29/64
夏
なんてことない
何もかも諦めてしまったあの日は
昨日と変わらないとてもいい天気だった
小鳥の代わりに蝉が鳴き
近所からは水を撒く音が聞こえていた
いつもと変わらない朝だった
喉が渇きグラスに飲み物を入れようとした
それをこぼしてしまった
ただこぼしてしまっただけだったんだ
飲み物はテーブルの上に広がっていく
その瞬間自分の中にあった全てまで
一緒に崩れてしまったような気がした
拭くことも飲むこともできず
ただ広がっていく飲み物を眺めていた
うるさい蝉の声も
いつの間にか僕の耳には届かなくなっていた
けれど自分の心臓の音だけは
嫌になるほど大きかった
外は今日も昨日と変わらないとてもいい天気だった
だから夏は嫌いなんだよ




