↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青藍のストライダー ~星々を駆ける冒険者たち~  作者: Omega Blue
第1話 10年目の縁

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/41

第1話 10年目の縁 7

 レヴァリスは改めて重力リフトの制御盤を確認した。

 制御盤には行き先として“第12集積拠点施設”と表示されていた。

 察するに製造された製品を集めてどこかしらに送るための施設のようで、その名称から地上に出る道もありそうだと考えられた。

「地上に出られる道がありそうだな。サレ——!?」

 レヴァリスはサレナに話しかけようとしたがすぐに異変に気づいた。

 サレナは息苦しそうにしながらレヴァリスの肩にぐったりと顔を寄せていた。

 すぐにHUDの医療診断機能を起動しサレナの腕を通して健康状態をチェックした。

「バイタル低下に体温も上昇している。これは……」

 診断結果は救出時よりも悪化していた。微熱程度ではあるが体温も上昇しており、この状況下では無視することはできなかった。

「ご、ごめんなさい……身体が怠くて」

「まずは水を飲め。薬も必要だろう」

 レヴァリスはブラスターライフルを傍らに置き、ユーティリティロープを解いた。

 サレナを近くの金属コンテナにもたれさせるように座らせると、小さな金属製の水筒を取り出してゆっくりと水を飲ませた。

 それから医療キット内にあった解熱剤と疲労回復剤を投与した。

「少しは楽になったか?」

「ありがとうございます、少しだけ身体が楽になりました」

 サレナは微笑んで答えたが顔色は明らかに良くない。ここまで状態が悪化するのは無理もないことだとレヴァリスは理解していた。

 ずっと背負われた状態で気が休まる状況ではなく、さらに製造工場内での援護で体力が限界であることは明白だ。

「地上まではもう少しだ。必ず道は見つけるから無理だけはするな」

「はい……頑張ります」

 そう力なく答えたサレナを見てレヴァリスは自身の至らなさに怒りを覚えたが、ひとまずは脱出に集中すべきだとすぐに冷静さを取り戻した。

 HUDの深度計を表示すると、宇宙ステーションとの通信が回復するところまで来ていることに気づいた。

 レヴァリスは通信感度を引き上げ、こちらの連絡を待っているであろうヴァリネクとの通信に備える。

 しばらくして通信状態を示すグラフがゆっくりと動き始めた。それを見るや直ちにヴァリネクに対して通信を発した。

「こちらレヴァリス、応答せよ」

『レヴァリスか!? 聞こえているぞ、状況を報告しろ』

「生存者を1名確保した、現在位置は……!?」

 レヴァリスはヴァリネクに状況を報告しようとしたが、次の瞬間に大きなノイズ音と共に通信状態が急激に悪化していく。

 すぐに通信機能を調整するがノイズは酷くなり向こう側の音声も認識できなくなる。

『……ス!……通信……!』

 ヴァリネクの方も異常に気づいてこちらに呼びかけているようだが、激しいノイズ音で声は掻き消えてしまい通信が途切れてしまった。

 通信状態を示すグラフはのたうち回るような動きをしており、その動きを見たレヴァリスは妨害電波によって通信を遮断されたと判断した。

 ところが通信が途絶してからも動いていたグラフは突如としてぴたりと動きを止めた。

 それから激しいノイズ音が徐々に収束していくと何者かとの通信が確立された。

『忌々シイ侵入者メ』

 明らかに怒気を含んだその機械音声を聞いてとっさにブラスターライフルを手に取った。その急な行動にサレナは何事かと驚いた表情でレヴァリスを見上げた。

 周囲を警戒したが通信機からそれ以上の声が発せられることはなかった。

 通信機を切ったレヴァリスは一呼吸を入れて落ち着くと、心配そうな表情を浮かべてこちらを見つめるサレナの方を向いた。

「レヴァリスさん、何があったんですか?」

「支部との通信を妨害された。だが、どうやら直接出向いてくる気になったようだ。そろそろ出発の用意をしよう」

「え、あっ……はい」

 その言葉にサレナは思わず困惑したが近くで姿勢を低くしたレヴァリスを見て再びその背に掴まった。

 ユーティリティロープを巻き直してサレナを再び背中に固定すると現在の装備の状況を確認する。

 おそらく次が正念場であるとレヴァリスは内心で確信していた。道中での戦闘で持ってきた弾薬も半減していることからこれ以上の継戦も厳しい。

 装備を一通り確認すると重力リフトが目的地へ到着することに備えた。

 

 やがて重力リフトは目的地である第12集積拠点施設と呼ばれる場所に到着した。レヴァリスは周囲を警戒しつつ再び早足で進み始める。

「工房街と構造が似てますね」

「そうだな。ただこっちは道も広いし倉庫が連なっている。人よりも車両が行き交っていたようだ」

 周囲の状況を見渡したサレナの言葉にレヴァリスは同意しつつその差異を指摘する。

 工房街と比較すると車両用だったのか道幅が広く、所々には風化しつつある輸送車両が残されていた。

 横転した車両や壁に激突したようなものが目立ち、銀河帝国が滅んだその日の混乱ぶりがそのまま残されているようであった。

 倉庫の外側には電子看板があり出荷予定や配送物に関する情報が表示されていた。

 レヴァリスがちらりと見ると製造品は他の工場や宇宙港に送られる予定だったようだ。

「ひっ……!」

 しばらく道路を進んでいると突然サレナが小さく悲鳴を上げた。

 それを聞いたレヴァリスは即座に足を止め、ブラスターライフルを前方へ構えた。

 背中越しに彼女の身体が震えているのが伝わる。彼女の呼吸が荒くなるのを感じたレヴァリスは正面に目を凝らした。

 遥か前方の通路の先に赤い光が見えた。それはまるで怒りの炎の如く揺らめきながらこちらをじっと見つめていた。

「レヴァリスさん……あ、あれってまさか」

「ああ、ヴェンジ・シーカーだ」

 震えながら発せられたサレナの問いにレヴァリスは静かに答えた。

 前方に現れたのは間違いなくヴェンジ・シーカーであった。赤い光は頭部に搭載された3点の視覚センサーのものであり、逆三角形に取り付けられたそれは目のようにも見える。

 レヴァリスはこれまでの道中で視線のようなものを感じていた。それは冒険者としての経験によるあくまで勘であり確証はなかった。

 だが、白い棺のような装置が並べられた部屋で開いている装置を2つ見た時、レヴァリスは何かがもう1体いることを確信していた。

 そしてサレナのいた部屋で倒されていたヴェンジ・シーカーを見たレヴァリスは最悪の状況を想定するに至った。

「嫌な予想ばかり当たる」

 脱出時に別のヴェンジ・シーカーと遭遇する。考えうる限り最悪の状況が実現したことを忌々しげに呟いた。

 サレナは倒されていたものと同型の脅威が現れたことにすっかり怯え、縮こまっている。

 震える彼女の恐怖心を感じながら、レヴァリスはブラスターライフルを握る手に力を込めた。

 通信機に再び通信が入るとそれは目の前にいるあのヴェンジ・シーカーからのものであった。

『弟ハモウイナイ。オ前達ガ奪ッタ。ズット一緒ダッタ、唯一ノ弟ヲ……!』

 無機質なはずの機械音声から明確な怒りと殺意をレヴァリスはひしひしと感じた。

 弟という言葉からして調査隊を襲ったのは兄弟機だったようだ。ならばあの怒り様にも説明が付く。

 本来であれば慎重を期すヴェンジ・シーカーは、奇襲や追撃を仕掛けるとき以外はそう姿を現すことはない。

 それがわざわざ目の前に姿を現した。その憤怒は本来プログラムされているはずの戦闘教義すら塗り替えるほどなのだろう。

 レヴァリスは冷静さを保ちつつ銃口をただ真っ直ぐと、遥か前方にいるヴェンジ・シーカーへ向けたまま態勢を崩さなかった。

 ヴェンジ・シーカーもまたレヴァリスをじっと見据えていた。腕部に格納された合金ブレードを展開して臨戦態勢のまま互いに睨み合っている。

『ダガ、今度ハ私ガ奪ウ番ダ』

「やってみるがいい」

 通信越しの会話を合図にレヴァリスとヴェンジ・シーカーは互いに相手に向かって突撃を開始した。

 ヴェンジ・シーカーは両腕のプラズマガンを乱射しながら不規則な動きで迅速に距離を詰めていく。

 それに対してレヴァリスは車両の残骸を盾にしながら、2発ずつヴェンジ・シーカーに向けてブラスター弾を撃ちながら進んだ。

 お互いに接触するまであと半分という距離でヴェンジ・シーカーは急に唸るような機械音声の咆哮をあげた。

 そして突然近くの倉庫の扉を左腕のブレードによる一撃で破壊すると内部に入り込んだ。

「逃げた!?」

「いや、仕切り直すつもりだろう。弱点を狙っているのがバレた」

 レヴァリスはその行動を仕切り直しだとすぐに判断し、同時にこちらの意図に気づかれたことも悟った。

 ヴェンジ・シーカーは上位の軍用機種だけあってその華奢な見た目に反し頑丈である。

 その一方で武装が腕部に集中しているため、その関節部分には負荷が掛かりやすく弱点となっていた。

 過去の遭遇で弱点を知っていたことから左腕の関節部分に狙いを絞って撃ち続けていたのである。

 さらに最初の弾はわざと外して次の弾を確実に当てることで弱点を狙っているとは悟らせないようにしていた。

 すぐに気づかれてしまったがそれでもヴェンジ・シーカーにとって無視できないダメージは与えられたとレヴァリスは判断した。

「さて次はどう仕掛けてくるか」

 そう呟きながらレヴァリスは周囲を見渡して次の攻撃に備える。

 ヴェンジ・シーカーは倉庫に入り込んだがもうそこから移動していると考え、次はおそらく奇襲を仕掛けてくるだろうと予測した。

 ただでさえこの場所はレヴァリスにとっても未知の場所であり地の利が向こう側にあることは明白だった。

「上の階からフリーリィが来ます!」

 サレナは2階の方を右手で指してフリーリィの接近を告げる。高所から攻撃されては不利だと判断し、レヴァリスはすぐに通路の中央から端へ移動する。

 フリーリィの群れは2階の通路から身を乗り出し、プラズマガンによる一斉射撃を階下にいる2人へ向けて撃ち放つ。

 倉庫部屋の軒先で攻撃をやり過ごしつつレヴァリスは走りながら応戦するが、すぐに自身の位置を誘導されているという事に気づいた。

「そういうことか。サレナ、身体にしっかり掴まっておけ」

 レヴァリスはそう言うと、弾倉がちょうど空になったブラスターライフルを腰部のウェポンホルダーに収納する。

「ええっ!?」

 サレナは突然武器を収めたレヴァリスに対して驚愕したが、次の瞬間に扉を破壊していきなり現れたヘッドレスを見て反射的にレヴァリスの身体を強く掴んだ。

 唸り声を上げながらヘッドレスは扉を破壊した勢いもそのままに、左腕を力任せにレヴァリスに向けて振りかぶってきた。

 だが、レヴァリスはその振りかぶられた左腕を両手で受け流すように掴むと、捻りながら力任せに引き千切った。

 そのまま千切った左腕でヘッドレスを殴りつけて倒すと、間髪入れずに後方へ大きく振り抜いた。

「ナニ!?」

 いつの間にか後ろから接近していたヴェンジ・シーカーは、予期せぬ一撃を避けることもできなかった。

 装甲服のパワーアシストを乗せた横薙ぎの一撃が直撃する。

 とっさに右腕で庇ったものの、叩きつけられた衝撃でその右腕は粉々に破壊され、ヴェンジ・シーカーは苦悶の声を上げた。

 さらにレヴァリスは予備のブラスターピストルを抜いて追撃し、ヴェンジ・シーカーの左腕の関節部に深刻な損傷を与えた。

 それでもヴェンジ・シーカーは火花を散らす左腕のプラズマガンを乱射し、僅かな隙を作るとその場から全速力で離脱した。

「やった……あれだけの損傷ならもう追って来ないのでは?」

「いや——」

 レヴァリスの戦いぶりに驚嘆するサレナとは対照的に、当人は間近で見たヴェンジ・シーカーの姿に気がかりな点を見つけていた。

「サレナ、あいつは背中に何か背負っていたか?」

「ええっと……そういえばバックパックみたいなのを背負っていました」

「他に形状の特徴は?」

「アンテナみたいなものが2本あったような……すみません、それ以上は覚えてないです」

 レヴァリスは収めていたブラスターライフルを取り出し、弾倉を装填しながらサレナの証言と自身の記憶を照らし合わせる。

 試験研究区画で機能停止していた個体は、レヴァリスがかつて遭遇した機体と同一の姿をしていた。

 冒険者ギルドのデータベースに記録されているものとも一致しており標準型で間違いない。

 ところが今回見た機体は背中に見慣れない装備を取り付けていた。

 試験研究区画という場所の存在を考えるとあの機体は何らかの試験機という可能性も浮かび上がる。

「イレギュラーな機体……何か隠しているな」

 バックパックという形から何らかの装備を追加しているとレヴァリスは考えた。問題はそれがどのような機能を有しているかだ。

 アンテナのような突起の存在から通信機能を強化するものか、あるいはこちらの通信を妨害する装置だとまずは推測する。

 宇宙ステーションとの通信障害の理由にもそれなら説明がつくため妥当な予想ではあった。

 しかし、レヴァリスはどうにも自分が納得できる答えではないと感じていた。

「奴が退いている隙に進むべきだな」

 レヴァリスは何か引っかかるものを覚えながらも先へ進むことにした。両腕を破損させた以上はまともに攻撃を仕掛けられないだろうと考えていたからだ。

 

 集積拠点を進み続けるとそれまでよりもさらに広大な空間に出た。

 レヴァリスが周囲を見渡してみると大型の輸送機や輸送車両の残骸と思しきものがあちこちに見られた。

 天井を見上げると閉じられてはいるが巨大な開閉ハッチのようなものが見え、かつては輸送機に貨物を積み込むための発着場であったとレヴァリスは考えた。

「レヴァリスさん、あの塔の上を見てください!」

 サレナが指した先には管制塔らしき建造物があり、その上から待ち構えていたヴェンジ・シーカーがこちらを見下ろしていた。

 左腕部分は損傷が酷いのかだらりと垂れ下がり、関節部からは火花がパチパチと上がっている。

 完全に破壊された右腕にいたっては剥き出しとなったケーブルが垂れ下がり、循環液らしきものが血のように滴っていた。

 レヴァリスは嫌な予感を覚えた。とても戦闘ができる状態でないはずなのに何故出てきたのか理解できなかった。

 ヴェンジ・シーカーは2人を見据えたまま咆哮を上げ、管制塔から飛び降りると一直線に突進してきた。

「ヤケにでもなったのか」

 すぐにレヴァリスは残っている左腕の関節部にブラスター弾を集中的に撃ち込む。

 左腕の関節部に複数のブラスター弾が命中し、ついに左腕は脱落するように地面に落ちていった。

 だが、ヴェンジ・シーカーはそれでもなお速度を落とさずレヴァリスに向けて突っ込んでくる。

「まさか——」

 レヴァリスはここに来て自身の考えが間違っていたことに気づいた。ヴェンジ・シーカーはまだ攻撃手段を全て失っていないのだと。

 咆哮を上げるヴェンジ・シーカーの背部が蠢きだす。

 バックパックと思われていた部位が無数の粒子へ分解され、失われた両腕へと流れ込み始めた。

 粒子は腕の形を取りながら硬質化し、新たな両腕を形成していく。

「ナノマシンで腕を直しやがった」

 レヴァリスはそれがナノマシンによるものだと即座に判断した。背負っていたバックパック自体が修復用ナノマシンの塊だったのである。

 さらに背中に残った2本の突起をそれぞれ引き抜くと、その先端から緑色のプラズマ光刃が展開された。

「嘘、プラズマブレード!?」

「くそっ、よりにもよって——!」

 ヴェンジ・シーカーは新たな両腕に2本のプラズマブレードを握りしめて2人へと接近してくる。

 すぐにレヴァリスはブラスターライフルを再び腕部に狙いを定めて撃ったが、ヴェンジ・シーカーは両手首を風車のように高速で回転させた。

 回転するプラズマブレードの光刃はまるで盾の様に放たれたブラスター弾を全て打ち消してしまった。

 それを見たレヴァリスはブラスターライフルを腰部のウェポンホルダーに収めた。そして腰に下げていた金属の柄のような物を取り出した。

「レ、レヴァリスさん……」

「心配するな。こんなところで終わるつもりはない」

 震えているサレナにそう伝えるとレヴァリスは突撃してくるヴェンジ・シーカーの真正面に立った。

 それを見たヴェンジ・シーカーは勝利を確信したのか、さらに速度を上げて一直線に距離を詰めてくる。

「こいつを使うことになるとはな」

 レヴァリスは金属の柄を右手に握り、親指でスイッチを押し込んだ。

 金属の柄が光り輝くとそれは一瞬のうちに純白の光の刃を形作った。

 形成された刃の表面は波打つように揺らめき、また光の強弱が幾何学的な文様を浮かべていた。

 背中でサレナが息を呑む気配がした。レヴァリスが起動したのは、銀河帝国時代の遺物である“フォトンブレード”だった。

 跳躍して飛びかかってきたヴェンジ・シーカーの2本のプラズマブレードを、レヴァリスはフォトンブレードで受け止めた。

 ヴェンジ・シーカーは続けざまに連撃を加えるが、レヴァリスは流れるような動きで柔軟に受け流していった。

「オノレエ!」

 苛立ち気味にヴェンジ・シーカーが吠える。プラズマブレードによる連続攻撃は全て防がれておりどうしても決定的な一撃を与えられない。

 フォトンブレードの刃が突如消えたかと思えば、不意に起動してその刃をまた繰り出すという戦法は先が読みづらかった。

 この戦い方にヴェンジ・シーカーは完全に翻弄されており冷静な判断力を失っていた。

「思ったよりキツいな」

 だが、レヴァリスの方もまた攻め手には欠けていた。今の状況でフォトンブレードによる近接戦闘は大きな負担を強いていた。

 背負ったサレナを近接戦闘に巻き込むこと自体、彼女を大きな危険に晒す行為であり、この武器を使うのは最後の手段だと考えていたからだ。

 何より人を背負っているため動きが制限され、体力と神経も大きく消耗していった。

「長期戦は不利か」

 レヴァリスはそう呟くと柄の握り方を変えて力強く握りしめた。

 すると形成されていたフォトンの刃が形を変えて分厚くなり、柄の部分も延長されて両手で持てるだけの長さに変形した。

 両手でフォトンブレードを握ると、レヴァリスはプラズマブレードによる連撃を力を込めた一振りで弾き返した。

 そのまま踏み込んでさらに斜め上からの一閃を見舞う。ヴェンジ・シーカーは後方に飛び退いて回避したが胴体部に大きく傷を付けられた。

 だが、それが完全に火を付けたのかヴェンジ・シーカーはさらに苛烈な猛攻を見せ始めた。周辺にあるあらゆる物を切り刻みながら、さらに猛攻を仕掛ける。

「私ハ兵器。侵入者ヲ追イ、殺スモノ。ナノニ……」

 レヴァリスに対する猛烈な攻撃の最中に、ヴェンジ・シーカーは言葉を発した。

「オ前達ハ私ニ兄弟ヲ与エタ。感情ヲ与エタ。意思ヲ与エタ。答エロ、何故タダノ兵器ニ魂ヲ与エタ!」

「——!」

 ヴェンジ・シーカーの魂の奥底からの叫びを聞いたレヴァリスはその答えを返すことができなかった。

 それは、銀河帝国の遺跡を探索する冒険者なら、いつか突き当たる難題だった。

 なぜ帝国末期のオートロイドは兵器にまで人格と感情——魂と呼ぶべきものを与えられたのか。

 人工知能の反乱から5万年、多くの冒険者が答えを求めてきたもののいまだ誰も見いだせていない。レヴァリスもその1人だった。

「俺が答えを知りたいぐらいだ」

「ホザケエ!」

 レヴァリスの挑発めいた言葉にヴェンジ・シーカーは猛烈な攻撃をさらに加速させていく。防戦一方であったが彼は僅かな隙が生じるのを見逃さなかった。

 左右からの同時攻撃をレヴァリスは受け止めると、一気にフォトンブレードで押し返してヴェンジ・シーカーを大きく仰け反らせた。

 今度こそ一撃を加えようとしたレヴァリスだったが、ヴェンジ・シーカーの腰から何かが地面へと落ちた。

「しまっ——」

 次の瞬間、地面に転がった丸い物体から眩い閃光が炸裂した。

 レヴァリスは反射的に防御態勢を取ったが、目が眩んでしまい前がほとんど見えない状況であった。

 フルフェイスヘルメットの調光機能が作動したものの、至近距離から浴びた閃光には調整が追いつかなかった。

 ヴェンジ・シーカーはその間に体勢を立て直すと、ほとんど無防備な状態となったレヴァリスに向けて2本のプラズマブレードを振り下ろした。

「させない!」

 レヴァリスははっきりとしない視界の中でサレナの叫び声を聞いた。

 2本のプラズマブレードが何かに当たる激しい音が聞こえたが、身体にも手にしたフォトンブレードにも衝撃は伝わってこなかった。

「なっ——!?」

 レヴァリスの眩んでいた視界が戻るとそこには信じがたい光景があった。

 サレナは両腕をレヴァリスの肩越しに伸ばし、その前で手を広げていた。その先には薄く青いヴェールのようなものが展開された。

 ヴェンジ・シーカーの持つ2本のプラズマブレードは火花を散らしながら青いヴェールに阻まれ、その刃はレヴァリスには届いていなかった。

 サレナはレヴァリスの背中に隠れていたため、閃光の直撃を免れていた。

 そしてプラズマブレードの刃が迫る瞬間、感情を爆発させた彼女は自らの力を解放した。

「私が守らなくちゃ……もう誰にも死んでほしくない!」

 サレナの叫びは青いヴェールの守りをより強固にしていた。ヴェンジ・シーカーは必死にプラズマブレードを叩きつけるが激しい火花を散らすだけであった。

「コレハ何ダ!? プラズマ、否! フォトン、否!」

 ヴェンジ・シーカーは突然の出来事に困惑していた。解析してもその正体を掴めずにいるようで、ただがむしゃらにプラズマブレードを振るっている。

 だが、レヴァリスはその正体を知っていた。それは知覚種族に稀に発現する、“アナザーセンス”と呼ばれる力である。

 これは超常的な力として知られており、サレナが製造工場で見せた驚異的な索敵能力もまたこの力の一部であった。

「サレナ、障壁を解け!」

 立ち直ったレヴァリスが叫ぶとサレナは伸ばしていた手を下ろした。

 そして2人を守っていた青いヴェールが消えた瞬間、レヴァリスは一気に正面へ飛び出した。

「死ネエ人間!」

 ヴェンジ・シーカーは踏み込んできたレヴァリスに対して、両腕のプラズマブレードを交差させて振り下ろした。

 だが、レヴァリスは振り下ろされた刃の前で動きを止めて間合いに入るのを回避する。そしてフォトンブレードによる渾身の一閃によって両腕を同時に切断した。

 両腕を失って後ろによろめいたヴェンジ・シーカーへさらに踏み込み、その胸部に鋭い刺突を繰り出した。フォトンブレードが弱点であるコアを勢いよく貫いた。

 致命傷を受けたヴェンジ・シーカーは力なく仰向けに倒れた。視覚センサーが発していた赤い光が徐々に消えていく。

「弟ヨ……イマ行ク……カラ……ナ」

 それは怒気に満ちた声ではなく、穏やかで静かな声だった。

 まるで解放されたかのようにヴェンジ・シーカーはそう呟くと完全に機能を停止した。

 息を荒げながら機能停止を見届けたレヴァリスは、そこでようやくフォトンブレードの光刃を収めた。

 どうにか撃破できたものの、最期に弟を求めた静かな声が胸に重く残った。

「サレナ、助けてくれて感謝する……おい、サレナ?」

 レヴァリスは自分を助けてくれたサレナに感謝を伝えたが返事はなく、すぐに自身の血の気が引くのを感じた。

 慌ててHUDの医療診断機能を起動すると、意識を失ったサレナの容態は著しく悪化していた。

 表示された“危篤”の文字を見て、レヴァリスは自分自身を激しく罵った。

「しっかりしろサレナ、後は脱出するだけだ!」

 レヴァリスはそう言いながら、医療キットから緊急処置用のスティムインジェクターを取り出してサレナに打ち込んだ。

 脈拍はわずかに持ち直したが、依然として危険な状態に変わりはない。

 レヴァリスは地上への道を探して走り始めた。

感想、レビュー、ブクマ、評価をお待ちしてます( ・3・)b

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。