想いも込められているようだった。
真面目な空気が漂いはじめた中、マキナがにんまりとした笑みを浮かべながら割り込んでくる。
「乙女の顔のユインちゃん可愛いなぁ……って──!」
ユインが拳を振り、ごうっと豪快な音が鳴った。
マキナの顔が一瞬にして凍りつく。
「あぶなぁっ!?」
「からかってくるマキナさんが悪いです」
「っても加減ってものがあるじゃん! いまの当たってたら絶対死んでた!!」
そこから始まるいつもの追いかけっこ。
少々、いやかなり過激だが、見慣れた光景とあっていまさら驚きもしない。ラピスも「自業自得ね」と肩をすくめている。
ただ、どこか違和感を覚えてしまった。
疲れとはまたべつのものをマキナたちから感じられたのだ。
「みんななにかあったのか?」
試しに訊いてみると、マキナチーム全員が神妙な面持ちになった。
どうやら当たりだったらしい。
「やはりアッシュさんには気づかれてしまいましたか」
「肌を重ねた仲だからね……ちょっと誰か反応してよ冷たい目で見ないでよぉっ」
「マキナさんは置いておくとして、どうしますか?」
空気の読めないマキナをよそに、ユインがザーラとレインに目線で意見を求めはじめる。
「アッシュたちならいいんじゃないか?」
「わたしも問題ないわ。というよりちょうどいいかも」
「ということなのでお話しします」
果たしていったいどんな話なのか。
様子から察するにそこまで大した話ではなさそうだが……。
勿体ぶるように間を置いたのち、ユインが話を切り出した。
「──黒の72階。そこで見たこともないレア種を見つけたんです」





