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青藍のストライダー ~星々を駆ける冒険者たち~  作者: Omega Blue
第5話 黄金なる災厄

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第5話 黄金なる災厄 4

 金属の柄を握りしめ、レヴァリスは操縦席を立って工作室へ急いだ。

 驚いたサレナが慌ててその後を追う。

 レヴァリスは工作室の片隅にある保管庫から、ヴァンキッシュ級コマンドーアーマー用のジェットパックを取り出した。

「レヴァリスさん、急にどうしたんですか?」

「俺はこの装備があまり好きじゃなくてな。何度も使ってはきたが、どうしても自分で飛ぶのは苦手なんだ」

 そうサレナに語りながら、レヴァリスはジェットパックを背中に着装する。

 それから意を決したように一息つくと、サレナに装備を着けた目的を話し始める。

「グランドラールの鱗を貫く方法、それはフォトンブレードだけだ」

「フォトンブレードって……きっ、危険過ぎます! まさかあんな怪物に剣1本で挑むんですか!?」

「ああ、そうしなきゃならんようだ」

 レヴァリスがきっぱりとそう言い放つと、サレナは涙目になりながらレヴァリスの身体に縋る。

「いくら貴方だって、そんなのは無茶だって分かっているはずです……」

「分かっている。だがな、俺にしてみればお前や仲間達、開拓地の人々が犠牲になる方が遥かに恐ろしい」

「で、でも……」

「心配するな。俺が約束を破ったことがあるか?」

「いいえ、ないです」

 レヴァリスはサレナの頭を撫でながら、彼女からゆっくりと身体を離す。

 恐怖がないわけではない。いくつもの修羅場を潜り抜けてきたが、目の前の怪物に勝てる保証などなかった。

 それでも、大切なものを守り通せというコーエンの言葉が、レヴァリスの背を押した。

「どういった作戦なんですか?」

「クローキング装置を使い、一気に奴に接近する。それから正面ハッチから降下して、ジェットパックで調整しつつ奴に飛びつく。まさかこんな人間風情が突撃してくるとは思うまい」

 サレナは思わず両手で顔を覆った。無理もない。考えた本人ですら、正気の沙汰ではないと思う作戦だった。

「サレナ、降下直前からは<ペイルライダー>の操縦はお前に任せる。俺が行った後は、エレフィエル達とすぐに合流しろ」

「は、はい。でも、その後は……?」

「もしもの時はこれに乗って脱出しろ。だが、俺は失敗するつもりはない」

 サレナは俯きながら小さく頷いた。

 再び操縦室に2人が戻ると、エレフィエルからの長距離通信が届いていた。

『レヴァリス、街の住人全員を緊急避難区画に避難させた。僕も今からそっちに向かうよ』

 その言葉にふとHUDに表示された時刻を見ると、避難を要請してからちょうど1時間が経過していた。

 グランドラールに危険な空中戦を挑んだのは無駄ではなかったようだ。

「いや、その必要はない」

『必要ないって……どういうことだい?』

「奴を相手に主砲も対艦ミサイルも効かなかった。それよりも、<ペイルライダー>がそっちに向かうから合流してくれ」

『<ペイルライダー>が? ちょっと待て、君は一体何をしようとしてるんだ?』

「冒険者がやるべき事はひとつしかないだろ」

 人々の命も、ようやく築いた暮らしも守り抜く。その決意は揺るがなかった。

『まさか——』

 通信の向こうでエレフィエルが息を呑んだ。そのまま、しばらく返答が途絶えた。

「レヴァリスさん、竜が動きました。街の方角に移動していきます!」

「そういうわけだ。俺は行ってくるぜ」

『そうか……君の幸運を祈るよ』

 エレフィエルとの通信を切ると、レヴァリスはエンジンを再点火して<ペイルライダー>を上空へと飛ばす。

 機体が4枚の翼を広げると、レヴァリスとサレナはグランドラールの追跡を開始した。

 

 グランドラールはフロンティア・ナリスに向けて飛行していた。

 <ペイルライダー>は竜より高い位置で、十分な距離を保ちながら飛行する巨竜を後方から追っていた。

 レヴァリスは機体の遠隔カメラを用いて、飛んでいるグランドラールの姿を観察していた。

「やる事は決まったが、問題は身体のどの部位を狙うかだ」

「竜の弱点って言うと、伝説や物語だと心臓を貫いたり、首を刎ねたりしていますが……」

「流石にあんな太い首を刎ねる自信はない。おまけに心臓の位置も分からないときている」

「そうなるとやはり頭(・)でしょうか?」

「脳天にフォトンの刃を受ければ、さすがに死ぬと信じたいものだな」

 グランドラールの頭部にフォトンブレードを突き刺そうにも、上空からの奇襲で頭部を直接狙うのは難しい。

 ただでさえ一発勝負なうえに、そもそも接近するレヴァリスの存在に気づかないとは思えない。

 ジェットパックも飛ぶためというよりも、軌道を修正するために用意したという方が正しかった。

「まずは動きを封じなきゃならんか。翼を傷つけて飛べなくするのが第一だな」

「あの翼の付け根なら、もしかしたら焼き切れるかもしれません」

「流石に奴の首もそこまでは届くまい。よし、作戦はそれでいくとしよう」

 レヴァリスは操縦桿を握りながら、機体の機首を引き上げる。

 それから少しずつグランドラールとの距離を詰め始める。こちらの存在に気づかれぬよう、十分な高度差を保っていた。

「エレジャー、サイレントランシステムを起動しろ」

 エンジンルームのエレジャーに指示を出すと、船体から発せられる音が急に小さくなる。

「レヴァリスさん、この機能は一体?」

「こいつは機体に搭載されている機能の1つだ。敵地に入る際、ノイズキャンセルフィールドを発して機体から音を出さないようにするものだ。元々は隠密作戦や奇襲のためのものだが、まさか竜を追うために使うとはな」

 そしてゆっくりとグランドラールの真上まで移動するとぴたりと並走する。

 真下を飛ぶ巨竜は頭上の機体に気づいた様子もなく、悠々と翼を広げている。

「気づかれてはいない。サレナ、操縦を代わってくれ」

「は、はい」

 レヴァリスが操縦席を離れると、サレナは一度深呼吸をしてから、代わってその席に着いた。

「エレジャー、サレナが操縦を担う。彼女の操縦の補助をしろ。俺が降下した後はフロンティア・ナリスの方角へ進路をとれ」

 通信機でエレジャーにそう指示すると、了解を告げる電子音が返ってくる。

 サレナは基本的な宇宙船の操縦技術はあるが、この大型の機体を動かすには補助が必要だとレヴァリスは考えた。

 操縦の大部分はエレジャーが担ってくれるため、サレナは操縦桿を握って計器に目を配れば大丈夫なはずであった。

「ビープ、クローキング装置の使用に備えてエンジンルームで待機しろ」

『マッタク、ビープハ消防士ジャナインダゾ』

 クローキング装置の熱暴走による出火に備えて、ビープを再びエンジンルームに配置する。

 ビープはぼやいていたが、指示にはきっちり従い配置についた。

「レヴァリスさん……本当にやるんですか?」

「ああ。だが——」

 操縦室を出る間際、振り返ったレヴァリスはサレナにこう言った。

「失敗はしない」


 金属の柄を右手に持ち、レヴァリスは正面ハッチに立つ。

 グラ=ナヴァン大戦では仲間の上級冒険者と共に、<ペイルライダー>と同型の機体に乗ってよく上空からの降下を行っていた。

 ジェットパックを用いて降下し、宇宙海賊の陣地を制圧したり、敵船に乗り込んで制圧するなど様々な作戦をこなしたのである。

 正面ハッチの後方にある隔壁を閉じるとレヴァリスは深呼吸をする。

「サレナ、ハッチを開けてくれ」

『はい、今からハッチを開けます』

 サレナに指示を出すと正面ハッチがゆっくりと開かれ、レヴァリスは数歩前に出た。

 高高度で追尾する機体の真下にはグランドラールが飛んでおり、レヴァリスはその姿をじっと見据える。

「クローキング装置を起動してから、可能な限り奴に近づけ」

『はい、クローキング装置を起動して接近します』

 指示された通りにクローキング装置が起動し、サイレントランシステムと合わさって<ペイルライダー>は完全に姿を消した。

 機体はゆっくりと降下を開始し、グランドラールへと徐々に近づいていく。

 レヴァリスは慎重に降下するタイミングを見極める。

 フォトンブレードを起動し、助走をつけてハッチから飛び出した。ジェットパックの噴射で軌道を調整し、白刃を構えて巨竜の背を目掛けて一直線に迫る。

 ここにきてようやくグランドラールはレヴァリスの存在に気づいた。

「よう、こっちから来てやったぜ」

 だが、巨竜が頭上を振り仰いだ瞬間には、既にその白刃は背に突き立てられていた。

 巨竜は突然の衝撃に身を震わせ、咆哮を上げた。

「——通る。コーエンの言葉は本当だったんだな」

 黄金の鱗を貫いた白刃に、レヴァリスは確かな勝機を見出した。

 レヴァリスは突き立てた白刃を引き抜くと、すぐに翼の付け根部分を狙う。

 だが、グランドラールは身体を回転させてレヴァリスを振り払おうとする。

 すぐに近くの突起した鱗を左手で掴み、右手の白刃を鱗に突き刺すと振り落とされまいと必死に堪える。

『レヴァリスさん!』

「お前は離脱しろ。さあ行け、こっちは心配するな!」

 竜に掴まりながらレヴァリスはサレナに離脱するよう指示を出す。

『ヌワア! 今度ハ火ガデテキタ!』

『大変! いま装置の解除スイッチを押します!』

 通信を聞いた直後、<ペイルライダー>の機影が空に浮かび上がった。機体は全速力で街の方向へ飛び去っていく。

 巨竜は姿を現した機体を見て、怒りに駆られたのか雷撃を放とうとする。

「お前の相手は俺だろうが!」

 すかさずレヴァリスは翼の付け根にフォトンブレードを深々と突き立てて抉る。

 だが、その一撃で切り裂けたのは、太い付け根の半分にも満たなかった。

 それでも激痛に思わずグランドラールは頭を動かしたため、放たれた雷撃は間一髪で飛び去る<ペイルライダー>から逸れた。

 しかし、今度は背に張り付いたレヴァリスを振り払おうと、巨竜は再び身体をひねった。

 レヴァリスはジェットパックの噴射で姿勢を保ちつつ、どうにか巨竜にしがみつく。

 だが、それでも何とか振り落とそうとグランドラールは高度を下げ始めた。

「おいおい、冗談だろ」

 すると竜が左半身を前方にある大岩の方へと向けた。

 レヴァリスはすぐに背を横切り、右翼の付け根付近へ飛び移る。

 グランドラールは勢いよく左半身から大岩に体当たりし、レヴァリスを叩き落とそうとした。

 間一髪で回避したものの、直撃すれば落下どころかそのまま岩に叩きつけられてあの世逝きであった。

「まったく、とんだ暴れ竜ときたもんだ」

 右翼の付け根に近い背の鱗を掴み、白刃を叩きつけて翼の膜を切り裂く。

 <ペイルライダー>の主砲にすらびくともしなかった膜が、まるでバターのように容易く切り裂かれていく。

 それを見たレヴァリスはもしやと思い、さらに翼の膜を引き裂いていく。

 次の瞬間、飛んでいたグランドラールが姿勢を崩した。

「やはり翼を狙えば間違いない」

 レヴァリスは翼の付け根と膜をがむしゃらに攻め、その度にグランドラールは苦悶の声を上げる。

 これだけ攻撃しても地面に降り立たないあたり、竜にも何かしらのプライドというものがあるのかとレヴァリスは考えた。

 グランドラールは咆哮を上げてさらに飛行速度を上げる。

 風圧で思わず飛ばされそうになるも、レヴァリスはフォトンブレードを皮膚に突き立てて必死にしがみつく。

「しまった、もう街か!?」

 レヴァリスはグランドラールがついにフロンティア・ナリスに到着したことに気づいた。

 このままでは街が危うい。レヴァリスは白刃の出力を上げて翼の付け根に渾身の一撃を見舞う。

 柄の奥で甲高い異音が弾けた。おそらく内部のフォトンクリスタルが損傷した音だ。

 高出力で使うなというアボジャの忠告が脳裏をよぎる。だが、今は止めるわけにはいかなかった。

 裂け目は付け根の奥まで達していた。まだ繋がっている部分へ、レヴァリスは渾身の力で白刃を押し込む。

「これならどうだ!」

 ついに右翼が根元から切り離された。咆哮とともに巨体が傾き、フロンティア・ナリスの南端へと落ちていく。地面は目前に迫っていた。

「まずい!」

 レヴァリスは背を蹴って飛び離れ、ジェットパックを噴かした。直後、グランドラールが頭から地面へ激突する。

 噴射だけでは落下の勢いを殺し切れず、レヴァリスも地面に転がり込むように着地した。

 着地の際に損傷を負ったジェットパックが火花を上げたため、慌てて取り外して投げ捨てる。

「くそっ、あれは高くつくのに」

 投げ捨てたジェットパックは小規模な爆発を起こして黒い煙を上げる。

 墜落した巨竜はうめき声を上げながら首を振り、そして同じく落下したレヴァリスを見据えている。

 レヴァリスもフォトンブレードを構え直し、片翼となった黄金の竜を見上げる。

 巨竜は怒りに満ちた目をこちらに向け、残された左翼を広げて威嚇している。

 だが、レヴァリスは街を守るために恐怖心を振り払い、啖呵を切った。

「ケリをつけようぜ」

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