エピローグ 新たな伝説の担い手 1
レヴァリスが目を覚ますと、そこは見慣れないどこかの一室であった。
身体からはエリクシアル液特有の花の香りがする。深く息を吸ってみても、胸に痛みは走らなかった。肋骨の骨折も治療されているようだ。
ベッドの脇には、修理されたと思われる装甲服一式と武器が立てかけられていた。
ゆっくりとベッドから起き上がり、装甲服を身に着ける。HUDに表示された日付によれば、グランドラールとの戦いから既に5日が経過していた。
装備を確かめたが、フォトンブレードだけが見当たらなかった。
最後の記憶を辿ると、最高出力に耐えきれずフォトンクリスタルが排出されて消えてしまったことを思い出す。だが、金属の柄自体は残っていたはずだ。
「俺のフォトンブレードはどこにいったんだ?」
そう呟くとレヴァリスは部屋の扉を開けて出ていった。
部屋を出ると、そこが冒険者ギルドの支部施設だと気づいた。
先ほどまで自分が寝ていたのは療養用の個室だったらしい。下の階からは冒険者達のざわめきが聞こえてくる。
「この分なら開拓地は無事だったということか」
階段を下りて1階のロビーへ足を踏み入れた途端、その場にいた者達が一斉にこちらを振り向いた。
「レヴァリスさんが目覚めたぞ!」
「竜殺しが起きた!」
「すげえ、あれがグランドラールを倒した冒険者か……!」
瞬く間に周囲へ人垣ができると、レヴァリスは戸惑った。見知らぬ顔も多い。この開拓地の冒険者はせいぜい数十人ほどだったはずだ。
よく見ると増えた冒険者の中には、上級冒険者まで混じっていることに気づいた。
「よお、ようやく起きたか」
「やっほーレヴァリス」
「ルーゼルさんにクジェリア、来ていたのか」
レヴァリスの目の前に現れたのはルーゼルとクジェリアであった。2人は穏やかな笑みを浮かべている。
「あんたがグランドラールの討伐をしたから、銀河中の注目を集めたのよ。あちしも思わず来ちゃったわ」
「まさかお前さんが300年ぶりの竜殺しを成し遂げるとはな。今じゃすっかり有名人だぞ」
眠っている間に、グランドラール討伐の噂は思いもよらないほど広がっていたらしい。
「あまり実感が湧かないというか、そもそも俺1人で成し遂げたわけではないんだがな」
「だが、地上じゃほとんどお前が戦っていたと聞いているぞ。それにとどめはお前が刺したんだろ?」
「まあ、確かにそうなんだが……」
「だったらあんたが竜殺しってことじゃん。もっとあんたは自分の功績に自信を持つべきだと思うよ」
クジェリアにそう言われても、やはり実感そのものが湧かずレヴァリスは困惑したままだった。
「ところでサレナを見なかったか?」
「サレナ? あの子なら開拓地の復旧作業の手伝いに行ってたかなー?」
「そうか」
「まさかお前も手伝おうとしてないか? もう少し寝ていても誰も責めはせんと思うが」
「いや、これ以上は身体が鈍りそうだ。それに、開拓地にも被害は出しちまったしな」
グランドラールとの戦いでは開拓地にも被害を出してしまっていた。
「街にはどの程度の被害が出たんだ?」
「工房地区の一部の建物が吹っ飛んだってところだな。だが、その程度で済んだともいえる」
「そうか……できれば被害は出したくなかったんだが」
「でも、あんな怪物相手にレヴァリスはよくやったと思うよー。住人の被害だって避難中の怪我人ぐらいよ」
幸いにも被害は南側の一部だけで済んだが、開拓地そのものが吹き飛んでいてもおかしくなかった。
少なくとも死者は出なかった。最悪の事態だけは防げたのだと、レヴァリスは自分に言い聞かせた。
「まあお前さんは真面目なのが取り柄だからな。よし、復旧作業中の所にでも行くか。あの子もそこにいるだろう」
「うぃーっす、行こうぜ」
3人は冒険者ギルドの支部施設を後にし、街の南側へと向かった。
被害を受けた工房地区では、街の住民や新たに訪れた冒険者達による復旧作業が急ピッチで進んでいた。
驚くことに倒壊した建物の瓦礫は大半が撤去され、設備の応急修理もほぼ完了していた。
ただし、レヴァリスとグランドラールが激しく戦った一角だけは、まだ手付かずの状態だった。
その場所には今も死体が残されたままらしく、外界から来た冒険者を含む人々が一目見ようと押し寄せていた。
「で、あれがお前さんが倒した奴だ」
「ちょっと皆どいてー、レヴァリス様のお通りよー」
人だかりは巨竜を討伐した張本人が現れたことで一気に割れ、同時にざわつきが起こる。
レヴァリスは少し恥ずかしい気分だったが、その間を通って自らが討伐した存在を見た。
「ちょっとまて、骨しか残ってないのか?」
目の前にあったのは確かにグランドラールの死体ではあったが、それは既に白骨化していた。
「俺の分の肉は残ってないのか?」
「いや、別に食べたわけじゃない。どうも死んでから急速に肉体が崩壊したらしく、あっという間に骨になっちまったらしい」
「なるほど、これじゃ学者共は残念がるだろうな」
頭蓋骨の表面を撫でていると、フォトンブレードの傷跡を見つける。
最高出力による一撃は頭蓋骨に大穴を開けており、これが致命傷となったのは確かなようだ。
今では骨だけになったとはいえ、グランドラールの巨体には威厳があった。
「そうでもないさ。骨だけでも相当貴重なサンプルになることは間違いない」
「300年前に討伐した竜の骨は蒐集家が全部買い上げちゃったからねぇ。今回は冒険者ギルドが持ち出しを禁止したって、わざわざ宣言したらしいわー」
「まあ、俺じゃあこんなでかい骨なんぞ持って帰れないしな」
「そうだな。俺だってこんな骨を貰っても、金に換えるぐらいしか思いつかん」
「あれ、そういえばサレナちゃんいないわねぇ。もしかしたら、あんたの宇宙船に戻ったのかも」
クジェリアが周囲を見渡しながら、サレナが見当たらないことを伝える。
「なら自分の宇宙船に戻るか。2人とも、来てくれてありがとうよ」
「良いってことさ。俺はギルドからの依頼で、開拓地の復旧と支援をするよう言われてるんだ。当面はここが俺の仕事場さ」
「あちしは勝手に来たけどねー。レヴァリス、早くサレナちゃんに会いに行ってきな」
2人と別れるとレヴァリスはすぐに<ペイルライダー>が駐機しているはずの場所へ向かうことにした。
南西の駐機場には70隻以上の宇宙船が駐機していた。
かつては3隻しか待機していなかっただけにその光景は圧巻であり、レヴァリスは職員に案内してもらって自らの宇宙船のもとに辿り着いた。
<ペイルライダー>は目立った損傷もなく駐機しており、久々に宇宙船に戻れたことにレヴァリスは大きく安堵した。
「レヴァリス、帰ッテキタ!」
最初に出迎えてくれたのはビープであった。勢い良く飛び込んできたのでレヴァリスは思わず驚く。
船内からは続いてリフトロイド達や、シンガーが集まってくる。
珍しいことに普段はエンジンルームにいるエレジャーも、キャタピラを鳴らしながら現れた。
「サレナはいるか?」
「シャワーヲ浴ビテイル。呼ブカ?」
「いや、それなら待つとしよう」
そう言ってオートロイド達に囲まれながら、2階にあるソファに腰掛ける。
やはり一番落ち着くのは自分の宇宙船の中だと、レヴァリスは改めて実感する。
先ほどまで大勢の人々に好奇の目で見られていたが、あれは短時間でもかなり疲れるものだったらしい。
「これだけ名が広がるなら、コーエンにも届いているだろうか」
コーエンと最後に会ったのは、冒険者になるべく[クロムネムシャ]に旅立つ前の日であった。
12歳の少年だったレヴァリスはコーエンが書いた推薦状と、フォトンブレードを手渡された。
いつかきっとすごい冒険者となりコーエンと再会する。それがレヴァリスとコーエンとの約束であり、同時に最後の会話でもあった。
あれから10年が経過した。今ではコーエンは行方不明扱いとなり、その足取りも掴めていない。
もし、竜殺しとなったことでその名をどこかでコーエンが聞いてくれるなら、それ以上の望みはなかった。
「レヴァリスさん!」
そんな事を考えていると、いつの間にかサレナが目の前に現れた。
「操縦はうまくできたようだな?」
レヴァリスが少し笑いながらそう言うと、彼女は涙を流して再会を喜ぶ。
「ずっと心配してたんですよ、あんな無茶をして……」
「お前も無事でよかった」
そう言うとレヴァリスはサレナの頭を優しく撫でた。
「すまなかった。しばらくはあんな無茶なことはしないさ」
「できれば、もう2度としてほしくないんですけどね」
「それにしても俺が寝ている間に、随分と街がにぎやかになったんだな」
「支部が緊急信号を出していたそうです。レヴァリスさんが眠っている間に、銀河系の各地から冒険者の皆さんが駆けつけてきたんです」
道理であれだけの冒険者達が銀河中から集まっているわけだと、レヴァリスは納得した。
「一気に有名人になりましたね」
「俺1人の手柄ではないんだがな。ところでサレナ、俺のフォトンブレードはどこにあるか知らないか?」
「あっ、そうでした。レヴァリスさんのフォトンブレードは、工房地区の人達が持っていったんです」
「修理してくれるのはありがたいが、内部のフォトンクリスタルが無くなったから起動は無理だろう」
「なんでも、グランドラールの死体から凄いものが見つかったらしくて、ずっと工房の人達が集まって何かしてるみたいです」
あの白骨化した死体から見つかったものはなんだろうか。レヴァリスはサレナの言葉が気になっていた。
「でも、まだ起きたばかりですし、今はまず休みましょう」
「もう十分休んだ気はするんだがな」
「駄目ですよ、しばらくは安静にすべきです。それに、ギルドの人達もレヴァリスさんが起きたら、色々聞きたいことがあると言ってました」
レヴァリスはそれを聞いて溜息を吐いた。
グランドラールとの交戦について、詳しく聞かれるのだろう。貴重な証人として、数日にわたって聞き取りに付き合わされるかもしれない。
「やれやれ、有名人は辛いな」
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