新しい日常
小山梨沙:ルックスがまあまあ良くて、成績もそこそこ優秀な大学3年生。天真爛漫でとても優しいが、考え込みやすい性格。「ダジャレ、ビール、相撲」の3つが好きで中身がおっさんだと言われることも。すぐに彼氏ができてしまう。(ENFJ)
大森和也:ルックスがまあまあ良くて、成績もそこそこ優秀な男子大学生。淡々とした性格で人によって態度を変えず、正直に物事を言う。クールに見えるが、実はあまりクールではない。梨沙に好意を持つ。(ISTP)
笹岡明音:小学校から大学まで一緒の梨沙の親友。常に冷静で落ち着いている。すぐに彼氏ができる梨沙のことを心配している。(INTJ)
倉本七海:梨沙と明音と大学時代に出会い、仲良くなった。ムードメーカーで明るい性格。すぐに彼氏ができる梨沙のことを羨ましく思っている。(ESFP)
川越雄太:和也の友達。梨沙とは高校が同じで、高校時代に片思いをしていた。盛り上げ役だが、周囲への気遣いができる性格。梨沙への気持ちがまだ残っている。(ESFJ)
松田有希:梨沙と同じクラスの友達。気が利くお姉さん体質で、サバサバしている性格。和也と小中学校が同じだった。(ISTJ)
「『チームゆかり』の再会に…かんぱーい!!!」
「かんぱーい!」
相変わらず元気な雄太の乾杯の音頭だ。私、雄太、有希ちゃん、それに和也くんは1か月ぶりに居酒屋に集まった。インターンシップが終わった後のお店と同じである。
「みんな、元気にしてたか?ちなみに俺は元気!」
雄太が言うと、有希ちゃんも和也くんもすぐに頷いた。私はふと和也くんと付き合い始めたあの日を思い出してしまう。
「梨沙ちゃん?ボーっとしてるけど、大丈夫?」
有希ちゃんの声で私は一気に我に返った。
「え?ああ…大丈夫!元気だったよ。」
「本当に?何かあったんじゃない?」
有希ちゃんが目を細めると、和也くんが小さく咳払いした。
「俺は元気だったよ。」
「だろうね。かずくんには聞いてませんので。」
相変わらず辛口な有希ちゃんだ。私が思わず吹き出すと、雄太も私につられて笑った。
「2人のやり取り、久しぶりに聴けて最高だよ。有希さんはフランス、どうだったんだ?」
「いつも通りの気まずさだった。でも、街並みはやっぱり綺麗だったね。そういえば、みんなにお土産あるんだった。」
彼女の衝撃的な発言に私と雄太は顔を見合わせた。和也くんも目を丸く見開いている。有希ちゃんはカバンから小さな巾着袋を3つ出して、私たちに配った。
「有希ちゃん、ありがとう!何だろう、ワクワクする。」
私が目を輝かせると、彼女は「開けてみて。」とニコッと笑った。私たちが袋を開けてみると、そこには小さな箱が入っていた。
「何か液体が入ってる。何だこれ。」
和也くんが顔をしかめると、有希ちゃんは肩をすくめた。
「香水だよ、香水。お気に召すか分からないけど、可愛いから買っちゃった。」
「この匂い、俺めっちゃ好きだ!嬉しいよ、有希さん。ありがとな。」
雄太が満面の笑みで言うと、有希ちゃんは少し頬を赤らめた。私と和也くんもお礼を言うと、彼女は満足そうに頷いた。
「これで私の今日の任務は完了した。気兼ねなくお酒が飲めるよ。」
「任務って…まだインターンシップやってるみたいじゃん。」
和也くんの鋭いツッコミに私と雄太は爆笑した。
「あのさ、また4人で遊びに行こうぜ?もう秋だし、紅葉良いんじゃないか!」
しばらく飲んでいると、雄太が大きな声で叫んだ。私も酔ってきて気分が良くなってきた。
「紅葉、見に行こうよう!なんつって!」
「梨沙ちゃん、寒いよ。」
有希ちゃんが苦笑しながら呟いた。和也くんの冷たい視線も感じる。
「梨沙のギャグ、最高だよな!高校の時、卒業式でも言ってたよな?たしか…『これからの人生にエンジンをかけるために円陣組もう!』って。」
「何だよそれ。」
和也くんが顔をしかめるのを無視して、私は腹を抱えて笑った。
「言った言った!雄太、すごいよ。本当に何から何まで覚えてるよね。」
「覚えてるに決まってんじゃん。梨沙のこと、ずっと見てるんだから。」
雄太がまたくさいことを言うので、私は苦笑した。
「梨沙、もう飲むの辞めた方が良いよ。顔も赤いし、変だよ。」
和也くんが私からグラスを遠ざける。しかし、私は彼からグラスを奪い返した。
「大丈夫だよ、和也くん。まだ酔ってないもん。」
「いや、かなり酔ってるね。もうやめな。」
和也くんがバシッと言うと、雄太が口を開いた。
「梨沙のことは俺が送っていくから心配するな。梨沙の家、知ってるから。」
「え?梨沙ちゃんの家、なんで知ってるの?」
有希ちゃんの問いかけに雄太は頭を掻いた。
「行ったことあるんだよ。高校生の時に。探究活動の作業で話し合わないといけなくて。」
「へえ〜本当に何でも同じ班だったんだね。雄太くん、梨沙ちゃんに告白しないの?」
雄太は一瞬固まってしまったが、すぐにかぶりを振った。
「しないって!まだ…だけど。」
「雄太。冗談はよしなさい。」
私が頭をふわふわさせながら言うと、彼は私の頭を軽く叩いた。
「うるさいな、酔っ払い。」
すると、和也くんがボソッと呟いた。
「梨沙のことは俺も送るよ。」
彼の言葉に有希ちゃんと雄太は黙り込む。和也くんは気にせずに話を続けた。
「悪いけど、梨沙と付き合ってるんだ。」
その瞬間、空気が一気に固まった。雄太も有希ちゃんも口をポカーンと開けたままだ。
「え…いつから?」
有希ちゃんが我に返って聞くと、和也くんは少し考えてそれから答えた。
「1か月前くらいから…かな。タイミングが分からなくなってたけど、今日2人にも伝えようと思ってたんだ。」
「そっか…。何だよ!そういうのは最初に言えよ!めでたいことなんだから…なあ、有希さん。」
雄太は笑顔で言うと、グラスに入ったハイボールを一気飲みする。有希ちゃんは苦笑しながら小さく頷いた。
「たしかに2人とも仲良かったもんね。おめでとう。」
「ありがとう…って、梨沙はもう寝てるし。」
和也くんは肩をすくめて私の寝顔を見つめる。有希ちゃんは心配そうに雄太の顔を覗き込むのだった。
「2人にご報告がありまして…。」
数日後の昼休み。私が改まってカレーライスを食べているスプーンを置くと、前の席に座っている七海と明音は対照的な表情で私を見つめる。私は思い切って口を開いた。
「私、また彼氏ができました!例の…バカ正直男子ね。」
「うわー!梨沙、おめでとう!きゃー!すごいすごい!」
七海が私の手を握ってブンブン振り回す。一方で、明音は小さく肩をすくめた。
「今度は末永く続くことを願ってるよ。おめでとう。」
「ちょっと、明音!良いじゃん。今が楽しいんだから!」
ようやく私の手を放すと、七海が口を尖らした。明音は彼女を軽く睨む。
「楽観的すぎるって。もうちょっと先を見据えて考えないとダメだよ。」
「まあまあ。私はいつもね、長く一緒にいたいと思う人と付き合ってる訳だし。」
私の言葉に七海と明音は「そうなの!?」と声を揃えた。私は目をパチクリしながら何度も頷く。
「そうに決まってるじゃん!今まで何だと思ってたの!?」
「付き合えるなら誰でもいいのかと思ってた…。」
明音が呟くと、七海も「私も!」と叫んだ。私は首を大きく横に振る。
「そんな訳ないじゃん!誰でもいいなんて、そんな風に考えたことないよ。」
「梨沙は人を好きになるスピードが速いってだけなんだね!良いことじゃん!」
七海が清々しい表情をして言うと、明音は納得したようなしてないような表情をした。
「もっと慎重に人に心を開いた方が良いと思うけどな…。」
「毎回明音にそれを言われてるような気がする。」
苦笑する私を見て七海が吹き出した。
「やっぱり人って変われないんだよ!良くも悪くもね。でも、梨沙は変わらなくて良い。そのままでいてよ!」
「七海、本当にあなたって人は…。」
明音が頭を抱えると、七海はいきなり立ち上がった。
「梨沙が幸せなら、私は嬉しい!それだけ!」
「七海…。ありがとう!」
感動のあまり、私も思わず立ち上がる。
「まあ、そうね。幸せならそれで良いのか。」
きゃっきゃっ言い合っている私たちを見上げながら、明音は小さく呟くのだった。
「みなさん、今の時代はもう大学3年生の内から就活を始め、大学4年生にはもう内定が決まっているのが当たり前です。のんびりしている暇はありません。インターンシップでも行った自己分析を継続し、自分がどの業界でどの職種に就きたいのか、真剣に考えましょう。」
厳格な顔持ちの先生が熱弁しているが、七海は相変わらず爆睡していた。
「もう就活か…。なんか早いな。」
私が小さく呟くと、明音も頷いた。
「あっという間に時間が過ぎるよね。あと1年ちょっとで社会人なんて想像できないよ。」
私たちの心配を他所に、先生の話はまだ続く。
「今後の授業では自分がどの企業を受けたいか、具体的に考えてもらいます。次回の授業までに3社は考えていてくださいね。前にインターンシップに行った班で活動していきます。」
「3社…結構難しそう。」
私が顔を曇らせると、明音は気持ちよさそうに寝ている七海を横目で見て小さくため息をついた。
「私ももっと楽観的になれたら良いな。七海みたいに。」
「七海の場合は極端に楽観的な気がするけど。明音と私はどちらかと言うと悲観的に考えやすい方だね。」
苦笑する私に明音は何度も頷く。すると、熟睡していた七海がいきなりぱっちり目を開いた。私と明音は顔を見合わせる。七海は腕を伸ばして大きなあくびをした。
「よく寝たわ〜夢の中で2人に噂されてたよ。」
「夢…見てたの?」
私が目を丸くすると、七海はニコッと笑った。
「2人が私のこと話してた!いい夢だったね。」
「そう…なんだ。それは何より。」
明音はそう言いながらも目を泳がせる。私は笑いを堪えながら先生の話に耳を傾けるのだった。
家に帰ってからすぐに企業調べを始めた。2社は自分の気になる企業を決めていたが、もう1社となるとなかなか難しい。パソコンと睨めっこして、もう2時間近く経つ。
「どうしよう…全然見つけられないな…。」
だんだん焦ってきてしまう。自分の理想が高すぎるのだろうか。それとも探し方が悪いんだろうか。
ー今の時代はもう大学3年生の内から就活を始め、大学4年生にはもう内定が決まっているのが当たり前です。のんびりしている暇はありません。
先生の言葉が脳内でリフレインされる。漠然とした将来の不安が大きくなっていくばかりだ。
するとその時、スマホに着信が来た。慌てて画面を見ると、そこには「和也くん」の文字がある。
「え?ええ!なんで?なんで和也くん!?」
動揺していると、電話が切れてしまった。私は急いで掛け直す。2コール目で和也くんは電話に出てくれた。
「もしもし…?」
「もしもし。梨沙、今話しても大丈夫?」
いつも通りの落ち着いた声。私は何度も頷いて「大丈夫だよ。」と言った。
「良かった。なんか、声聞きたくなってさ。」
「え…?」
彼のド直球発言に思わずキョトンとしてしまう。和也くんはそんなこと気にせずに話を続ける。
「梨沙の声聞くと落ち着くんだよね。」
「あ…それは…どうも。」
私が反応に困っていると、和也くんはふふっと笑った。
「梨沙ってすぐに照れるよね。そういうところ、可愛いよ。」
「もう!和也くん、からかってるでしょ!そういうこと言われると…どうすればいいか分からないの。」
「からかってないって。本当に思ってるから言ってるんだよ。」
これ以上何かを言われたら頭が回らなくなってしまう。私は慌てて話題を変える。
「今ね、ずっと企業探してたんだけど…3社目がどうしても決められなくて。大変だなって思ってたの。」
「なんで3社目必要なの?」
和也くんの問いかけに私は苦笑した。
「和也くん。先生の話聞いてなかったの?次の授業までに3社決めないといけないんだよ。」
「3社なんだ。寝てたから聞いてなかったわ。」
「うわー和也くん寝てたんだ。悪い子だね。」
「眠い時には寝るから。今もさっきまで寝てたし。」
和也くんは相変わらずマイペースみたいだ。私は肩を落としてベッドに座り込んだ。
「和也くんはもう決まってるの?」
「ううん。何も考えてないね。」
「何も!?」
私が思わず大きな声を出すと、和也くんは淡々と話した。
「焦っても良いことないからね。早く決まっても良いと思ってないし。」
「そうなんだ。なんで…そう思えるの?」
すると、和也くんはいつもと変わらず即答した。
「ちゃんと自分が納得しないとダメじゃん?どんだけ早く決めても結局違うなってなったら入社しないだろうし。だから梨沙もそんなに焦らずに考えていいと思うよ。」
彼の言葉を聞いて私の心がスッと軽くなるのを感じた。
「和也くん…。」
私はベッドに仰向けになった。和也くんが「どうした?」と尋ねてくる。
「ありがとう。電話してくれて。」
「いつでも電話するよ。俺も梨沙と話したいから。」
私の心臓の鼓動が一気に速くなる。私は大きく深呼吸して胸を落ち着かせる。
「梨沙、大好きだよ。おやすみなさい。」
「お…おやすみ!私も大好き!」
顔を真っ赤にして勢いよく電話を切った。それでも私の心の雲は晴れていて、静かに目を閉じればあっという間に夢の世界へ入っていくのだった。
つづく
ご一読ありがとうございました❀




