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青藍のストライダー ~星々を駆ける冒険者たち~  作者: Omega Blue
第1話 10年目の縁

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第1話 10年目の縁 5

 室内に突入したレヴァリスの目に入ったのは凄惨な光景であった。

 薙ぎ倒された大型機械が将棋倒しのように重なり、床には夥しい量の血とその中に沈むように冒険者達が倒れていた。

 レヴァリスはブラスターライフルを構えつつ、HUDに表示されたモーショントラッカーの反応を警戒しながらゆっくりと部屋の中央に歩みを進める。

 部屋の内部は冷え込んでおりこれまでよりも肌寒く感じた。破壊されてもまだ動いている大型機械からは鈍く軋む駆動音がうめき声のように聞こえてくる。

 中央には人型のオートロイドが膝から崩れ落ちるようにして機能停止していた。そのすぐ側には首のない冒険者の亡骸がうつ伏せに倒れている。

「よりにもよって“ヴェンジ・シーカー”とはな……」

 機能停止したオートロイドを見たレヴァリスは忌々しげにその名を口にした。そして40人もの調査隊を壊滅させた元凶と対面したことでその理由に納得せざるをえなかった。

 ヴェンジ・シーカーは華奢な身体をした人型の軍用オートロイドだ。重要な政府施設や軍事施設に配備されていることがあり危険度で言えば上位に位置する。

 頭部には目玉のような3つの複合センサーが搭載され、腕部分に合金製の鋭いブレードと速射型プラズマガンを装備していた。

 配備された施設では上位の権限を有しているらしく他のオートロイドを指揮することもあり、自分に有利な状況を作り出してから奇襲を仕掛けるなど狡猾な知能を持つ。

 またレヴァリスも過去の探索で遭遇しており熟練の上級冒険者であっても油断ならない相手だった。

「通風ダクトから侵入したのか」

 上から吹いてくる風を感じて天井を見上げると大きな裂孔ができていた。

 扉を突破できず退いたヴェンジ・シーカーに対してパーティは油断したに違いない。大広間と道中の戦闘でパーティの疲労はピークに達し、思考も鈍っていたのだろう。

 あるいはこの部屋に閉じ込めることこそが狙いだった可能性もある。そう考えるとレヴァリスはその狡猾さに内心で毒づいた。

「弱点のコアを貫かれている。相打ちだが一矢報いたか」

 機能停止したヴェンジ・シーカーの胸部にはバイブロブレードが深々と突き刺さっていた。刃は背中にまで達しており内部にあるコアを貫通したようだ。

 バイブロブレードは起動すると刃を高速振動させ、切断能力を大幅に向上させる。護身用からサバイバル用まで幅広く使われ、中級冒険者が携行することも多い。

 オートロイドの頑丈な装甲であっても、ある程度は貫くことができた。

 遺体は前にのめりこむ形で倒れており最期の一撃に全力を賭けたのだろう。

「これは……」

 レヴァリスはふと血溜まりの中に何か落ちているのを見つけると拾い上げた。

 それはチェーンに繋がれた“ストライダーカード”と呼ばれる小さな金属製のカードだった。これは冒険者ギルドに所属する冒険者であることを示す身分証であった。

 血を拭ってからカードの裏側に刻まれたコードをHUDの機能で読み取ると、すぐにこの冒険者に関する情報が簡易的に表示された。

 死亡した冒険者の名前は“レセル・アドガード”という人間男性の中級冒険者であった。偶然にもレヴァリスとは同じ22歳だった。

「優秀な奴だったのに惜しいものだ」

 情報をざっと見るとレセルが冒険者として優秀な人物であったことを知り、相打ちという形で亡くなったことを残念そうに呟いた。

 死のその瞬間まで戦ったレセルに敬意を抱きつつ、彼のストライダーカードを腰の収納ポーチに収めた。

「これだけはいつも気が滅入る……」

 そう呟くとレヴァリスは他の冒険者達の遺品も回収することにした。

 念のために後方からの侵入を警戒し、先ほど蹴り開けた扉を閉めた。

 冒険者ギルドの規定では状況が許す限り、ストライダーカードだけは最低でも回収しなければならなかった。

 戦闘などによって遺体が激しく損傷していることは珍しくない。それでもこのカードさえ見つければ、遺体の損傷が激しくても死亡者の身元を特定できる。

 レヴァリスにとって何度も経験してきたことではあるが、辛い作業であり慣れることはなかった。

 遺体からストライダーカードを取り出すたびに過去の経験が頭をよぎる。そのたびに手を止めてその記憶を振り払わねばならなかった。

 ストライダーカード以外の遺品もできれば回収したかったが、今回は単独ということもありそれは諦めざるをえなかった。

 ここにある遺体はもうしばらくすれば、上層にいたクリーナー達によって片付けられてしまうだろう。カードだけでも回収できたことはむしろ幸運とさえ言えた。

 5人目の遺体からストライダーカードを回収したレヴァリスは、亡くなった冒険者の見開かれたままの虚ろな目を閉じてやり、立ち上がろうとした。

「!?」

 だが、レヴァリスはすぐさま微かな物音に気づき、即座に戦闘態勢を取った。HUDのモーショントラッカーにも一瞬だが反応があり、部屋で何かが動いたのは確かなようだ。

 姿勢をやや低くし、足音を立てないよう物音のした方へ慎重に近づいた。

 そこには大型機械がいくつも折り重なるようにして倒されていた。銃口を正面へ向けたまま耳を澄ませる。

「だ……誰か……」

 聞こえてきたのは人の声だった。レヴァリスは驚愕するとブラスターライフルを地面に投げ捨て倒れた大型機械を掴んだ。

 着用しているヴァンキッシュ級コマンドーアーマーはパワーアシスト機能を備えており、かなりの重量物であっても持ち上げることができた。

 倒れていた大型機械を投げ捨てるようにどかしながら、やがて下敷きになっていた人間の少女が姿を現した。

 大型機械同士が支え合って生じた隙間に身体が収まっていたため、辛うじて押し潰されずに済んだらしい。折り重なった金属がモーショントラッカーを遮っていたようだ。

 長いプラチナブロンドの髪がよく目立ち、紫色の瞳が怯えるようにレヴァリスを見つめていた。

「まさか生存者がいたとは……」

「あ、貴方は誰ですか?」

「上級冒険者のレヴァリスだ。救援に来た、遅くなってすまない」

 レヴァリスが名を告げると彼女は安堵したかのような表情を浮かべた。

 部屋の凄惨な状況から生存者はいないと早合点していた。判断を誤った自分にレヴァリスは内心で毒づいた。

「私、サレナ・アルナミュールです。えっと下級冒険者で……痛っ!」

 自らの名前を告げたサレナだったが、突然小さな悲鳴を上げて身をよじった。

「どうした?」

「あ、足が痛くて……」

「すぐに見る」

 レヴァリスはヘルメットに内蔵された医療診断機能を起動し、サレナの身体を頭から足先まで走査して負傷箇所を調べた。

 HUDには両足の骨折という診断結果が表示された。身体のあちこちにも裂傷や擦り傷が目立っている。

 さらに負傷と長時間の衰弱によって、彼女のバイタルサインは危険な数値を示していた。

 本格的な治療を受けさせるため、すぐに宇宙ステーションへ連れ帰る必要があった。

「応急処置をする。少し痛むが我慢しろ」

「は、はい」

 レヴァリスはそう言うと腰のユーティリティポーチに収納された医療キットを取り出した。

 まず、鎮痛作用のある薬液が入ったカプセルをオートインジェクターに装填し、サレナに打ち込んだ。10秒ほどで薬が効き始め、苦痛に歪んでいた表情がわずかに和らいだ。

 続いて、カーボンメモリ・スプリントと呼ばれる骨折用の器具を取り出した。

 巻き尺型のカセットに収められた紐状のスプリントを、骨折した両脚へ素早く巻き付けていく。

 両脚に巻き終えると、カセット側面のピンを押して内部に空気を送り込んだ。紐状のスプリントは膨張と同時に硬質化し、骨折箇所を固定し保護した。

 残る裂傷や擦り傷には、殺菌と止血を兼ねたメディカルスプレーを吹き付けた。大きめの傷にはさらに治療テープを貼り表面を保護した。

 念のため医療診断機能でもう一度容態を確認し、一通りの応急処置を終えた。

「処置は済んだ。大丈夫そうか?」

「ありがとうございます。あの、他の人達は無事ですか? それにあのオートロイドも……」

 サレナの質問に対してレヴァリスはどう答えるべきか迷いが生じたが、すぐにありのままの状況を伝える決断をした。

「調査隊は宇宙ステーションに4人しか戻れなかった。生存者はお前で5人目だ」

「私で5人目……? あの、レセルさんやパーティの皆は?」

「それは——」

 レヴァリスは少し言葉に詰まったが他の冒険者達の死は隠せない。身体を横に動かして部屋全体の惨状をサレナが見えるようにした。

 サレナはそれを見てその言葉が事実であるということに強く打ちひしがれて身体を震わせた。

「私はあれが天井から襲いかかってきた時に吹き飛ばされたんです。何もできなくて、それなのに私だけ生き残るなんて……」

「お前達を襲ったヴェンジ・シーカーは上級冒険者でも苦戦する相手だ。むしろここまでよく戦って生き延びたと言ってもいい」

 実際にレヴァリスは中級と下級冒険者によるパーティが、ヴェンジ・シーカーの追跡をかわしながら、ここまで逃げ延びたことに驚いていた。

 隠された通路を見つけた幸運もあるかもしれないが、それでも戦闘の痕跡を見る限りでは実力も相応にあったようだ。

 それだけに有望な冒険者達が死んでしまったことがレヴァリスには残念でならなかった。

「お前が死んだらレセル達の死は無駄になる。だからまずは生き延びることだけを考えろ、いいな?」

 だからこそ彼らの死に報いるためにも、このパーティで唯一の生存者となったサレナを生きて帰すと決心していた。

「——はい」

 サレナはレヴァリスの言葉を聞いて表情を固くしたが、やがてその意味を読み取ったのか静かに頷いた。

「よし、俺の背中につかまれ。脱出するぞ」

「えっと、わかりました」

 サレナの上体を起こしてから、レヴァリスは片膝を床についた。少しぎこちない動作でサレナは両腕を肩に回し、背中へ身体を預ける。

 レヴァリスはユーティリティロープを取り出し、骨折箇所に負担がかからないよう、サレナの腰と両脚を自分の身体に固定した。それからゆっくりと立ち上がった。

「重くありませんか?」

「大丈夫だ。さすがに動きにくくはなるがな」

 パワーアシスト機能により、サレナの重量そのものは大きな負担にならなかった。両腕も自由に動かせるため、武器を使うことができる。

 とはいえ、背中の重みで重心が変わり、普段より動作が遅れるのを感じた。

 床に放り出したブラスターライフルを拾い上げると、身体を慣らすようにゆっくりと部屋の入口へ戻った。

 その間にサレナは部屋に倒れている仲間の冒険者達の遺体を、目に焼き付けるようにじっと見ていた。

 彼女の中の葛藤や無念さをレヴァリスはただ背中越しに感じることしかできなかった。

「みんな……ごめんなさい」

 レヴァリスは先ほど閉めた扉に手をかけた。サレナは倒れた仲間達に、かすかな声で別れを告げた。

 その言葉を聞き届けると、レヴァリスは意を決して扉を開けて上層を目指して進み始めた。

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