第4話 荒野の向こう側 5
混乱に乗じ、レヴァリスは捕虜収容区画へ向かった。
至るところで両海賊団が互いに銃火を交えており、もはや身を隠す必要はない。行く手を塞ぐ者だけを撃ち倒しながら、収容区画へと急いだ。
定時連絡の予定時刻はすでに過ぎていた。だが、この混乱の中で前哨からの応答がないことを気に留める余裕など、海賊達にはないようだった。
捕虜収容区画ではトライナイフの海賊達が警備に当たっていたが、誰もが状況を飲み込めず、困惑した表情を浮かべていた。
「何だあいつは——」
レヴァリスの姿を見つけた見張りは攻撃しようとするが、その額にブラスター弾が命中する。
ほかの歩哨達も慌てて武器を構えたが、反撃する間もなく撃ち倒された。
「連中の見張りを片付けた。サレナ、こっちに来い」
『はい!』
駆け寄ってきたサレナは、周囲の気配を探ってから頷いた。
「レヴァリスさん、見張りはこれで全員です」
「遺体を調べて檻の鍵を見つけろ」
2人は手分けをして海賊の遺体から檻の鍵を探し出す。
遺体の懐から見つかったのは、電子キーではなく昔ながらの鉄製の鍵束であった。
鍵を手に入れた2人は捕虜収容区画の中へと入り込む。
中に入ると大勢の捕虜が突然現れたレヴァリスとサレナに驚き、一斉に檻の奥へと後ずさる。
「だ、誰だ、あんた!?」
「外の騒ぎは何?」
「落ち着け、俺達は冒険者だ。お前達を助けに来た」
レヴァリスは鍵束を捕虜達から見えるように掲げると、それを見た捕虜達は歓声を上げた。
「助けてくれるのか?」
「ここから出られるんだな!?」
「早く開けてくれ!」
「順番に開けてやるからあまり騒ぐんじゃない」
2人は手分けして檻を開け、中にいる捕虜達を自由の身にする。
海賊達から暴行を受けたのか、捕虜の中にはけが人や衰弱した者も多かった。
治療に割ける時間も人手もない。サレナは出血の激しい重傷者だけに手早く止血処置を施し、動ける者へ負傷者を支えるよう指示した。
「よく聞くんだ。外では海賊共がお互い殺し合いに夢中だ。お前達はサレナと共にクレーターの外に避難しろ」
レヴァリスがそう命じると捕虜達はすぐに指示に従い行動を開始する。
2人が外に出ると中心部の喧騒はさらに激しさを増していた。
サレナは短く目を閉じ、搬入路の先に待ち伏せがないことを確かめた。
「脱出経路には誰もいないみたいです」
「サレナ、そっちは頼んだぞ」
「はい。皆さん、ついてきてください!」
歩けない重傷者は動ける捕虜達に数人がかりで運ばせ、子供や赤ん坊を連れた者達を集団の中央へ集める。
準備が整うとサレナは先頭に立ち、捕虜達をクレーター外の岩場へ誘導し始めた。
「捕虜が逃げているぞ! 捕まえろ! 抵抗する奴は殺せ!」
近くで宇宙海賊達の叫び声が聞こえると、レヴァリスはブラスターライフルを構える。
「後ろは任せろ、行け」
「はいっ!」
一行の後方に立ったレヴァリスは、南側から駆けつける海賊達を迎え撃った。
後ろをちらりと見やるが、やはり100人もの人々が一斉に動くのは時間が掛かっていた。
特に重傷者の搬送に手間取っているようだ。ならば、必要なだけ時間を稼ぐまでだ。
レヴァリスは収容区画を背に、迫りくる敵を撃ち続けた。
やがて最後尾の捕虜がステルスフィールドの向こう側に消えると、追ってきた残りの海賊を始末して一息つく。
「そろそろ頃合いだな」
それから遠隔起爆装置を取り出し、ステルス・スパイアに仕掛けた爆薬を起爆した。
これで捕虜収容区画ではなく中央と南西側に注意が向くことになる。
根元で爆発が起きると、ステルス・スパイアは悲鳴のような軋みを上げて南西へ倒れ始めた。
その傾きを確かめ、宇宙船に仕掛けた爆薬にも起爆信号を送った。
塔が地面へ激突するのとほぼ同時に、南西側の駐機区画で2つの火球が膨れ上がった。
「おっと、これは威力が強すぎたか?」
予想以上の爆風が収容区画まで押し寄せ、レヴァリスはとっさに身を屈めた。
爆風が収まって顔を上げると、クレーターを覆っていたステルスフィールドは消え去っていた。
通信妨害が解消されたことを確認すると、ギルドの緊急チャンネルを通じて拠点の座標と捕虜約100名の救助要請を発信した。
これで<ペイルライダー>からも拠点を捕捉できる。エレフィエルが付近まで来ていれば、救助要請も届いたはずだ。
捕虜への追撃を防ぎ、残るギュナータ・カンパニーの船長を仕留めるべく、レヴァリスは同士討ちの真っただ中へ足を進めた。
拠点の中心部は酷い有様であった。地面には両海賊団の死体が折り重なり、倒壊したステルス・スパイアが周辺の建物まで押し潰していた。
混乱の中、レヴァリスは残るギュナータ・カンパニーの船長を捜した。
船長クラスの海賊は残しておくと厄介なことになるとレヴァリスは経験から知っていた。
海賊団の頭目を潰せば、仮に一部を逃がしても態勢を立て直すには時間がかかる。新たな頭目の座を巡り、再び勝手に潰し合う可能性もあった。
「おい、あいつは誰だ!?」
「知らねえよ、とにかく撃ち殺せ!」
レヴァリスを見つけた宇宙海賊達は攻撃を仕掛けるが、放たれたブラスター弾は装甲服のシールドに阻まれた。
だが、立て続けの着弾によってHUDに表示された残量は徐々に減り始めている。
目についた敵を淡々と始末していく。こちらの姿に怯えたのか、海賊達の中には武器を捨てて逃げ出す者もいた。
だが、そういった逃げ惑う海賊の背を容赦なく撃ち抜いていく。
たとえ今は戦意を失っていようと、一人でも逃がせばいずれまた誰かを襲う。レヴァリスに彼らを見逃すつもりはなかった。
「どけ、あいつは俺がやる!」
すると目の前に重火器を抱えた大柄な海賊が現れる。
重火器から発射される激しい弾幕をすんでのところで躱すと、建物の陰から様子をうかがう。
「どうしたどうした、出てこいや!」
重火器で弾幕を張りながらじりじりとこちらに近づいてくる。その両側をほかの海賊達が固め、歩調を合わせて迫ってくる。
回転銃身が赤熱し、海賊が引き金を緩めた一瞬をレヴァリスは見逃さなかった。
滑るように物陰から飛び出し、その眉間を撃ち抜く。
それに気を取られた周囲の海賊達を片付けると、地面に落ちていた重火器を拾い上げる。
それは[カダーディアⅢ]でヴァリネクが持っていたトゥエルブ・アンサーの先代機である、“シックス・アンサー”であった。
銃身は後継機の半分にあたる6本で、発射速度が抑えられているぶん反動も小さい。旧式ではあるが今でも分隊支援火器として用いられることがある。
「ああ、こいつは悪くない」
レヴァリスはそう言ってシックス・アンサーを抱え上げると、争い合う海賊達の渦中へと進んでいく。
そして側面から両陣営に向けて弾幕を一気に解き放つ。
横から不意を突かれた海賊達は次々と倒れ、何とか弾幕を回避できた者達がレヴァリスへ反撃する。
装甲服のパワーアシストで反動を抑えこみ、射撃を続けながら足早に迫る姿を見て、生き残った者のほとんどが逃げ出した。
一部のやけになった者達が反撃を試みたが、レヴァリスによってあっけなく蹴散らされた。
弾倉が空になった直後、モーショントラッカーが背後から迫る反応を捉えた。振り向きざまに回転の残る銃身を海賊の顔面へ叩き込む。
「ようやく見つけたぞ、随分と派手に暴れてくれたようだな」
ふと声のした方向を振り返ると、手下を連れた頭領らしき“ヴァゼイロー”と呼ばれる種族の男が現れる。
雲海の惑星[ヴァゼイナ]出身のヴァゼイローは鷹のような顔立ちをしており、体毛は鮮やかな赤色をしていた。
また知覚種族としては比較的珍しいことに、背中にある大翼を用いて自力で飛ぶことができる種族でもあった。
着込んでいる頑丈そうな装甲服にはギュナータ・カンパニーの紋章が刻まれ、右手には武器と思しき長い柄を持っていた。
顔にはプラズマ武器特有の傷跡が生々しく残っており、右目は機械式の義眼に置き換えられ赤く光っている。
「お前だな、同士討ちを仕掛けてきたのは。俺達に何か恨みでもあるのか?」
「個人的な恨みはない。ただ、宇宙海賊なら死んでほしい。それだけだ」
レヴァリスは男にそう冷たく言うと、空になったシックス・アンサーを投げ捨ててブラスターライフルを構え直した。
装甲服の紋章と手下達の態度から、この男がギュナータ・カンパニーの頭領なのは間違いなかった。
「冒険者——いや、そのナリだと上級冒険者か。その程度でギュナータを束ねる“ジャノーリン”がビビると思うなよ」
「ほう、そいつはいい。その虚勢がいつまで続くか見せてもらおう」
「野郎共、やっちまうぞ!」
号令とともに、ジャノーリンは空高く飛び上がった。部下達も一斉にレヴァリスへ射撃を開始する。
レヴァリスは物陰へ身を滑り込んで数発撃ち返した。それでも意識は、上空へ飛び去ったジャノーリンに向けていた。
上空から反応が消えた直後、モーショントラッカーの端に高速で移動する光点が現れた。
飛んで逃げたのか——否、横から来る。そう思った瞬間レヴァリスは物陰から飛び出す。
するとジャノーリンがオレンジ色のプラズマ光刃を伸ばした槍を構え、側面の上空から猛烈な速度で突っ込んできた。
間一髪で回避したがあの勢いに乗った一撃は、シールドと装甲服をまとめて貫きかねないほどだった。
「なるほど、伊達に船長を名乗ってはいない」
レヴァリスは前方から撃ってくる海賊達に応戦しつつ、ジャノーリンの動きを掴もうとする。
ヴァゼイローはかなりの速度で飛ぶことができ、既にこちらの隙を狙ってどこかに隠れたらしい。
手下達も船長の側近だけあってか下っ端とは違い装備も整っている。
携帯シールドやグレネード、ブラスターマシンガンなどで武装しており、レヴァリスをそう簡単に近づけさせない。
そして僅かな隙を見つけると、今度は船長自らが死角から突撃を仕掛けてくる。この連携は厄介だとレヴァリスは悟った。
「それなら——」
レヴァリスは背負っていたショットガンを手に持つと、その弾倉に特殊仕様の弾を一発込める。
手下達の足元へ撃ち込むと、周囲は瞬く間に白煙に包まれた。
レヴァリスが発射したのはショットガン用のサーマルスモーク弾であった。
「まずい、サーマルスモークだ。散らばれ!」
ジャノーリンが上空から指示すると手下達は白い煙の中から出ようとする。
サーマルスモークは肉眼だけでなく、義眼による熱源探知も遮断する。
ショットガンを背に戻すと、腰のフォトンブレードを手に取って起動する。
HUDのモーショントラッカーに浮かぶ反応を頼りに距離を詰めると、煙幕から飛び出してくる手下達を次々と斬り伏せた。
それに気づいたジャノーリンも慌てて攻撃を仕掛けてくる。
「この野郎、手塩にかけた部下達を!」
レヴァリスは最後の手下を斬り裂くと、白刃をジャノーリンに向ける。
ジャノーリンが雄叫びを上げながら上空から突っ込んでくる。レヴァリスは相手を間合いぎりぎりまで引きつけ、身を沈めてかわした。
それと同時にフォトンブレードを振り上げ、すれ違いざまに片翼の付け根を斬り裂いた。
短い悲鳴と共にジャノーリンはプレハブ小屋の中へと突っ込むようにして墜落する。
だが、間もなく瓦礫が内側から吹き飛び、傷ついたジャノーリンが再び姿を現した。
「くそっ、この程度でやられてたまるか。俺がいくつの修羅場を潜り抜けてきたと思ってやがる」
翼を斬られて飛べなくなってなお、この男は微塵も戦意を失っていない。
揺らめくオレンジ色のプラズマ光刃をレヴァリスに突きつけ、睨み殺さんばかりに見据えていた。
現在の銀河社会でも、携行武器の柄から安定したプラズマ光刃を形成する技術を持つ種族はそれほど多くない。おそらく手に持っているあの武器は戦利品として得たものだろう。
希少な武器を使いこなす動きからも、宇宙海賊としての実力に疑いはなかった。
互いに睨み合っていたが、最初に動いたのはジャノーリンの方だった。
一気に跳躍するとレヴァリスの頭上から一撃を繰り出そうとする。
レヴァリスはフォトンブレードで光刃を受け流し、二撃目の突きもいなしてみせる。
「くそっ、癪に障る剣技だ!」
ジャノーリンは苛立ちを露わにしていた。
レヴァリスの白刃が消えるたび、ジャノーリンは罠を警戒するように槍を止めかける。それでも晒された隙を前にすると、反射的に穂先を突き込んできた。
次の突きを身をひねってかわし、再び展開した白刃で伸びきった槍の柄を両断した。
踏み込み過ぎて体勢を崩したジャノーリンの胸を蹴りつけると、その身体は勢いよく後ろへ倒れ込んだ。
「くそっ、冗談だろ。おいおい、待ってくれ。俺には賞金が掛かっている」
「ほう? いくらだ」
「120万リイルだ! 生きて引き渡せば満額で受け取れる!」
レヴァリスは白刃をジャノーリンの喉元へ向けたまま、命乞いする男を見下ろした。
「なるほど120万リイルか。海賊としては大した額だな」
「ああ、そうだ。お前だって金ぐらいは欲しいだろ?」
「そうだな。だが——」
ジャノーリンが袖口からブラスターピストルを抜くより早く、白い光刃がその右腕を斬り落とした。さらに、返す刃で首を刎ねた。
「命乞いまで騙しに使うとはな。今のでお前を生かしておく理由はなくなった」
地面に転がっていく首を見ながら、レヴァリスは冷徹にそう言い放った。
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