第4話 荒野の向こう側 6
聞き慣れた宇宙船の飛行音が空から響いた。見上げると、<ペイルライダー>がクレーターの上空へ進入してくる。
「やれやれ、遅かったな」
現れた<ペイルライダー>を見て、笑いながらレヴァリスは呟く。
ショットガンから着陸地点を示す信号弾を撃ち出すと、<ペイルライダー>はクレーターの外側へ着陸した。
それまで争っていた宇宙海賊達は突如現れた機体を見て困惑したようだ。
銃声が次第に止んでいき、ここでようやく第三者の襲撃者がいると気づき、何者かに嵌められたと悟ったらしい。
『レヴァリスさん、<ペイルライダー>が到着しました! エレフィエルさんやイエーニさん達が来ています』
「そうか。よし、そっちにいる捕虜を貨物区画に乗せるんだ」
『分かりました』
レヴァリスはサレナにそう指示を出して通信を切る。
それから残っている宇宙海賊を片付けるために動こうとしたが、すぐに後方から聞き慣れた声が響いた。
「宇宙海賊共を討ち取れー!」
聞こえてきたのはイエーニの声であった。北側から大勢の鬨の声も聞こえてくる。民兵や冒険者達も来ているようだ。
やがてイエーニとエレフィエル、そしてサレナやヴェオルを含む、冒険者と民兵からなる増援部隊がレヴァリスの元に現れた。
「レヴァリス殿、また随分と派手にやりましたな。どうかご指示を!」
「残っている宇宙海賊共を掃討する。獲物はまだいるぞ」
「はっ! よし、皆ついてこい!」
イエーニは冒険者と民兵を連れて掃討作戦を開始する。
「サレナ、捕虜は全員無事に収容したな?」
「はい。今は民兵の人達が護衛についています」
「そうか、よくやった。お前がいてくれて助かった」
レヴァリスの言葉を聞いたサレナは少しだけ頬を赤らめた。
その光景を見ていたエレフィエルが、にこやかな表情でレヴァリスの隣にやってくる。
「遅くなってすまないね。街の守りを固めるのと討伐隊の編成に時間がかかってしまったよ」
「いや、助かった。来てくれるとは思っていたぞ」
「ふふっ、君のことだから派手に花火を上げるとは思っていたよ。さて、僕達もいこうか」
「ああ、そうだな」
レヴァリスはそう言うとエレフィエルと共にイエーニ達を追うべく駆け出した。
先ほどまで互いに殺し合っていた宇宙海賊達は、突如現れた冒険者と民兵達を見て愕然としていた。
「武器を捨てて降伏しろ! しないのであれば容赦はせんぞ!」
イエーニがそう一喝すると呆然としていた海賊達は降伏を拒んで撃ち返した。だが、すでに同士討ちで消耗しており、新手を押し返すこともできずに次々と討ち取られていった。
上級冒険者2名に率いられていることもあって、到着した討伐部隊の士気も高かった。
レヴァリスが前衛として敵の注意を引き、エレフィエルは種族特有の武器である“ブラスターボウ”で遠距離からの狙撃に徹した。
この武器は原始的な弓の機構にブラスター技術が組み込まれたもので、放たれた矢はブラスターエネルギーをまとい、高い貫通力を発揮した。
宇宙海賊達は多少の抵抗こそしてきたが、ついに士気を折られると潰走し始めた。
掃討は夜通し続き、東の空が白み始める頃には、フロンティア・ナリスを狙っていた海賊同盟は壊滅していた。
朝を迎えると残り火の燻る拠点内では、レヴァリス達が後処理を進めていた。
<ペイルライダー>は捕虜達を無事にフロンティア・ナリスへ送り届け、再び拠点へ戻ってきていた。
夜の間に徹底的な掃討作戦が行われたことで、ほとんどの宇宙海賊を討ち取ることには成功していた。
とはいえ、もともとの人数が多く、混乱に乗じて逃げた海賊も少なくなかったようだ。
ひとまず掃討作戦自体を終えて、制圧した拠点内では遺体の収容と使用可能な物資の回収が行われていた。
「死体は一箇所に集めるんだ。後でまとめて焼却する。使えそうな物は<ペイルライダー>に片っ端から積み込むのだ!」
イエーニの指揮の下、冒険者や民兵達は廃墟から焼けずに残った武器や弾薬、物資などを運び出していた。
開拓地はもともと防衛力に不安を抱えており、海賊の拠点から戦利品としてそれらを回収することにした。
幸いにも武器庫の1つが焼けずに残っていたため、開拓地にとっては貴重な武器や弾薬を鹵獲することができた。
レヴァリスは焼け跡から使えそうな物を漁っていたが、ふとサレナが立ちすくんでいるのを見かけた。
「何かあったのか?」
「いえ……上級冒険者というのは、あれほど大きな拠点を、こんなふうに壊滅させてしまえるんだなって」
「半分は連中が勝手に潰し合った結果さ。本当は宇宙海賊共を1人も逃さないつもりだったが」
「レヴァリスさんは宇宙海賊がお嫌いですか?」
「嫌いさ。初めて殺した相手も宇宙海賊だったしな……」
そう告げると、レヴァリスは過去を思い出して胸元のホルスターに収めたブラスターピストルへ視線を落とした。
サレナは何も尋ねず、ただ静かに彼を見つめていた。
「レヴァリス、それにサレナもここにいたんだね」
ふと声をかけられると後ろからエレフィエルが現れた。
彼はボロボロになった海賊のものと思しき携帯端末を手に持っており、何やら深刻そうな表情を浮かべている。
「どうも連中はどこかに緊急時に備えた隠れ家を作っていたらしい。敗走した奴らが集結している可能性がある」
「簡単には駆逐できないものだな。それで場所は掴めたのか?」
「残念だけど……こういう時のための隠れ家だけあって、場所を特定できる情報はない」
「逃げた海賊共の掃討が必要か。だいぶくたばったとはいえ、野盗化されても困るしな」
「そうだね。探索も兼ねて海賊の追討ってところが妥当かもね」
2人は周辺探索を兼ねて、残党と隠れ家を捜索する方針を固めた。
宇宙船を失った海賊は、放っておけば野盗と化して地元住民を襲う可能性が高い。
「サレナ、明日からしばらくは海賊共の生き残りの捜索になりそうだ。お前はどうする?」
「もちろん一緒に行きます」
「そうか、お前の能力があれば助かる」
迷いのない返事を頼もしく思い、レヴァリスは頷いた。
翌日から1週間、3人は海賊の拠点跡に設けられた臨時前哨を足掛かりに、残党と隠れ家の捜索を続けた。
探索中には何度か宇宙海賊との遭遇があったが、いずれも小規模なもので海賊達の抵抗はあっけなく潰された。
遭遇した海賊達はいずれも降伏を選ばなかった。大戦以降に捕縛された海賊を待つのは、ほとんどの場合、処刑か死と隣り合わせの刑罰だった。辺境では正式な裁きにかけられないまま私刑に遭うこともある。
その実情を知っているからこそ、彼らは追い詰められるほど苛烈に抵抗するのだろう。
大戦を経験したレヴァリスには、彼らが投降しない理由が痛いほど分かっていた。
やがて探索と掃討が一段落すると、レヴァリス達3人はようやくフロンティア・ナリスへと撤収した。
とはいえ、宇宙海賊の隠れ家は見つかっておらず、しばらくは宇宙船を保有する2人が交代で上空から探索することとなった。
フロンティア・ナリスでは、救出された百名余りの人々が保護されていた。その多くは故郷を焼かれ、帰る場所を失っていた。
本人の希望もあり、彼らはフロンティア・ナリスの新たな住民として迎え入れられることになった。
住居の確保という問題はあったが、開拓地の住民も大半が戦争難民であり、彼らの境遇には理解を示していた。
現在は住宅地の空き地に臨時のキャンプが築かれ、そこで家ができるまで暮らすことになった。
キャンプには医療用の大型テントや炊き出し所も設けられ、支部の職員や住民達が交代で世話に当たっていた。
「捕虜達を解放したのは俺達だし、率先して一働きしないとな」
「そうですね。せめて、家ぐらいは作ってあげないと」
百名余りの住民が増えたため、開拓長は計画を前倒しして住宅地の整備を優先することにした。
職人だけでは手が足りず、探索のない日にはレヴァリスとサレナのほか、多くの冒険者達も建設作業に加わっていた。
「冬までには間に合わせたいところだな。テント暮らしで冬越しは下手をすれば死人が出る」
「確か気温が氷点下になるんでしたっけ?」
「そう聞いている。それにずっとテント暮らしは不満も溜まるだろうしな」
惑星[アルファーニア]は四季が存在しており、春と秋の期間が長く、夏と冬の季節は短かった。
今はちょうど秋の始まりの時期であり、もうしばらくすれば田畑の収穫期を迎える。
「そういえば、レヴァリスさんって建設作業もできたんですね」
「図面通りに建材を加工して組み立てるくらいならできるさ。たまにはこういう仕事も悪くないものだ」
マルチツールで建材を加工しながら、レヴァリスはサレナに得意げに語る。
もともとレヴァリスは、宇宙船の改造や修理、拾ったジャンク品の解体に長けていた。
そのためか、何かを形にしていく作業には不思議な楽しさを覚えた。
「この開拓地でしばらく過ごしてきたが、お前は何か新しいことを覚えたりはしたか?」
「子供の面倒はよくみましたね。あと、エレフィエルさんが持ち帰った動物のお世話なんかも好きですね」
「そうか。お前は意外と面倒見が良いんだな」
「そうでしょうか……でも、以前よりは成長できたかなって」
サレナが照れながら話す姿を見て、レヴァリスは穏やかな気持ちになる。
ふと、彼女が冒険者になった理由を、まだ聞いていなかったことを思い出す。
「そういえばお前はなぜ冒険者に——」
そう問いかけようとした時、後ろからイエーニの叫び声が聞こえてきた。
「レヴァリス殿! エレフィエル殿が、隠れ家らしき場所を発見したとのことです!」
その報告を聞いたレヴァリスは言いかけた言葉を飲み込み、すぐに思考を切り替える。
「すぐに行く。サレナ、どうやら奴らの隠れ家が見つかったらしい」
「はい、行きましょう!」
レヴァリスは近くにいた冒険者に作業の続きを頼み、イエーニと共にエレフィエルの元へ向かった。
エレフィエルは冒険者ギルドのブリーフィングルームで待機していた。
部屋には開拓長やギルド支部長などもおり、レヴァリスとサレナ、そしてイエーニの到着を待っていたようだ。
「さっき偵察から戻ってきてね。奴らが潜伏していると思われる場所を見つけた」
「そうか。それで場所は?」
「海賊の拠点からさらに西なんだけどね。ちょっとなんというか、異常な場所なんだ」
「異常な場所? どういうことだ?」
レヴァリスがそう問うとエレフィエルは、上空からスキャンした地形データをホロテーブルに表示する。
場所は海賊の拠点からかなり離れた位置のようで、山脈らしきものが映り込んでいる。
しかし、細かな地形を判別できないほど激しいノイズに覆われていた。
「お前の船のスキャナーが故障したのか?」
「いや、それが故障してないんだ。一帯で何らかの強力な磁気異常が発生していて、スキャナーや計器が正常に動作しないんだよ」
エレフィエルの言葉を聞いたレヴァリスは[アルファーニア]に到着した直後の出来事を思い出す。
その時も計器類に異常はあったが、そこまで酷いものではなかった。
しかし、このノイズだらけの映像からは相当強力な影響がうかがえる。
そして今の宇宙海賊達が隠れるには絶好のポイントであることは間違いなかった。
「地上を探索したのか?」
「磁場の影響範囲外に宇宙船を着陸させて調べたよ。まず大きな洞窟の入口らしきものを見つけた。中にはまだ入っていないけど、海賊らしき連中の出入りは確認できた。あとこれも近くの地面に落ちていたよ」
そう言ってエレフィエルは、両海賊団の紋章が入った二枚の布片をテーブルに置いた。どちらも衣服から乱暴に引き剥がされたものらしい。
どうやら生き残った海賊達は所属を捨てたか、あるいは正体を隠そうとしているらしい。
いずれにしても、残党同士が新たに手を組んでいる可能性はあった。
「磁気異常による装備への影響は?」
「武器とかは普通に使えるけど、計器類はほとんど駄目だね。君のモーショントラッカーもたぶん駄目だろう」
「となると、敵の探索にはサレナが頼りになるな」
「お役に立てるよう頑張ります」
レヴァリスにそう言われてサレナは深く頷いた。
「それなら、隠れ家はおそらく洞窟内だろうな。そこが奴らの最後の砦ってところか」
「そうですね。残っている宇宙海賊も僅かだと思われます」
サレナはそう言って頷いた。
「支部長、俺達を中心に残党の討伐作戦を行いたい。悪いが冒険者を集められるか」
「ええ、もちろんです」
「私からも、ぜひ討伐作戦をお願いします」
支部長の隣にいた開拓長も深々と頭を下げる。
まさか自分達の街を狙えるほど近くに、大きな海賊の拠点があったとは思ってもみなかったのだろう。
エセル自身も戦災に遭っており、宇宙海賊の討伐には積極的であった。
「とはいえ、この強力な磁場の出どころは気になるな。ステルス・スパイアとはまた違うが自然のものなのか?」
「反応の分布が山脈一帯に広がっていたから、今のところは自然由来だと思っている。ただ、地上に下りて洞窟の近くに行った時は悪寒がしたかな?」
「悪寒?」
「うまく説明できないんだけど、そうだね……冒険者風に言うなら“嫌な予感がする”って奴さ」
エレフィエルのその言葉を聞いたレヴァリスとサレナは互いに顔を見合わせた。
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