まさかの外回り!?
小山梨沙:ルックスがまあまあ良くて、成績もそこそこ優秀な大学3年生。天真爛漫でとても優しいが、考え込みやすい性格。「ダジャレ、ビール、相撲」の3つが好きで中身がおっさんだと言われることも。すぐに彼氏ができてしまう。(ENFJ)
大森和也:ルックスがまあまあ良くて、成績もそこそこ優秀な男子大学生。淡々とした性格で人によって態度を変えず、正直に物事を言う。クールに見えるが、実はあまりクールではない。梨沙に好意を持つ。(ISTP)
笹岡明音:小学校から大学まで一緒の梨沙の親友。常に冷静で落ち着いている。すぐに彼氏ができる梨沙のことを心配している。(INTJ)
倉本七海:梨沙と明音と大学時代に出会い、仲良くなった。ムードメーカーで明るい性格。すぐに彼氏ができる梨沙のことを羨ましく思っている。(ESFP)
川越雄太:和也の友達。梨沙とは高校が同じで、高校時代に片思いをしていた。盛り上げ役だが、周囲への気遣いができる性格。梨沙への気持ちがまだ残っている。(ESFJ)
松田有希:梨沙と同じクラスの友達。気が利くお姉さん体質で、サバサバしている性格。和也と小中学校が同じだった。(ISTJ)
「和也くんと私で…外回りですか?」
るんるんな表情の湊崎さんと対照的に、私と和也くんは顔を曇らせた。
「そうなんですよ!いつもお世話になっている企業さんがありまして、そこに必要な資料を取りに行っていただきたいんです。湊崎さんに言われた資料を取りに来たって言ってもらえれば問題ないので、至急よろしくお願いします!」
彼女はそう言うと、私と和也くんに住所を教えた。私たちは戸惑いながらも急いでオフィスを出発した。
「和也くん…ここって、電車乗らないと行けないところだね?」
私が歩きながらスマホで場所を見ると、彼も大きく頷いた。
「3駅だけだけどね。まさか外回りするとは思わなかったよ。」
「うん…でも、湊崎さん、どうしてもやらないといけない仕事があるみたいだったし。」
私たちは駅に着いて、乗る電車を確認する。和也くんはすぐに乗り場を見つけてスタスタと歩いて行く。私も彼の後ろを付いて歩く。プラットホームには少ししか人がいなかった。
「今日で2週目終了だし、オフィスにずっといるよりも良いね。」
和也くんが腕を伸ばしてストレッチする。彼の腕は細いのに、しっかりと筋肉がついていた。
「ねえ、和也くんって何かスポーツしてたの?」
唐突な質問に彼は少し驚いたが、すぐに口を開く。
「水泳くらいかな。習い事でやってただけだよ。」
「中学校と高校の部活は?」
「中学はパソコン部。高校は帰宅部だった。」
意外な返答に私は思わず「え!?」と声を出してしまう。するとその時、電車が到着するアナウンスが響いた。
「そんなに驚く?梨沙はどうだったの?」
彼が見つめてきたので、私は不意に目を反らした。
「私は、中学では美術部で高校では茶道部だったよ。高校の部活の方が充実してたね。」
「へえーすごいじゃん。」
電車が到着して、私たちは乗り込んだ。彼の棒読みリアクションに私は「それ本当に思ってないでしょ?」と口を尖らせる。
「え?思ってるよ。ちゃんと部活入って偉いなって。」
「そうかな?楽しそうだなって思って入っただけだけど。」
私たちは並んで椅子に座った。私の心臓の鼓動が一気に速くなるのを感じる。
「俺はめんどくさくて入らなかったからね。」
「めんどくさい…?何が?」
私がキョトンとすると、彼は苦笑しながら話を続ける。
「他の人と関わるのが。大会とか出るのも疲れるし。まあ、水泳やってたのもあるけどね。」
「そっか…他人に興味ないんだもんね、和也くんは。」
「基本的にはね。ある程度仲いい人には興味あるよ。」
和也くんははっきり言うが、私は目を細めて「本当かなぁ?」と怪しむ。
「本当だよ。だから、3人にはちゃんと興味持ってるもん。」
「3人…ああ、私と雄太と有希ちゃんね。」
私が納得すると、彼は「あ、やっぱり違うかも。」とすぐに訂正した。思わずズッコケると、彼は真剣な表情で呟いた。
「梨沙だけかな。興味あるの。」
「え?な…なんでよ。」
彼のド直球な発言に私はまた動揺を隠せなくなる。すると彼は「もう降りないと。」と席から立ち上がった。私も慌てて立ち上がって、私たちは電車から降りた。しばらく彼を見つめていたが、彼は何も言ってくれなかった。私は気を取り直して、会社の場所をスマホで確認する。
「ここから歩いて5分だって。」
和也くんは私のスマホを取り上げて、地図を凝視する。彼は場所が分かったのか、何も言わずに歩き出した。私も慌てて付いていく。
少し歩くと、そこには大きくて新しいビルがあった。看板に書いてる名前も確認して、私たちは正しい目的地に着くことができた。私と和也くんは顔を見合わせて、それからビルに入った。
「こんにちは。突然すみません。インターンシップで株式会社〇×にお世話になっている、〇×大学の大森と申します。弊社の湊崎からお願いされて、こちらに参りました。」
すぐに和也くんが受付にいる女性に挨拶した。私も後ろに立つと、彼女は怪訝そうに私たちを見つめる。
「なるほど…あなたたちは大学生なんですか?」
「はい、そうです。3週間のインターンシップで来てるんです。」
私が答えても、彼女はまだ怪しんでいるようだ。「少々お待ちください。」と言って、後ろに入っていった。これは非常に幸先が悪い。ちらっと和也くんを見るが、彼はいつも通り真顔だった。しばらくすると、お偉いさんであろう男性が目の前に現れた。私たちがお辞儀をすると、彼も小さく会釈した。
「大学生のお二方。」
彼の声色が怒っているようで、私は思わず背筋を伸ばした。
「連絡もなしに突然訪れるとはどういうことかね。」
彼はやっぱり怒っていた。私は「申し訳ございません。」と謝ったが、和也くんは首を傾げた。
「あの、湊崎さんから『湊崎さんに言われた資料を取りに来たって言ってもらえれば問題ない』と言われて伺ったのですが、何もお聞きになっていなかったということですか?」
和也くんの強気の態度にひやひやしていると、男性は眉間にシワを寄せて和也くんに怒鳴った。
「口答えするんじゃない!!!」
私はもう泣きそうになるほどに震えあがった。それでも和也くんはビクともせずに口を開く。
「口答え…ではなく、俺は事実を確認をしたくてお聞きしたんです。」
「何だ、この生意気な大学生は。君たちの会社にはもう協力できないね。」
男性の衝撃的な発言に私は慌てて和也くんの前に立った。
「すみません、本当に申し訳ございません!私たちはまだまだ未熟者で、無礼な振る舞いをしてしまったこと、どうかお許しください。恐らくこちらの手違いだったと思われますので、今後も弊社へのご尽力よろしくお願いいたします…!」
私が深々と頭を下げると、後ろに立っている和也くんも「申し訳ございませんでした。」と言ってお辞儀をした。
「もういい。今回のことは見逃してやる。帰ってくれ。」
男性がそう言ったので、私はゆっくりと顔を上げた。私の目にじわじわと涙が溜まっていく。
「不快な思いをさせてしまい、本当にすみませんでした。見逃していただいて、ありがとうございます。それでは、失礼いたします…。」
最後の方は涙声になってしまった。和也くんも丁寧に挨拶し、私たちはビルを出た。私は歩きながら、なぜか涙が止まらなくなった。
「梨沙…。」
和也くんが張りのない声で私の名前を呼んだ。私は彼の方を見れず、Tシャツの裾で涙を拭うのに必死だった。
「梨沙、ごめんね。」
そう言うと、彼は私の背中を優しく擦った。私は思わず立ち止まったが、彼を直視できない。
「でも…ありがとう。梨沙のおかげで助かったよ。」
彼の言葉にまた涙が止まらなくなってしまう。私が嗚咽を漏らすと、彼は私の頭にポンと手を乗せた。
「もう泣かないでよ。大丈夫だって。もし帰って怒られても、全部俺のせいだから。」
私がようやく顔を上げると、彼は慌てて手をよけた。涙が視界がぼやけているが、彼の頬がいつもより赤く染まっている気がする。私が無言のままでいると、彼は今までに見せたことのない優しい笑顔を浮かべた。
「大丈夫だからね。帰ろう、梨沙。」
会社に帰ると、湊崎さんがすぐさま私たちに頭を下げた。
「2人とも!本当に本当に申し訳ございませんでした!!!」
私と和也くんが固まっていると、彼女は眉を八の字にして頭を掻いた。
「私の手違いで先方にちゃんと伝わっていなかったみたいなんです…。昨日の夕方に電話したんですけど。」
「あの、湊崎さん。」
和也くんが口を開く。彼の顔が強張っていたので、私は慌てて彼の腕を引いた。彼と目を合わせて首を横に振ると、彼は「大丈夫。」と口パクで見せる。私は不安を感じたまま、彼の腕をゆっくりと離した。
「俺たち、取引先の会社に行って事情を説明したんですけど、偉い方がいらっしゃって怒られてしまいました。そんな話は聞いていない、突然来るなんて失礼だ、と。」
「あちゃあ…相当ご立腹だったんですね。本当にすみません…!!!」
湊崎さんは泣きそうな顔をする。私が何か言おうとすると、彼はそれを手で制した。前から雄太と有希ちゃん、林さんが歩いてきて、「何の騒ぎだろう」と言わんばかりの顔でこちらを見ている。
「俺は事実確認をしようと、相手の気持ちを優先せずに色んな口答えをしてしまいました。でも…小山さんは違いました。」
和也くんの言葉に私と湊崎さんはハッとした。彼は無表情のまま話を続ける。
「小山さんは相手の感情に共感しながらも、自分たちの未熟さを認め、今後も弊社と関係を続けていただけるようにお願いしたんです。俺…すごく助けられました。感動したというか、尊敬の念も込み上げてきて。」
私はまた泣きそうになるのを何とか堪えた。有希ちゃんが口に手を当てて和也くんを見つめる。
「それに、自分の至らなさも痛感しました。もっと人の気持ちを考えて話さないといけないなって。」
「大森さん。」
湊崎さんが満面の笑みで和也くんを呼んだ。彼がキョトンとすると、彼女はいきなり拍手を送った。
「とても素晴らしい気づきです。真剣に自分自身と向き合ったんですね。」
「え…?」
私と和也くんが目を点にすると、遠くの方で前に立っていた林さんも拍手をした。
「今の大森さんの言葉、強く胸に響きました。こちらの方こそ、感動させられました!」
「どういうこと…ですか?」
恐る恐る尋ねると、湊崎さんと林さんは顔を見合わせた。
「実は…わざとだったんです。ごめんなさいね、騙してしまって。」
「だ…騙し!?」
私と和也くんより先に雄太が悲鳴のような声を上げる。
「2人に起こったことは、仕込みだったってことですか?よく分からないけど。」
有希ちゃんの問いかけに湊崎さんと林さんは何度も頷いた。私は2人を見て「ええー!?」と叫んでしまう。
「じゃあ、ドッキリだったのか。騙された…。」
なぜか和也くんが悔しそうにするので、私は「そこ!?」と思わずツッコんでしまう。
「先方の方たちも共犯だったので、安心してくださいね。本当は全然怖くない、優しい人たちなので。」
湊崎さんが手を合わせて説明する。私は一気に体の力が抜けてよろけた。和也くんが慌てて私を支えてくれる。
「怒られるという状況で、2人がどんな風に振る舞うのか試したんです。でも…小山さんを泣かせてしまったみたいで、すみませんでした。ここまで怖がらせるつもりはなかったんです…!」
「本当に何と謝罪をすればいいか…私たちの配慮不足でした!」
林さんと湊崎さんが私の両腕を擦って何度も何度も頭を下げる。私は我に返って、大きくかぶりを振った。
「いえいえいえ!大丈夫です!私たち、成長できて本当に良かったです!」
私の言葉に2人はようやくホッとしたような表情を見せたのだった。
それから私たちは明日のスケジュールを伝えられ、いつもより早めの解散となった。
何があったのか気になっている雄太と有希ちゃんに和也くんが事の全てを説明すると、2人は目をこれでもかと丸くした。
「そんな怒鳴られたら誰だって怖いわ。梨沙ちゃん、よく頑張ったね。」
有希ちゃんが私の背中を優しく擦ってくれた。私がお礼を言うと、雄太が肩を落とした。
「俺がいたらな…梨沙のこと、泣かせなかったぜ?」
「何その言い方。雄太って、突然くさいこと言うよね。」
私が目を細めると、彼はムッとした表情をする。
「だって、本当のことなんだぜ?俺は泣かせない、絶対に。」
すると和也くんが小さく咳払いして口を開いた。
「悪かったね、俺が頼りなくて。俺は逆に梨沙に助けられたから。」
「いや、別に頼りなかった訳じゃないって!」
私が慌ててかぶりを振ると、有希ちゃんが苦笑しながら和也くんの肘を突いた。
「かずくん、ドンマイドンマイ。」
「うわーなんか嫌だわ。」
和也くんが有希ちゃんを睨むと、雄太が私の肩に手を乗せた。
「とにかく…なんかあったら、ちゃんと言えよ。梨沙は優しすぎるから心配なんだよ。」
「優しすぎる…?私が?」
自分の顔を指差してキョトンとする私に彼は大きく頷いた。
「今日だって和也のために頭下げたんだろ?そんなことできる人、優しさの塊だぞ。」
「優しさの…塊。」
私が思わず吹き出すと、彼は目を見張った。
「俺がこんなに真剣に話してるのになんで笑うんだよ!」
「ごめんごめん。言葉のチョイスが面白くてつい…。」
手を合わせる私を軽く睨む雄太。すると、和也くんがいつの間にか私の隣に来た。
「梨沙、今日はありがとね。」
横を向くと、和也くんがニコッと微笑んでいた。私は「そんな、大した事してないよ。」と言いながら、自分の体温が一気に上昇するのを感じる。
「これはこれは…。大変なことになってるじゃないの、梨沙ちゃん。」
後ろから有希ちゃんがボソッと呟く。私たち3人が「何が?」と振り向くと、彼女は何も言わずにスタスタと歩いて行くのだった。
つづく
ご一読ありがとうございました❀




