第1話 10年目の縁 4
レヴァリスは前方を警戒しながら、薄暗く狭い通路を慎重に進んだ。
冒険者として銀河帝国の様々な遺跡を巡ってはいたが、このように隠されている通路を見つけたのは初めての経験だった。
救助任務でなければ好奇心から胸を躍らせただろうが、この状況ではむしろ危険度がより増したと考えねばならなかった。
しばらく進むと通路の奥には重力リフトのある小部屋があった。
制御盤に触れて行き先を確認してみると複数の行き先が表示されたが、ほとんど封鎖されており行ける場所は1つだけだった。
「“試験研究区画”だと? 随分と怪しくなってきたな」
表示された行き先の文字を見て、この先が別の施設に繋がっていると確信した。
とはいえ、まずはこの発見を支部長に報告すべきだと判断してすぐに連絡を入れる。
「ヴァリネク支部長、“試験研究区画”という場所に向かう重力リフトを発見した。この惑星に研究施設の類はあるのか?」
『他の地下遺跡で回収された記録では、当時のいくつかの企業が研究施設を地上に置いていたらしい。だが、地下で発見されたことはこれまでない』
「巧妙な隠し具合を考えるとこれは企業じゃなくて政府のものと見るべきだな。行って確かめるとしよう」
制御盤を操作すると重力リフトはゆっくり加速しながら地下へと降りていった。
先ほど工房街へ下りたときよりも長い降下が続いている。やがてHUDに表示された通信状態を示すグラフの波形が乱れ始めた。
「重力リフトでかなり降りているがこちらを追跡できているか?」
『かなり深いところまで来ているな、もう3キロル以上も潜っているぞ。あと500メトルも潜ったらこちらは通信どころかそちらの位置も把握できん』
ヴァリネクとの通信には先ほどよりもノイズが目立つようになっていた。彼の言う通りこれ以上降りれば通信はおろか追跡することもできなくなる。
「この分だと孤立状態は避けられそうにない。数時間以内に俺から連絡がなければ死んだと思ってくれ」
『分かった、こちらもすぐ回収できるよう準備しておく。死ぬなよ』
「ああ、また連絡する」
そうレヴァリスが言った直後に通信状態を示す波形が大きく乱れ、グラフの反応が消失した。
これで上層へ戻るまでは支部と連絡を取ることができなくなった。
重力リフトが停止してからレヴァリスはHUDの表示を通信状態のグラフから深度計へ切り替えて確認する。
どうやら現在位置は地表から約5キロル下のようだ。
到着した“試験研究区画”の内部は、真っ白な壁と無影灯を思わせる白色照明で統一されており、工房街や大広間とはまた違う建築様式だった。
しばらく通路を進むとパーティと未知のオートロイドとの間で起きた戦闘の痕跡が見つかった。
壁にはブラスターの弾痕が残り、床には空の金属製コンテナが通路を塞ぐように散乱していた。
どうやらパーティの冒険者達は交戦しながら奥へ逃げていったようで、視界が開けていることもあり足を速めて彼らの痕跡を辿っていく。
やがてレヴァリスは扉が開いたままの部屋を見つけた。中に入ると壁に沿って液体で満たされたカプセルが整然と配置されている。
カプセルの中にはオートロイドが標本のように浮かんでいた。分解途中の機体や骨格だけのものなど状態は様々だ。
だが、どのオートロイドもまるで生きたまま解剖されたかのようだ。
頭部には苦悶の表情が刻まれ、口元は叫び声を上げるかのようにぱっくりと開いていた。
「研究室というよりは拷問部屋だな」
カプセルの中に浮かぶオートロイドを見たレヴァリスは嫌悪感を込めてそう呟くと再び歩み始めた。
さらに進んでいくと今度は白い棺のような装置が並べられた部屋に入った。
先ほどの部屋とは違って機械の駆動音もせず、不気味なまでの静けさに満たされていた。
並んだ白い棺の大半は電源が落ち、機能を停止していた。
しかし、壁際には扉の開いた白い棺が2つあり、そのうち片方だけステータスランプが赤く点滅していた。
「片方は開いてからまだ間もないのか」
表示部にも、直近に扉の開放動作が行われたことを示す警告が残っていた。
嫌な予感を覚えたが、調査隊が襲撃を受けてから既に7時間が経過している。
今はパーティの発見を優先すべきだと判断し、先を急ぐことにした。
白い棺の部屋を出ると再び戦闘の痕跡を見つけた。
ここではさらに激しい戦闘が行われたらしく、血痕も目立っていた。パーティはかなり追い詰められていたようだ。
まっすぐな通路を警戒しながら駆け抜けると、やがて通路の突き当たりに頑丈そうな扉が現れた。
扉の表面にはプラズマ弾の痕と、何か鋭利なもので斬りつけたような傷が残っており、外側から破壊しようと試みた形跡があった。
「これは——」
レヴァリスは床に落ちていた機械の残骸を見つけると拾い上げて確かめる。
それは冒険者が偵察や囮として使うミニドローンで、冒険者ギルドの支部などでも購入できる安価な使い捨ての機種であった。
機体は胴体から真っ二つに切断されていた。また、切断面の滑らかさから、敵が強力な近接武器を装備していたことが推測できた。
周囲の床を見ると機械やオートロイドを一時的に麻痺させるEMPグレネードの破片を見つけた。
「ミニドローンを囮にEMPグレネードで足止めをした感じか。そうなると……」
その場所で何が起きたかを考えながらレヴァリスは扉の方を再び見た。そうして生じたわずかな隙に、パーティは扉の向こうへ逃げ込んだのだろう。
そして未知のオートロイドは、内側から閉じられたこの扉を突破できなかったらしい。
扉の向こうで、パーティがまだ籠城している可能性がある。
ヘルメットに内蔵された通信機を起動し、通信範囲を最小に設定してから扉の向こう側へ呼びかけた。
「こちらは上級冒険者のレヴァリスだ。調査隊の冒険者、中にいたら応答してくれ」
レヴァリスは呼びかけに対する応答を待ったが返事は来ない。
通信範囲を少し広げて再び呼びかけてみたがやはり応答がない。今度は扉を叩いて反応を見ようと近づいた。
「——開いている!」
閉ざされているはずの扉には、わずかな隙間が空いていた。レヴァリスはすぐにブラスターライフルを構え直す。
一歩下がって身構え、勢いよく扉を蹴り開けると内部へ踏み込んだ。
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