2人きりの時間
小山梨沙:ルックスがまあまあ良くて、成績もそこそこ優秀な大学3年生。天真爛漫でとても優しいが、考え込みやすい性格。「ダジャレ、ビール、相撲」の3つが好きで中身がおっさんだと言われることも。すぐに彼氏ができてしまう。(ENFJ)
大森和也:ルックスがまあまあ良くて、成績もそこそこ優秀な男子大学生。淡々とした性格で人によって態度を変えず、正直に物事を言う。クールに見えるが、実はあまりクールではない。梨沙に好意を持つ。(ISTP)
笹岡明音:小学校から大学まで一緒の梨沙の親友。常に冷静で落ち着いている。すぐに彼氏ができる梨沙のことを心配している。(INTJ)
倉本七海:梨沙と明音と大学時代に出会い、仲良くなった。ムードメーカーで明るい性格。すぐに彼氏ができる梨沙のことを羨ましく思っている。(ESFP)
川越雄太:和也の友達。梨沙とは高校が同じで、高校時代に片思いをしていた。盛り上げ役だが、周囲への気遣いができる性格。梨沙への気持ちがまだ残っている。(ESFJ)
松田有希:梨沙と同じクラスの友達。気が利くお姉さん体質で、サバサバしている性格。和也と小中学校が同じだった。(ISTJ)
「よーし!名付けて…『梨沙のデート大成功させちゃおう作戦』だー!!!」
「まったく…それはキャッチコピーじゃなくてただの文章だよ、七海。」
久しぶりに七海と明音とショッピングにやって来た。七海がるんるん気分で叫んでいるのを明音が呆れた表情で見つめる。相変わらずの構図である。
「気持ちは嬉しいけど、家にある服で何とかするからさ。わざわざ新しく買わなくても…。」
「ダメです!ダメダメ!」
七海は私の言葉を遮って腕で大きなバツを作った。彼女の勢いは止められなさそうだ。
「バカ正直男子から誘われて行くんだから、こっちだってバカ正直女子にならないと!」
「は…?どういうこと?」
明音が顔をしかめると、七海は愛嬌のある笑顔を作った。
「バカ正直に可愛いって思われたい気持ちを出すの!だから、新しい服を来て行かなくちゃ!」
「ごめん、説明聞いてもよく分からないや。」
はっきり物申す明音に私は思わず吹き出してしまう。そんなことお構いなしに、七海は「さあさあ、レッツゴー!」と私と明音の腕を引っ張った。
「見て!この花柄ワンピース!めっちゃ可愛い!」
七海が手に取ったのはレースがいっぱいあしらわれたミニワンピースだ。私は「可愛いね。」と言いながらも苦笑する。
「ねえ、このミニスカート!女の子らしくて良くない!?」
次に七海が手に取ったのはフリル生地で膝上丈のミニミニスカートだ。私は「女子って感じ。」と言いながらも苦笑する。
「あのさ…七海。全部、七海の好みになってない?」
ようやく明音が口を開くと、七海はすぐに我に返った。
「そうだった!梨沙に似合う服を選ぶつもりが…つい私の好きなものを探す旅になってた…!」
「良いんだよ、七海。七海も好きな服あったら買ったらいいと思う!ショッピング、楽しんでほしいから。」
私が微笑むと、彼女はまた目を輝かせて服を見に行った。明音は「やれやれ。」と肩をすくめながらも、手には何枚かのワンピースやロングスカートを持っている。私は目を点にした。
「明音、選んでくれたの…?ファッションとか、あんまり興味ないのに!?」
「まあね。梨沙は七海と真逆な顔立ちで、大人っぽい雰囲気だから長めの丈の方が似合うと思うよ。」
明音は私の身体に全ての服を合わせ、それから何かに納得したように頷いた。
「うん、予想通りだわ。Vネックで襟付きの…これ。この薄ピンクのワンピースが1番いいね。」
「え…!私もこれが1番自分の好みだよ!」
私の言葉に明音は「もう何年の付き合いだと思ってるの。」と呟いた。すると、七海が帰ってきて嬉しそうな表情をした。
「そのワンピース、めっちゃ可愛い!梨沙は顔タイプがエレガントで骨格がウェーブだから、似合うこと間違いなしだね!」
「エレガントに…ウェーブ?」
私と明音が目をパチクリさせると、七海はこれでもかと口を大きく開けた。
「ええ!2人とも知らないの!?最近流行の顔タイプ診断と骨格診断!時代に置いてかれちゃうよ!」
「そんなのあるんだ。全然知らなかったよ…。」
不本意にもショックを受けている私を明音が不思議そうに見つめている。そんな私たちを気にすることなく、七海は拳を突き上げて叫んだ。
「じゃあ、そのワンピースに決まりだね!やったー!!!」
「なんで七海が1番喜んでるんだか…。」
明音は肩をすくめながらも、笑顔で彼女を眺めている。私は2人にお礼を言って、レジへと向かうのだった。
それから1週間後。私は電車に乗って和也くんとの待ち合わせ場所に向かっていた。昨日の夜はドキドキが止まらず、あんまり寝付けなかった。駅に着いて、電車を降りる。15分も早く来てしまった。
「和也くん、ギリギリ人間だからもっと遅くても良かったかな…。」
独り言を呟いてから、小さく深呼吸をする。明音と七海が選んでくれたワンピース、母から借りたフラットシューズ、七海が教えてくれたメイク、明音が昔プレゼントしてくれたイヤリング…。私の身に付けているものは全部周りの人のおかげで揃ったものだ。私の胸がじんわり熱くなる。
「梨沙…?」
近くで私の名前を呼ぶ声が聞こえた。私が横を向くと、そこにはシンプルな服装にボディバッグを付けた和也くんが立っていた。スーツ姿に見慣れていたものだから、久しぶりの私服姿に目が離せなくなる。
「え?何か付いてる?」
「違う違う!なんか雰囲気違うなって思っただけで。」
私が慌てて訂正すると、彼はふふっと小さく笑った。
「インターンシップじゃないのにスーツで来たら怖いでしょ?いつまで引きずってるんだよ。」
彼の言葉に私は思わず吹き出した。彼はいつものように肩をすくめる。
「そんなに笑う?笑いのツボ、浅すぎるって。」
「だって、和也くん面白いんだもん。ていうか、想像以上に早く来たね。」
ようやく私の笑いが収まると、和也くんはキョトンとした。
「いつもこんな感じだよ?ちゃんと5分前には着くようにしてるから。」
「インターンシップの時はギリギリだったのに?」
目を細める私に彼は真顔で答えた。
「あれは複数人いたからね。今回は俺と梨沙の2人だけの約束じゃん?そういう時は早めに来るよ。」
「え…なんで?」
「2人の時は俺のためだけに相手が来てくれてるってことじゃん?その相手を待たせるのは失礼じゃない?」
彼の意外な言動に私は目を丸くしてしまう。
「和也くんって…意外と色々なこと考えてるんだね。」
「考えてるよ。表に出さないだけで。」
「そっか…じゃあ、今日どこに行くかも考えてるの?」
私がいたずらっぽく笑うと、彼はすぐに頷いた。
「今からでっかい公園に行くよ。」
「でっかい…公園?」
またまた彼の意外な言動に私は目をパチクリさせる。彼は「付いてきて。」といきなり歩き出した。
歩いて10分程経つと、『○○自然公園』という看板が見えてきた。子連れの家族がたくさん目に入る。
「ここ、来てみたかったんだよね。」
入口まで来ると、和也くんはボソッと呟いた。私は相槌を打ちながら、彼に続いて公園の中に入る。するとそこには一面に咲くヒマワリが私たちを迎え入れてくれていた。
「うわー!綺麗!すごい…すごいよ!」
私は思わずヒマワリ畑の近くまで走った。こんなに美しいお花畑は今まで見たことがなかった。和也くんは私にようやく追いついて肩で息をしている。
「子供みたいだな。走らなくてもヒマワリは逃げないじゃん。」
「だって、綺麗なんだもん。気分が上がったから走ったんだよ。」
私は口を尖らせてから、ハッとあることを閃いた。
「まあ…和也くんは息が上がっちゃったけどね。」
「うわー寒いわ。」
苦笑する彼を気にせずに、私は腹を抱えて笑った。
「俺、ヒマワリ見たかったからここに来たわけじゃないんだよね。」
「ええ!?そうなの?ヒマワリが好きなのかと思った…。」
私が目を丸くすると、彼はポーカーフェイスのまま歩き出す。私は1枚だけヒマワリ畑の写真を撮って、すぐさま彼の後に続いた。しばらく歩くと、目の前には大きな池が広がっていた。太陽の光を反射した水面が美しい。
「和也くん…池を見たかったの?」
私の問いかけに彼は首を横に振った。
「見たかったというより、ボートに乗ってみたかったんだ。」
和也くんが指差す方向に目をやると、そこにはスワンボートがいくつか置いてあった。私は一瞬固まってしまったが、慌てて口を開いた。
「おー!は…白鳥さんに乗りたいんだ。和也くん、なんか可愛いね。」
「いや、そっちじゃなくてオールで漕ぐやつね。」
彼が即答したので、私の顔は一気に赤くなった。恥ずかしさのあまり、私はスタスタと船乗り場まで歩き始めた。彼は「急に速いじゃん。」と笑いながら、後ろに付いてきた。
スワンボートの方がたくさん人が並んでいて、私たちはすぐにボートに乗ることができた。
「おっと、結構グラグラするんだね。私もこういうボートに乗るの、久しぶりだよ。」
私が彼と反対側に座ると、彼はオールを持って漕ぎ始めた。ゆっくりと水面の上をボートが進んでいく。
「あれ?意外と漕げるな。」
和也くんの言葉に私は何度も頷いた。
「初めてなのにすごいよ!私はコツが分からなくて漕げないし。」
「梨沙もできるんじゃない?やってみたら?」
彼はオールから手を放し、私にバトンタッチした。オールを動かしてみるが、やっぱり上手くいかない。
「一緒にやってみるか。」
和也くんはそう言うと、私の手に自分の手を重ねた。
「こうやって…こんな感じ。感覚で覚えるからあんまり説明できないけど。」
彼の言葉が右の耳から左の耳へと抜けていってしまう。私の胸の鼓動が彼に聞こえてしまいそうで怖かった。
「あ…ありがとう。少しコツが分かった気がする。」
私は彼を直視することができなかった。池の水の流れに目を向けていると、和也くんが小さく咳払いした。
「梨沙、その服似合ってるね。」
出た…ド直球な彼の発言。ようやく目線を上げると、彼の顔には優しい笑顔が浮かんでいた。
「やっぱり可愛いよ。」
追い打ちをかけられ、私は思わず後退りしてしまった。するとボートがグラグラし始めて、私と和也くんは池に落ちそうになる。
「うわー!落ちる、落ちる!ぎゃああ!」
私は悲鳴のような声を上げたが、何とか持ち応えた。和也くんも安心したような表情をしている。私と和也くんは顔を見合わせて、それから思わず吹き出した。
「今の梨沙の声、ニワトリみたいだったよ。変なの。」
「に…ニワトリ!?ひっどい!人があんなに怖がってたのに!」
「だって、本当に似てたんだよ。また今度、ニワトリの声聞いてみて。」
「絶対に嫌ですっ!」
しばらくくだらない言い争いをしていたらお腹が空いてきた。私たちは公園の屋台で買った焼きそばを手にベンチに腰かけた。手を合わせて「いただきます!」と声を揃える。私が勢いよく麺を啜っていると、和也くんが目を見張った。
「梨沙、喉に詰まらせないようにね。」
いきなり話しかけられて私は思わずむせてしまった。彼が私の背中を擦ってくれる。私は水を飲んで何とか落ち着いた。
「言った矢先にこうだからな、梨沙は。」
「急に話しかけた和也くんのせいじゃん。びっくりしたんだから。」
私が言い返すと、彼は呆れたような表情をした。彼は気にせず、私はまた焼きそばを食べ始める。
「でも、いいじゃん。そういうところ。可愛いし。」
彼の言葉に私はまたむせてしまった。彼はまた背中を擦ってくれたが、私は彼を睨んだ。
「もう!急にそういうこと、言わないでよね。」
「そういうことって?」
和也くんがキョトンとするので、私は「何でもない。」と肩をすくめた。私の胸の鼓動がだんだん速くなる。
「この公園でもう1つ行きたい場所があるから、付き合ってよ。」
お昼を食べ終わると、和也くんはこう言って足早に歩き出した。私は置いていかれないように彼の後ろに付いた。公園の奥まで歩くと、人がだんだん少なくなってきた。視界が開けてきて、目の前には綺麗な薄緑色の芝生が広がっていた。
「うわー!ここも綺麗!」
私が両手をいっぱいに広げると、和也くんはふふっと小さく笑った。
「ここ、良いよね。風通しも良くて気持ちいいよ。」
私はいつの間にか彼の横顔を眺めていた。すらっと高い鼻筋が美しい。彼のまつ毛が意外と長くて、目に太陽の光が入って輝いているのに気付いた。彼が私の方を向いたので、私は慌てて目を反らした。
「誰もいないね。すごく良い場所なのに。」
「2人だけならいっか。」
彼はそう言うと、驚きの行動に出た。彼はいきなり芝生の上に仰向けで横たわったのだ!
「和也…くん!?」
「梨沙も隣に来なよ。気持ちいいよ。」
私は戸惑いながらも、彼の横に寝そべった。まるで絵画のような青空が私の瞳に映る。こんなに時間の流れをゆっくりに感じるのは久しぶりだった。
「和也くん…今日は私のこと誘ってくれてありがとね。」
私が横を向くと、和也くんは私を見て目を丸くした。
「急にどうしたの?梨沙にしては、珍しく素直だね。」
彼の一言で私の頭に血が上った。
「もう!別にいいでしょ。伝えたかっただけなんだから。」
「冗談だって。俺の方こそ…ありがとう。」
ボソッと呟く和也くんの頬がほんの少しだけ赤く染まった。気のせいかもしれないが。
「何だか眠くなってきちゃった。風が気持ちよくて。」
「寝ていいよ。俺も寝るから。」
和也くんが即答したので、私は思わず吹き出した。
「どっちも寝たらダメじゃん!誰も起きれなくなっちゃうよ。」
「別にいいって。眠い時に寝るのが1番だよ。」
「それはそうだけど…帰れなくなったら大変だもん。」
私が何とか笑いを収めると、彼は空を眺めながら言った。
「梨沙と一緒にいれるなら、俺はそれでもいいけど。」
「…え?」
キョトンとする私を彼はまっすぐに見つめた。
「俺、梨沙のこと好きだから。」
周りの雑音が何も聞こえなくなる。聞こえるのは、大きくなった私の鼓動の音だけだ。彼の綺麗な瞳に吸い込まれそうになりながら、私はいつの間にか口を開いていた。
「私も…だよ。」
今度は和也くんが目をまん丸にして私を見る。しかし、彼はすぐに笑顔を浮かべた。
「良かった。じゃあ、両思いだね。」
「え…そんなあっさり!?」
私が思わず起き上がると、彼は「だって、本当のことじゃん。」と真顔で言った。
「もしかして分かってたの?私の気持ち。」
「そんな訳ないでしょ。めっちゃ緊張したよ。」
私は目を細めて彼を見つめる。
「本当に?怪しいな。何か、全然動揺してないじゃん。」
「動揺はしないよ。両思いなのが嬉しいだけ。」
そう言って和也くんもゆっくりと起き上がった。すると彼は私の手を優しく取って、ぎゅっと握った。私が一気に赤面すると、彼はふふっと小さく笑った。
「これからよろしくね、梨沙。」
私は思わず彼から目を反らしてしまう。彼の言葉に私は「うん。」と呟くことしかできないのであった。
つづく
ご一読ありがとうございました❀




