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青藍のストライダー ~星々を駆ける冒険者たち~  作者: Omega Blue
第1話 10年目の縁

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第1話 10年目の縁 8

 ただでさえ安静にしていなければならない身で、さらにアナザーセンスを行使したことで、彼女は限界を超えて体力を消耗していた。

 救助に来た自分が彼女に救われ、その命まで失わせるわけにはいかなかった。そう思いながら連戦による疲労と痛みを無視してただひたすらに走り続けた。

 やがて集積拠点の一角に地上へ続くと思しき重力リフトを見つけた。

 見張り役らしい2体のヘッドレスを、反応する間も与えずフォトンブレードの一閃で破壊し、すぐに制御盤を確認する。

「従業員用出口——これだ!」

 表示されていた行き先の文字を見るや、拳を叩き込むように制御盤の起動ボタンを押し込んだ。

 重力リフトが上昇し始めるとレヴァリスはようやく息を整えることができた。ここまで全力で走り続けたのは久しぶりだった。

 背中からはサレナのか細い呼吸が聞こえる。これが途絶えれば今回の任務は全て無駄になってしまうだろう。

 重力リフトが目的の階層で停止すると、レヴァリスはすぐに駆け出した。

 目の前の階段は地下遺跡へ進入したときに通ったものとよく似ており、地表へ続いていると確信できた。

 しばらくするとHUDの通信グラフが反応を取り戻した。地表に近づいたためか、あるいは妨害電波の発信が止まったためかは分からない。

 何れにしても、宇宙ステーションとの通信回線が回復したのは僥倖であった。

「こちらレヴァリス。支部長、聞こえるか?」

『聞こえるぞ、まだ生きているな!』

 通信機越しに生存を喜ぶヴァリネクの声を聞いて、レヴァリスは安堵感を覚えた。

 やがて階段の先に外光の漏れる壊れかけた扉が現れた。外へ通じているらしい。

 躊躇なく扉を蹴り破り、その勢いのまま地表へ飛び出した。

 だが、外に出て目に飛び込んできた光景は巨大な黒い嵐であった。それはまるで全てを飲み込まんとゆっくりと回転しながらこちらに迫りつつある。

 遠方では緑色の雷が大地へ走り、最初に地上へ降り立ったときにはなかった独特の酸臭が、風に乗って鼻をついた。

『レヴァリス、嵐が接近している。屋内で待機しろ!』

 通信機越しのヴァリネクの声は切迫していた。

 あまりの状況にレヴァリスは思わず言葉を失う。地表の環境がここまで変化しているのは流石に予想外であった。

 さらに悪いことにモーショントラッカーが後方から接近してくる大量のオートロイドを捉えていた。

 背後からは大量のオートロイド、正面からは強酸の嵐が迫っている。退路は完全に断たれていた。すぐに決断を下すしかなかった。

「いや駄目だ、このままだと生存者が死ぬ。今すぐ降下艇を寄越してくれ!」

『なっ、レヴァ——』

 レヴァリスはヴァリネクの返答を待たず、階段を上ってくるオートロイド達へブラスターライフルを撃ち込んだ。だが、オートロイド達は犠牲も厭わずに徐々に階段を上ってくる。

 このままでは押し切られる。そう判断すると、近くの残骸を持ち上げて階段下へ蹴り落とし、その場を離脱した。

 走りながらレヴァリスは降下艇が着陸できそうな場所を探した。

 そして廃墟に囲まれた開けた一角を見つけると、背負っていたサレナを倒壊した建物の瓦礫の陰へゆっくりと横たえ、自分は彼女とオートロイド達との間に立った。

 予備のブラスターライフル用弾倉はこれが最後だった。装填を済ませ、血の気を失ったサレナの顔を見てから、迫る嵐を見据えた。

「死ぬ時は最後まで一緒だ」

 レヴァリスはそう覚悟を決めると、追ってきたオートロイド達に向けて攻撃を開始した。

 ヴァリネクならばこの状況でも必ず降下艇を寄越してくれる。それだけを信じて迫りくるオートロイドの群れを迎撃し続けた。

 押し寄せるオートロイド達はヴェンジ・シーカーに統率されていないせいか、ただ愚直にレヴァリスへ向かってくる。

 だが、こちらの残弾が乏しい以上、物量で押し切る戦術が最も効果的なのも確かだった。

「まだ終わっちゃいない」

 HUDの残弾ゲージがゼロになると、今度はブラスターピストルに持ち替えて攻撃を続ける。

 前方には破壊されたオートロイドの残骸が折り重なっていたが、その後ろからも新手が途切れることなく現れた。

 無秩序に殺到するオートロイド達の急所を、レヴァリスはブラスターピストルで正確に撃ち抜いた。接近してきたものにはフォトンブレードの一閃を見舞う。

 しかし、ブラスターピストルの弾も尽きてしまい、まともに使える武器はとうとうフォトンブレードだけになってしまった。

 飛んでくるプラズマ弾をフォトンブレードで弾いてしのぐが、すべてを防ぎきれず、装甲服のシールドは着実に削られていった。

 背後では雷鳴が轟き、風も激しく吹き荒び始めた。いよいよ時間切れだという言葉が頭をよぎる。

 肩で息をしながら、それでもレヴァリスはフォトンブレードを構え、前方から殺到するオートロイドの群れを見据えた。

『旦那ぁ、伏せろぉ!』

 通信機越しに聞き覚えのあるパイロットの声が響くと、レヴァリスはサレナを横たえた瓦礫の陰へ反射的に飛び込んだ。

 上空から飛来したミサイルが前方のオートロイド群を爆風で吹き飛ばし、機銃掃射が上空のウイングアイを次々と撃ち落とした。

 空を見上げると、巻き上げられた砂埃の向こうに待ち望んでいた降下艇の姿が見えた。

 降下艇は両翼の機銃で周囲への制圧射撃を続けた。やがて側面ハッチが開き、中から3人が飛び降りてきた。

 1人はギルド職員の制服姿のまま大型の重火器を携えたヴァリネクだった。レヴァリスを守るようにその前へ降り立つと、仁王立ちした。

「ここは任せておけ!」

 そう叫ぶと、ヴァリネクは12本の銃身を束ねた回転式重火器“トゥエルブ・アンサー”を構えた。

 本来なら地面に据えつけるか、車両に搭載して運用する重歩兵支援兵器だ。それを4本の腕で軽々と保持する姿は、ベルネリアンの怪力の証左であった。

 バレルがスピンアップすると轟音とともに正面へ弾幕が放たれ、レヴァリス達へ群がろうとしていたオートロイド達が次々と薙ぎ倒されていった。

 残る2人も地上へ降り立った。装備から見ていずれも上級冒険者のようだ。

 迅速にヴァリネクの側面を固めると、レヴァリスへ向かって手を振り、退避するよう合図を送った。

 それを見たレヴァリスは、直ちにサレナを横たえた場所へ向かい彼女を抱え上げた。

 サレナを抱えたまま降下艇へ走るレヴァリスを、ヴァリネクと2人の上級冒険者が弾幕で援護した。

「生存者を乗せた! 引き上げろ!」

 サレナの収容を完了すると、レヴァリスは外にいる3人へ向けて叫んだ。

「サーマルスモーク弾を使え」

「あいよ旦那!」

 レヴァリスの指示を受け、パイロットが降下艇の擲弾発射管からサーマルスモーク弾を発射した。

 広がった煙幕はオートロイドの視覚センサーと熱源探知機能をまとめて遮った。

 3人は煙幕に乗じて後退し、素早く艇内へ乗り込んだ。レヴァリスが全員の収容を操縦席へ知らせると、機体は一気に上昇した。

 強酸の嵐を背に、降下艇は宇宙ステーションへ向けて全速力で離脱した。あと少し遅ければ強酸の雨で機体はあっという間に溶かされていただろう。

 上級冒険者の1人がサレナに応急処置を施しているのを見たレヴァリスは、疲労で重くなった足を引きずるようにして近づく。

 HUDに表示されたサレナのバイタルは、地下でアナザーセンスを使った直後よりも持ち直していた。

 レヴァリスに気づいた上級冒険者は、処置を続けながら容態は大丈夫だと示すハンドサインを送った。

 その合図に頷き返したところで、ようやく任務を終えたのだと実感した。操縦席に近い座席まで歩き、力なく腰を下ろした。

「旦那、生存者を見つけてくれて感謝するぜ。ちゃんと連れ帰ってくれたんだな」

 パイロットは操縦席から肩越しに振り返り、満面の笑みを浮かべながら言った。

「ああ、約束は守る主義だからな」

 レヴァリスは疲れ切っていたがどこか満足げにそう答えた。

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