第4話 荒野の向こう側 4
レヴァリスが宇宙海賊達の拠点に近づくと、喧騒や笑い声が大きくなっていく。
物陰に身を隠し、海賊達が見せた隙を狙って拠点の内部へと入っていく。
酒盛りの中心から離れた外周部は人通りが少なく、乱雑に置かれたコンテナや廃材が幾つもの死角を作っていた。
青藍色の装甲服は目立つ。だからこそレヴァリスは開けた場所を避け、建物同士の隙間だけを選んで進んだ。
南東側から侵入するとまずは事前に偵察していた弾薬庫を目指す。
弾薬庫は周囲のプレハブや掘っ立て小屋とは違い、いかにも頑丈そうな構造物であることからすぐに判別できた。
目の前には見張りがいたが酒瓶をあおっており、すっかり泥酔して壁にもたれかかっていた。
それを見たレヴァリスは見張りの視界に入らないよう、足音を殺して近づくと弾薬庫の扉を静かに開けて中に入っていく。
弾薬庫の中には管理人と思しき海賊が1人いた。こちらに背を向け、椅子に腰掛けたまま酒瓶をあおっている。
扉の開く音を聞いても振り返ろうとせず、気怠そうな声を上げた。
「なんだー、交代の時間かー?」
「ああ、交代の時間だ」
レヴァリスはそう言うと背後から口を塞ぎ、ナイフで喉を切り裂いた。
近くのロッカーに死体を押し込むと、遠隔爆破用の爆薬を探す。
宇宙海賊は爆破戦術を多用することで知られており、弾薬庫内で爆薬は大量に見つかった。
遠隔起爆装置と携行できるだけの爆薬を確保した。
HUDで時刻を確認すると定時連絡まではあと48分だった。
見張りに気づかれぬよう外へ出ると、南西側の駐機区画へ向かった。
2隻の宇宙船の周囲には見張りがいたが、幸いにも人数は少なかった。
レヴァリスはまず軽貨物船の方に近づいて様子を見る。
リコーカ・ハイランナーは、全長40メトルの船体に120キロトスもの貨物を積載できる軽貨物船だった。無駄のない直線的な外観には、最新型らしい洗練された美しさがあった。
レヴァリスも今の<ペイルライダー>が手に入らなければ、この軽貨物船を購入しようかと考えていたほどだ。
宇宙船のハッチの近くには見張りがいたが、こちらは酒を飲んでおらず眠たそうに立っていた。
こっそりと近づいて後ろから首をへし折って始末すると、その死体を抱えたままハッチから船内へと入っていく。
船内に人影は見当たらない。死体を隠す場所を求めて貨物区画へ進むと、ナリアンハニーネの箱が大量に積まれていた。
「なるほど、こりゃ連中も酔っ払うわけだ」
積み荷の間には運び出した跡らしい空きがあったが、当面の酒盛りには困らない量が残っている。
レヴァリスはまた誰かが来ることを考え、隅に置いてあった空のコンテナの中へと死体を隠す。
貨物区画を抜けてエンジンルームに入ると、エンジンを起動できないように主機と繋がる回路を切断する。
「酒といいこの宇宙船といい、爆破するのはもったいねぇな……」
名残惜しそうにそうぼやきながら、レヴァリスは爆弾をエンジンに設置していく。
軽貨物船を出ると次は海賊船への侵入を試みる。
しかし、今度はより大きな船だけあって周りには海賊達がたむろしていた。
「サレナ、海賊の船の近くには何人いるか分かるか?」
レヴァリスは待機しているサレナに連絡を入れ、海賊船の周囲の情報を求める。
『およそ14人だと思います』
「手薄なところはありそうか?」
『レヴァリスさんの今いる場所の反対側なら2人しかいません』
「なるほど、了解した」
正面にいる12人の動きを観察しながら、その死角を縫って船体の反対側へ回り込んだ。
「へっ、また俺の勝ちだな」
「くそっ、今日はツキがありゃしねぇ」
反対側では2人の海賊がカードゲームに興じていた。
片方を襲えば、もう片方に気づかれる。声を上げられる前に2人とも仕留めるのは難しい。
しばらく様子をうかがっていると、勝負に負けた海賊が悪態を吐きながら立ち上がってその場を離れていく。
十分に距離が開いたところで、レヴァリスは死角から飛び出した。
残された海賊が振り返るよりも早く距離を詰め、その胸へナイフを深々と突き立てる。
「ゲイリク、どうした?」
物音に気づいたのか、離れていった海賊が振り返ってこちらに戻ってくる。
すぐさま近くにあった廃材の陰へ身を滑り込ませ、戻ってくる宇宙海賊に見つからないよう息を殺した。
戻ってきた海賊は倒れているゲイリクを見て驚き叫ぼうとしたが、その前にレヴァリスが口を塞ぐと同時に首を捻り、そのまま頸椎を折った。
2人の死体を建物の陰へ引きずり込むと、開いているハッチから船内に侵入する。
船内に入ると再びエンジンルームを目指し、軽貨物船の時と同じ手順で破壊工作を仕掛ける。
また今回は先ほどよりも大きい船だったので、念のため燃料タンク付近にも爆薬を設置することにした。
「両方の宇宙船への工作は完了した。外の様子はどうだ?」
『特に大きな動きはありません。次はステルス・スパイアですか?』
「そうだな、そっちに向かうとしよう」
レヴァリスは周囲を警戒しながら海賊船から出ると、拠点の中央にあるステルス・スパイアを目指すことにした。
拠点中央には、黒い塔のようなステルス・スパイアがそびえていた。
周囲は出歩く海賊が多く、その動きを見計らいながら、近くの掘っ立て小屋の裏へ身を潜めた。
「サレナ、ステルス・スパイアの周囲はどうなっている?」
『思ったより海賊達が多いですね。あとスパイアの入口には見張りが1人います。あれはたぶん酔ってませんね』
「真面目に仕事ができるんだったら、宇宙海賊なんて辞めればいいのにな?」
『同感です』
レヴァリスはサレナからの通信を聞いて位置を変える。
掘っ立て小屋からステルス・スパイアの入口が見える場所まで移動すると、例の見張りが見えてくる。
見張りは武器を手にして、仏頂面で扉の前に立っていた。
足元には支給されたらしい未開封の酒瓶が置かれていた。
その光景を見てレヴァリスは苦笑したが、このまま近づけば確実に見つかる。
「律儀な奴だ。物音がすれば確かめずにはいられまい」
そう呟くとレヴァリスは近くにあった酒瓶を廃材の陰から放り投げる。
酔っ払いだらけのこの拠点なら、酒瓶が割れた程度では襲撃を疑いはしない。だが、真面目な見張りなら確認には来るだろう。
ガシャンという音が響くと、見張りの海賊はその音に気づいて近くにやってくる。
「次は真面目に働くんだな」
レヴァリスは近づいてきた海賊の喉元にナイフを突き刺し、それから掘っ立て小屋の裏に置かれた大型の廃棄コンテナへ死体を押し込む。
見張りを排除してステルス・スパイアの内部に入ると、主電源部の中に爆薬を設置する。
しかし、ここで設備の内部構造が思ったよりも脆いことに気づいた。
「主電源だけ吹き飛んでくれればいいが……」
塔そのものが倒れれば、どちらへ倒れるか分からない。
レヴァリスにも爆薬を扱う最低限の知識はあるが、専門家というわけではない。
塔が倒れる可能性も考えれば、起爆は捕虜全員を拠点の外へ逃がしてからだ。
次の定時連絡まで、もう26分もなかった。
「ステルス・スパイアへの設置は完了した。外の様子はどうだ?」
『今ならすぐに出られそうです』
そう聞くとレヴァリスは素早くステルス・スパイアの内部から出て、次の目標への移動を開始した。
最後の目標はどちらかの海賊団の首領を見つけることである。
レヴァリスは事前の偵察で北側にある大きめの建物に目星を付けていた。
他の建物よりもしっかりした造りだったため、どちらかの首領がいるのではないかと考えていたからだ。
『レヴァリスさん、止まってください。奥から4人の海賊が接近してきます』
サレナからの通信を受けてレヴァリスは近くのプレハブ小屋の陰に身を潜める。
酒瓶を片手に持った宇宙海賊達が横を通っていく。
「そろそろ狩りに出た連中が戻ってくるんじゃないか?」
「ああ、あいつらが戻ったらいよいよあの開拓地は俺らのもんだ」
海賊達の会話を聞いたレヴァリスはHUDで時刻を確認する。
次の定時連絡まではもう15分を切っている。気づかれる前にやることを済ませねばならない。
海賊達が完全に過ぎ去るとレヴァリスは再び移動を開始する。
やがて目標としていた建物の近くに到着し、中の様子を慎重にうかがう。
内部は広いホールのようになっており、大勢の宇宙海賊達が酒を飲み、並べられている食事を食らっている。
2つの海賊旗が掲げられているところを見るに、両海賊団が利用する酒場兼集会所らしい。
その奥にある玉座のような椅子を見ると、いかにも頭目らしい大柄な海賊がふんぞりかえって座っていた。
衣服にあしらわれた3本のナイフの紋章が目立つことから、おそらくはトライナイフの船長であるようだ。
周囲の海賊達も同じ紋章を身につけており、今はトライナイフ海賊団による宴会が行われているらしい。
「サレナ、トライナイフの船長を見つけた。そろそろお前も移動を開始しろ」
『了解です。捕虜収容所の近くまで動きますね』
「内部を突っ切ろうとするな。フィールドの内側を回り込んで、北東側の搬入路付近へ移動しろ」
そう指示して移動を促すと通信を切る。
これならば無理に潜入をさせず、まだ下級冒険者のサレナでも見つからずに移動できるはずだ。
ギュナータ・カンパニーからの襲撃と思い込ませるため、残った爆薬をトライナイフ側の建物数か所に仕掛けておいた。
再び船長のいる建物に戻ってくると、中では海賊達が船長に注目していた。
「いよいよ明日にはあの開拓地を攻撃する。俺達ならあの開拓地を占拠して、そこからさらに上を目指すのも夢じゃねぇ!」
「いいぞ船長!」
「派手にやろうぜ!」
船長が酒瓶を片手に気勢を上げると、部下達は喝采を送った。
船長の言葉とそれに喝采を送る海賊達を前に、レヴァリスの胸の奥で怒りが冷たく研ぎ澄まされていく。
『移動が完了しました』
「よし、火をつけてやるとするか」
しばらくしてサレナが予定の配置についたことを知ると、レヴァリスはブラスターライフルを手に携え、近くのプレハブ小屋の上から窓越しに船長を狙う。
この位置なら、トライナイフ側からはギュナータ・カンパニーの陣地から狙撃されたように見える。
待機中にブラスターライフルの先端には狙撃用のアタッチメントを取り付けており、長距離狙撃の用意をしていた。
レヴァリスはひと呼吸置くと、HUDのスコープ機能でズームし船長の頭を捉える。
「お望み通り、派手にやってやろう」
その言葉と同時に引き金を引くとブラスター弾が船長の頭部を直撃し、船長は仰向けに倒れた。
あまりに突然の出来事でその場にいた海賊達は凍りついた。
「ギュナータだ! 奴らが撃ちやがった!」
宇宙海賊の1人が撃ってきた方向を指さして叫ぶ。
レヴァリスは狙い通りの反応を見るや息を大きく吸い込むと大声で叫んだ。
「裏切りだぁ! ギュナータが裏切ったぞぉ!」
その叫びと同時に集会所近辺に仕掛けた爆薬を次々と起爆していく。
建物からは悲鳴と怒号が飛び交い、そして宇宙海賊達は武器を持って外へ飛び出してきた。
「船長が死んだぞ!」
「あいつらやっぱり裏切りやがったな! 殺してやる!」
「奴らを討ち取れ! 裏切り者を許すな!」
トライナイフの海賊達が怒号を上げながらギュナータ・カンパニーの陣地へ雪崩れ込む。
当然、突然襲われたギュナータ側も黙ってはいなかった。間もなく向こう側からもブラスターの閃光が走り、反撃の銃声が響き始める。
酔いと以前からの不信感に火をつけられた両海賊団は、もはや誰が最初に撃ったのか確かめようともしなかった。
「馬鹿共め」
侮蔑を込めて吐き捨てると、レヴァリスは混乱に紛れて次の行動へ移った。
海賊達の拠点は今や大混乱の坩堝と化した。
感想、レビュー、ブクマ、評価をお待ちしてます( ・3・)b




