5/65
老人と絵
モモンガー
広い草原で老人はキャンバスに絵を描いていた
手に持つパレットには色彩豊かな絵の具が並んでいる
赤、青、黄色、緑。
それなのにキャンバスには筆の跡ひとつ見えない
だが老人は何度も目の前の風景とキャンバスを交互に見ては満足そうにうんうんとうなずいている
その姿を見て不思議に思った青年は老人に尋ねた
「どうして何も描かないんですか?」
老人はとぼけた顔をして答えた
「描いているじゃないか」
青年にはその意味がよく分からなかった
「……よく分かりません」
そう愚痴をこぼすと青年は静かにその場を立ち去っていった
老人は遠ざかっていく青年の背中を見送った
そして誰に聞かせるでもなくぽつりと呟いた
「私の絵はキャンバスに描いたものが自然へ戻っていってしまうんだよ」
老人はキャンバスに筆を乗せるがやはりそこには何も描かれていない
それでも老人は少しだけ寂しそうに笑った
「だから私にしか見えないんだよ」




