第4話 荒野の向こう側 2
「痛っ——!?」
ブラスター弾が右肩の防護材を焼き裂き、コルマリアの身体を地面へ弾き飛ばした。
レヴァリスは倒れたコルマリアをかばうように、その前へ立ちはだかった。
「攻撃だ! 身を隠せ! サレナ、コルマリアを物陰へ!」
「は、はい!」
そう命じるなりブラスター弾が飛来した方向へ射撃し、サレナがコルマリアを近くの倒木の陰に引っ張るのを援護する。
さらに丘の上からブラスター弾が飛んできたが、レヴァリスの装甲服のシールドがそれらを打ち消す。
だが、今度は連射力の高いブラスターから激しい弾幕を浴びせられた。コルマリアを倒木の陰へ引き込むと、サレナもその傍らに身を伏せた。
「くそっ、最近は嫌な予感ばかり当たりやがる」
レヴァリスはそう吐き捨てると近くの木の陰へ身を滑り込ませ、高所から攻撃を仕掛けてくる襲撃者達へ撃ち返した。
とはいえ、高所を押さえられている以上、地の利は明らかに敵側にあった。上からの制圧射撃によって下級冒険者達は身動きもままならない。
「サレナ、コルマリアはどうなっている?」
「意識はあります! でも、負傷して右腕を動かせません!」
「その場で応急処置をしろ。セレリーンは動けん」
広場を挟んだ反対側にいるセレリーンを見ると、彼女はコルマリアの元に移動しようとしていたものの、砲火が激しく動くことができなかった。
無理に動けば撃たれかねない。手振りで動くなと合図し、それを見た彼女は苦々しい表情で頷いた。
「撃てる奴は全員、丘の上に向けて射撃しろ! こちらからプレッシャーをかけるんだ」
そう命令を下すとヴェオルとセレリーンは、ブラスターピストルで丘の頂上を目掛けて射撃を開始する。
とはいえ、向こう側の数が多いらしく、2人の射撃が加わっただけでは押されたままであった。
後ろを見るとレルカが狙撃銃を構え、スコープ越しに稜線の様子をうかがっていた。
「敵は見えるか?」
「射手ガ8人、狙撃手ガ1人ッテとこロだナ」
「俺が前に出る。狙撃手を片付けろ」
レヴァリスはレルカに命じると木の裏側から飛び出し、目立つように広場の中央からブラスターライフルを撃つ。
敵の照準が一斉にレヴァリスへ向き、激しい砲火が集中する。
装甲服のシールドはあっという間に半分以下まで削られ、HUDにシールド残量の低下を告げる警告が表示される。
だが、それこそがレヴァリスの狙いだった。
その間にレルカは照準を定め、狙撃手と思しき襲撃者の眉間を撃ち抜いた。
「仕留メタ!」
「よくやった、次はこっちから仕掛けるぞ」
そう言うとレヴァリスは木の裏に隠れ、ブラスターライフルの弾倉を大容量型に交換する。
レルカもまた自身の位置を悟られぬように素早く移動した。
「ヴェオル、こいつを使え!」
「は、はいっ!」
ヴェオルはレヴァリスから投げ渡されたブラスターライフルを慌ててキャッチする。
普段のブラスターピストルよりも大きな銃を渡され、ヴェオルはぎこちない手つきで構えた。
「これを使えばいいんすね!」
「とにかく頂上に向けて撃ち続けろ。その間に俺が行く!」
「了解っす」
ヴェオルが頂上に向けて連射を始めると、襲撃者達の砲火が一時的に止んだ。
その隙に背部のウェポンマグネットからショットガンを外し、レヴァリスは丘を猛然と駆け上がっていく。
踏み込むたびに斜面の土が崩れて足を取られそうになる。呼吸が乱れぬよう意識しながら、それでも速度を落とさず駆け上がった。
「もう来やがったぞ!」
「くそっ、冒険者か!?」
そして頂上付近まで一気に距離を詰めると、顔を出した襲撃者達に向けて引き金を引いた。
襲撃者達は、接近してきたレヴァリスに慌てて銃口を向けたが、その前にショットガンから放たれた散弾が2人を容赦なく撃ち倒した。
「この野郎、よくも——!」
1人の襲撃者がバイブロブレードを手に持ち、勢い良くレヴァリスへ飛びかかる。
振り下ろされた刃を半身でかわすと、銃床で相手の側頭部を殴りつけた。地面へ転がった相手の首をそのまま装甲服の足で踏み砕く。
さらに2人が近接武器を手に襲いかかってきた。片方を撃ち殺すと、もう1人の斬撃をかわして頭を吹き飛ばした。
そして勢いに怯んだ2人も、間を置かず射殺した。
「ひっ、ひぃっ!?」
最後の1人が並んで停められていたフロートバイクの1台に飛び乗り逃げようとする。
しかし、レヴァリスは落ち着いてブラスターピストルを引き抜き、走り去るフロートバイクの後部エンジンを的確に撃ち抜く。
ブラスターの直撃を受けたエンジンは火を噴き上げ、コントロールを失ったフロートバイクは木に激突して爆散した。
HUDのモーショントラッカーと熱源表示を確認し、動く敵が残っていないことを確かめる。
念のため周囲に罠がないことも確認した後、岩の上に置かれていた通信機を調べた。
襲撃を知らせる送信記録はなく、未送信欄には緊急警報が残されていた。通信する猶予はあったはずだが、なぜか本拠地までは届いていなかった。
「レヴァリスさん、大丈夫っすか!?」
やがて、レヴァリスを追って息を切らしたヴェオルとサレナ、そしてレルカが丘を登ってきた。
「もう敵を倒しちまったんすか、流石っすね。あとこれをお返しします」
ヴェオルは息を整えながらレヴァリスから渡されたブラスターライフルを返す。
銃を受け取りながら、レヴァリスはヴェオルの名残惜しそうな表情に気づいた。
「コルマリアは大丈夫そうか?」
「は、はい。意識はあります。応急処置も済ませました。今はセレリーンさんが診ています」
「そうか。応急処置を習っていて良かったな。これはお前の成果だ」
そう褒められ、サレナは張り詰めていた表情をわずかに緩めた。
「それでレヴァリスさん、この襲撃者達は一体……」
「今からそれを探る。3人とも、周囲を調べて手がかりになるようなものを探せ。何かあったら俺に見せろ」
命令を受けた3人は、それぞれ手掛かりを求めて前哨内へ散っていった。
丘の上には簡素な見張り台と、休憩や仮眠に使われていたと思しきテントが設営されていた。
散乱したゴミの量から見て、この前哨はかなり以前から使われていたらしい。
見張り台へ登ると、そこからはフロンティア・ナリスの街並みを一望できた。
「レヴァリスさん、こいつら宇宙海賊みたいっす!」
ヴェオルの声に振り返ると、彼は海賊旗らしきものを掲げていた。
「やはりか。となると、ここは海賊の前哨ってところか」
見張り台から下りると海賊旗を受け取り、それをまじまじと見つめる。
宇宙海賊にとって旗は所属を示すものであり、そこに記された紋章と名称は海賊団“ギュナータ・カンパニー”のものだった。
それらをHUDに記録してから、レヴァリスは旗を引き裂いた。
「うへぇ、あんな風にはなりたくないな」
ショットガンの散弾は人体を容易に欠損させるほどの威力を持ち、頭部のない宇宙海賊の遺体を見たヴェオルはうめき声を上げた。
ヴェオルの反応をよそに、レヴァリスは遺体の懐を探り始めた。
そして海賊が所持していた携帯端末を取り出し、すぐに内容を確認する。
画面は点灯したままで、幸いにも端末にはロックがかかっていなかった。
「こいつらはおそらく偵察部隊だな。街を監視してやがった」
端末には、偵察によって集められた街の情報がいくつも記録されていた。
民兵部隊の配置、巡回ルート、冒険者達の動きまで詳細に書かれている。
ただ、冒険者ギルドの支部が本格的に稼働したことまでは把握していないらしく、少数の冒険者がいるとだけ記されていた。
「レヴァリスさん、こっちも見てください」
サレナが何かを見つけたのかレヴァリスに呼びかける。
すぐに向かうとそこには大型装置が設置されており、低い駆動音を鳴らして動いていた。
「これは何でしょうか?」
「こいつは索敵妨害装置だな。道理で上空からスキャンしても情報を得られないわけだ」
レヴァリスは制御端末から稼働記録を複製し、通信機を操作して本拠地へつながる通信機能だけを切断した。妨害機能はそのまま維持しておくことにした。
索敵妨害装置は偵察拠点や前哨を秘匿し、上空や軌道上からのスキャンを欺くための装置だ。
稼働記録によれば妨害装置が作動している間は、前哨からの長距離通信も遮断され、定時連絡の前後だけ出力を落とす設定になっていた。
先ほどの緊急警報が送信されなかった理由もこれで分かった。
そこへ、レルカが血に濡れた携帯端末を持ってこちらにやって来る。
「マズいゾ。コイツら、開拓地ヘノ攻撃を計画してイル」
「何だと?」
レルカから渡された携帯端末を見て、事態の深刻さを悟る。
どうやら2ヶ月前から開拓地は偵察されており、狩りに出たチームが戻り次第、総攻撃を行うつもりだと書かれていた。
記録によれば、狩りに出たチームの母船識別名は<イオンライナーⅢ>。同行する戦闘機の数も、1週間ほど前に撃破した船団と一致していた。
それは間違いなく、レヴァリス達を襲撃した宇宙海賊の一団であった。
さらに、拠点には総勢300名近い海賊がいることも判明した。
携帯端末の記録には“これだけの人数がいれば、あの程度の開拓地は容易く落とせる”と書かれていた。
「だいぶマズいな。俺達が母船と戦闘機隊を全滅させ、さらにこの前哨まで壊滅させたとなると……」
大戦中、レヴァリスは海賊達の習性を嫌というほど学んでいた。
面子を潰された海賊団は、部下の忠誠を保つためにも報復へ動くことが多い。
弱腰を見せた船長は座を追われる——そして海賊団における交代は、たいてい前任者の死を意味した。
母船と戦闘機隊を撃破してから、すでに1週間ほどが経っている。さらに前哨からの定時連絡まで途絶えれば、残された猶予はほとんどなかった。
「次の定時連絡は……4時間後か。あまり猶予はなさそうだな」
さらに端末に登録された所属章は、ギュナータ・カンパニーの旗章とは異なっていた。
どうやらこの前哨には別の海賊団に属する者も駐留していたらしい。
複数の海賊団が手を組んでいる可能性が頭をよぎったが、今はその正体を探るよりも時間の方が問題だった。
「あの、大丈夫ですか?」
ふと声をかけられて隣にいるサレナを見ると、心配そうな顔でこちらを見ていた。
「いや、少し考えていた。だが、どうやらやらねばならんことができた。いったん全員と合流するぞ」
そう言うとレヴァリスは前哨に残されていた3台のフロートバイクに目を向けた。
「あれが必要になりそうだ」
3台のフロートバイクに分乗して丘を下りた4人は、コルマリアとセレリーンに合流した。
コルマリアは右肩から上腕にかけて止血パッドと固定包帯を巻かれ、倒木にもたれていた。
「みんなごめんね。撃たれちゃった……」
「命に別状はありません。ただ、右腕は動かせません。これ以上の探索を続けるのは危険です」
「分かっている。今から言うことをよく聞いてほしい」
レヴァリスは下級冒険者達を集めると、一息入れてから話し始めた。
「海賊達はもともと開拓地への総攻撃を計画していた。狩りの一団と前哨を失ったと知れば、報復も兼ねて計画を前倒しする可能性が高い」
そう告げると下級冒険者達は驚きのあまり声も出せずにいた。
無理もないことだと思いながらも、話の続きを始める。
「お前達はユーレロックで速やかに街へ戻り、開拓地と冒険者ギルドにこのことを伝えろ」
「レヴァリスさんはどうするんですか?」
「俺か? 俺は連中の拠点を探らねばならん。その位置さえ割り出せば、先手を打てるかもしれない」
「もしかして1人で?」
「そうせざるを得ないだろう。コルマリアも負傷しているし、開拓地の防衛にはお前達の力が必要だ。だから先に戻ってくれ」
レヴァリスはサレナにそう言うと、ヴェオルに2つの電子鍵を渡す。
「この2つの電子鍵は?」
「片方はユーレロックの起動キーで、もう片方は<ペイルライダー>の操縦権限を移した認証キーだ。開拓地に戻ったらエレフィエルを急いで探して渡すんだ。渡せばその意味を理解してくれる」
そう言ったレヴァリスは、残されていた3台の2人乗りフロートバイクに目を向ける。
「残っているフロートバイクを使え。コルマリアを落とさないよう身体を固定して、ユーレロックまで運ぶんだ」
「了解っす。これは責任重大っすね。よしみんな、指示通りに動こう。ユーレロックに急いで戻るぞ」
ヴェオルは2つの電子鍵を懐にしまうと、下級冒険者達に指示を飛ばす。
「待ってください、私も行きます!」
「おいおい、できれば開拓地の防衛戦力を減らしたくないんだ。お前も戻った方がいい」
「でも、海賊達の本拠地の場所がまだ分からないんですよね。私のアナザーセンスなら、近くまで行けば大勢の人の気配や危険を探れるかもしれません」
サレナはレヴァリスのそばへ寄り、4人に聞こえないように声を潜めながら言った。
彼女の力があれば拠点を発見できる可能性は高まる。
だが、まだ下級冒険者でしかない彼女を連れて行くべきか、レヴァリスは判断に迷った。
「保育所の子供達も、この街で暮らしている人達も……戦火に巻き込ませたくありません」
サレナがこの数日、保育所で接してきた子供達や、フロンティア・ナリスの人々を案じていることは十分に伝わった。
同時にレヴァリスの脳裏にも、グラ=ナヴァン大戦中に目の当たりにした光景が蘇る。
略奪の限りを尽くされ、住民達が凌辱され、虐殺された街。その惨状を今もはっきりと覚えていた。
同じことだけは繰り返させてはならない。レヴァリスは腹を決めた。
「いいだろう。ただし、俺の指示は必ず聞け。いいな?」
「はい、分かりました」
正しい判断かどうかは分からない。それでも、一刻も早く海賊の拠点を突き止めねばならなかった。
ヴェオル達4人が2台のバイクで引き返すのを見届けると、レヴァリスはサレナと共に最後の1台へ乗り込んだ。
航行記録を遡ると、詳細な経路と出発地点は消去されていたものの、海賊達が前哨へ到着する直前の進行方位だけは残されていた。どうやらこの車両はさらに西から来たらしい。
「ここからさらに西に連中の拠点があるようだ。行って確かめるぞ」
「はい!」
そしてフロートバイクを起動すると、2人を乗せた車両は西を目指して出発した。
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