第3話 星路に潜む影 7
翌朝、発着場には募集に応じた下級冒険者10名が顔を揃えていた。
彼らは重武装の<ペイルライダー>に圧倒され、一体どのような上級冒険者が雇い主なのかとざわめいていた。
レヴァリスが乗降ランプを下ろして現れると、冒険者達はぴたりと話を止めて注目する。
「集まったようだな。今回の仕事は塩を中心とした輸送作業だ。全員いますぐ船に乗れ、出発するぞ」
レヴァリスがそう命じると下級冒険者達は、恐る恐るといった足取りで船内へと入っていく。
<ペイルライダー>は下級冒険者達を収容すると、ソルティア・ナリスを目指して飛び立つ。
街の南東にある海岸沿いに築かれたソルティア・ナリスは、規模でいえばせいぜい村と呼べる程度であった。
村内には製塩施設や大型の倉庫、小さいながらも漁業用の埠頭が整備されていた。
<ペイルライダー>が大型倉庫に隣接した空き地へ着陸すると、全員がぞろぞろと宇宙船から降り立つ。
「レヴァリスさん、お待ちしていました。すぐに扉を開けます」
大型倉庫には現地の住人が待機しており、レヴァリス達を出迎えるとすぐに大扉を開いてくれた。
内部には山積みになった塩袋が保管されており、一部は天井近くまで積み上がっている。
生産量が街への輸送量を上回っている状況であることは間違いないようだ。
「よし、それじゃあ積み込みを始めるとしよう。塩は食用と工業用に分かれている。まずは工業用から積み込みを始めるぞ」
レヴァリスの指示の下、冒険者達とオートロイド達は一斉に塩の積み込み作業を始める。
冒険者達はリパルサーカートに塩袋を積んで何度も往復していたが、その一方で3体のリフトロイドは大量の塩の袋をそのまま持ち上げて運んでいた。
「ヨウシコッチダ。次ノ袋ハアッチニ重ネロ」
「あ、待ってください。この袋は食用なので戻してください」
<ペイルライダー>ではサレナとビープが持ち込まれた塩の袋を、貨物区画に適切に配置するよう指示を出していた。
1時間ほどの作業で貨物区画が満載となると、すぐにフロンティア・ナリスに向けて再出発する。
開拓長との事前協議により、今回は工房地区の一角に着陸場所が確保されていた。
これは発着場から運ぶのでは時間が掛かりすぎるというのが理由であった。
真下にいる誘導員の指示の下、<ペイルライダー>は倉庫が立ち並ぶ一角にある空き地へとゆっくりと着陸する。
「塩が来たぞ! 急いで必要な分を受け取れ!」
着陸した宇宙船の周りには大勢の職人達が待機しており、塩を今か今かと待ち構えていた。
貨物区画のハッチが開くと冒険者達はすぐに職人達に塩の受け渡しを開始する。
「えっと、塩400キロスを次の方に。その次の人には——」
受け渡しはサレナが担当していた。次々とやってくる職人達に多少慌てながらも対応していく。
一方でレヴァリスは5名の冒険者を連れ、反対側のハッチからソルティア・ナリスに送る物資を積み込んだ。
空荷で戻る無駄を省くため、復路には街からの物資を運ぶことにしていた。
穀物や新鮮な野菜、工房地区で製造された日用品などが積み込まれていく。
「レヴァリスさん、塩の荷下ろしが終わりました!」
「よし、全員乗り込め。出発するぞ」
サレナが塩の荷下ろしを完了した合図を送る。
それから全員の乗船を確認すると、<ペイルライダー>は再びソルティア・ナリスへ向けて出発した。
その後も一行は塩と街からの物資を積み替えながら、2つの居住地の間を何度も往復した。
朝から始まった物資の輸送任務は日が沈み始める頃にはようやく完了した。
フロンティア・ナリスには街が消費する数ヶ月分の塩に加えて、魚や海藻の乾物、新鮮な魚介類などが運び込まれた。
一方でソルティア・ナリスには、当面の生活に困らないだけの食料や日用品を届けることができた。
レヴァリスが下級冒険者達に報酬を支給し終える頃には、すっかり日は沈んでしまっていた。
「1日が早いものだな」
「そうですね。明日はどうしましょうか?」
「明日はギルドで地元の住民からの仕事を探すとしよう」
<ペイルライダー>の多目的室で夕食を食べながら、レヴァリスとサレナは明日の予定を立てる。
当面は開拓地の手伝いを主な仕事とし、ギルドで依頼を引き受けることにしていた。
「オートロイド達にも仕事を与えねばならないな。工房地区ならさして仕事には困らんだろうが」
「今日ノ仕事ハ楽シカッタ。明日モアレバ良イ。モチロン明後日モダ!」
ビープやリフトロイド達は仕事へのやる気に満ち溢れており、甲高い機械音を鳴らしながら次の仕事を楽しみにしていた。
この様子ならシンガーにも何か仕事を与えるべきだろうと、レヴァリスも考え始めているほどだ。
「しばらくの間は開拓地の依頼をこなして、そのうち何処かの探索に出かけたいところだな」
「エレフィエルさんは北に行ったので、私達も何処か別の方面に行くべきでしょうか?」
「そうだな。仕事をしながら未探索地域の情報を集めるとするか」
翌日からはギルドの支部施設を訪れて依頼を引き受ける日々が始まった。
現在、この街には後から来たレヴァリス達を含めて約50名の冒険者がいるようだ。
それに対して掲示されている案件の数は、冒険者の人数の4倍近くにものぼる。
「依頼の数に対して冒険者の数が全く足りてませんね」
「引く手数多には違いないが、ここでも需要と供給が釣り合ってないな。さて何を選んだものか」
今日からレヴァリスとサレナはそれぞれ別の仕事を引き受けることにしていた。
上級と下級ではできることに差があるため、別行動した方が開拓地への貢献度も高いと判断したからだ。
幾つかの案件の中からひとまずレヴァリスは、難易度の高そうな電力ジェネレーターの修理を請け負うことにした。
「私はこちらの仕事をこなそうと思います」
サレナが選んだのは保育所の手伝いというものであった。
アナザーセンスの力があれば幼い子供がうまく言葉にできない気持ちも察しやすいのだろう——レヴァリスは何となくそう想像した。
仕事を引き受けると、2人は支部施設の入口で別れた。
久しぶりに1人で任務を行うことに少しばかり寂しさを感じたが、まずは目の前の仕事へ集中することにした。
工房地区の一角には街の電力を担う発電所が建っている。
植民船の動力炉を中核として、後から増設された複数の電力ジェネレーターが街へ電力を供給していた。
「レヴァリスさん、こちらが調子の悪い電力ジェネレーターです。最近どうも出力が上がらず、たまに止まってしまうんです」
職員に案内され、停止中の電力ジェネレーターの前に立った。
見たところだいぶ古い型式の物で、おそらくは安く仕入れたであろう中古の製品であった。
「だいぶ旧式だな。こいつは中古で購入したのか?」
「ええ、前に来た商人に頼んで仕入れたものです」
「まずは中身を見てみるか」
基幹部のハッチを開けて内部を見ると、ヘルメットに内蔵されたスキャナーを用いて走査し、その診断結果をHUDに表示させる。
内部を調べていくうちに故障の原因と思しき箇所を見つけた。
「やれやれ、配線が違うどころかバイパス回路を増設しすぎているな」
そう愚痴をこぼしながら無理に増設されていたバイパス回路を取り外し、配線を規定の状態へ戻していく。
それから持ってきたマルチツールで端子や接点の汚れを落とし、いくつかの配線は新しいものに取り替えていった。
「よし、これで起動できるはずだ」
レヴァリスはハッチを閉め、職員へ合図を送った。
職員が端末を操作すると、ジェネレーターは低い駆動音をあげて動き始めた。
「出力は正常値、電力供給も安定してます。流石ですね」
「今度から中古のを買う時は中身を調べるべきだ。前の持ち主はあまり良い使い方をしていたとはいえない。下手をすれば、ただの鉄屑をつかまされるぞ」
「分かりました、気をつけておきます」
職員にそう注意した後、依頼完了の確認を受けて支部施設へ戻ることにした。
工房地区では休止していたいくつかの工房が操業を再開しており、職人達が嬉々として生産作業に取り組んでいる。
「塩が届いたからやっと薬品の生産が再開できたんだ」
「魚介類も届けてくれたおかげで、昨日は久しぶりに魚が食えたな。冒険者さまさまだよ」
職人達の会話に耳を澄ますと、昨日の輸送任務の影響が早速現れているらしい。
実際、昨日運び込んだ塩の7割は工業用のものなので、当面の間は原材料として困らないであろう。
冒険者が引き受けるこうした依頼は、開拓地の発展に欠かせないものが多い。
「サア次ハアッチノ荷物ヲ市場ニ運ブゾ」
工房地区ではビープや3体のリフトロイド、シンガー達も働いていた。
職人達は完成した製品を運ぶ人手や清掃を担う作業要員を欲しており、レヴァリスはビープ達を好きに使って良いと貸し出していた。
レヴァリスはオートロイド達が働く姿を見送ると支部へ戻り、次の案件を引き受けて再び街へ繰り出していった。
その後も彼らは毎日のように仕事へ出かけ、並の労働者や冒険者よりもよほど働き者だと評判になっていった。
数日間に渡ってレヴァリスとサレナは街で依頼をこなしていた。
同時に未探索地域の情報を人々から集めており、到着から1週間が経過した今は探索地域を決める頃合いとなっていた。
「西側の丘陵地帯には未だに誰も行っていないようだな」
「えっと、確か宇宙船で空から見た時は森だった場所ですよね」
「そうだ。あの一帯はまだ他の冒険者達も行ってないらしく、完全に未踏の地と言っていいだろう」
この数日で集めた情報によればフロンティア・ナリスの冒険者達は、街の周辺と南東方面しか探索していないらしい。
その理由は街の開拓が最優先され、ソルティア・ナリスへの街道整備にも人手を取られていたためであった。
訪れている冒険者達もそのほとんどが半年以内に来た者だ。
北側はエレフィエルが探索を始めたばかりであり、西側にはまだ全く手が付いていない状況であった。
「エレフィエルさんは北側の探索で成果を挙げているみたいですね。私の見たこともない動物を連れ帰ったり、たくさんの花や草を持ち帰ったりしていました」
「あいつは意外と動物に懐かれやすいんだ。それに兄の1人が薬草学と植物学に精通した学者で、あいつ自身もその知識を教わっている。俺達も西側で何かを見つけたいところだ」
「探索には私達だけで行くんですか?」
「そうだな……ヴェオル達も連れて行ってみるか。探索をするならもう少し人手を増やしたほうが、色々と見つかるものも多い」
顔見知りのあの4人なら、同行を頼みやすい。医療技能を持つセレリーンがいれば、負傷者が出た際にも心強かった。
「上空から見た時には宇宙船の着陸に向きそうな地形がなかった。徒歩か車両で向かうことになりそうだな」
「丘陵地帯まで距離もありますよね。車両を借りられるあてはあるでしょうか?」
「さて、どうだろうな。確か民兵部隊が偵察用の車両を持っていたはずだが、イエーニに頼めば貸してくれるかもしれん」
レヴァリスは街で見かけた民兵部隊の偵察車両を思い出していた。
それは四輪駆動の偵察車両であり、定員はちょうど6名で探索に必要な物資を積み込むのにも適していた。
普段は街の周辺のパトロールに用いられているが、現在はもっぱら狩猟対象となる野生生物の群れを追うために使われているらしい。
偵察用に設計されているため未舗装の悪路も走破でき、未開である西の丘陵地帯の探索にはもってこいの車両であった。
「後でイエーニに交渉してくるとしよう。サレナ、お前はヴェオル達を見つけて、西の探索に行くか誘ってみてくれ」
「分かりました。今日の依頼が終わったら、あの人達を誘ってみますね」
サレナの返事にレヴァリスは静かに頷き、2人はそれぞれの仕事先へ向かった。
その日の夜、レヴァリスとサレナは夕食を囲みながらそれぞれの成果を報告していた。
「保育所の仕事は今日も大変でした。どうして子供達は私の三つ編みを引っ張るのでしょう?」
「揺れているものは子供なら掴みたくなるものさ。そうだ、イエーニから偵察車両を借りられそうだ。銃座も付けるか聞かれたが、探索には過剰な武装だと断ったけどな」
「あと夕方に支部施設でヴェオルさん達と会いました。探索の話をしたところ一緒に行きたいそうです」
「そいつは重畳だな。ギルドにも西側の探索を話したところすぐに許可は下りた。明日には探索に出かけられそうだ」
レヴァリスはそう言うと多目的室のテーブル上にマップを表示する。
そこには前日、<ペイルライダー>で西側上空を飛行した際に得た地形情報が映し出されていた。
西側の探索候補を絞り込むため、日中の仕事を終えた後に走査しておいたものだ。
「昨日、西側一帯を上空から走査したんだが、森の中にどうしてもスキャンできない場所がある」
「スキャンできなかった場所? えっと、マップで赤く表示されている部分でしょうか」
サレナはマップの地形図が一部赤くなっていることに気づき、その部分を指摘する。
地形図ではデータの欠損した一帯が警告を示す赤色で塗られていた。
「到着した時に起きた計器の異常とは、何か関係があるんでしょうか?」
「可能性はある。だが、ただの磁場異常ならここまで明瞭な欠損にはならないはずだ」
レヴァリスも磁場異常との関連を当初は考えたが、やはり磁場による影響とは考えにくかった。
「こういったスキャンできない場所には、人工物や遺跡とかが眠っている可能性がある」
「昔の遺跡——銀河帝国時代のとかですか?」
「そうだ。銀河帝国時代の施設にはスキャンを阻害するものがある。だから、この地点を目標に定めて探索しようと思う」
銀河帝国時代の一部の施設は、遮蔽材や今も稼働する妨害装置のためにスキャンを阻む。
レヴァリスは過去の経験から、今回の欠損も遺跡の存在を示すものではないかと考えていた。
「もし遺跡が見つかれば大発見ですね。私、明日に備えて支度をしてきますね」
そう言ってサレナは夕食の最後の一口を食べると、すぐに明日の支度へと取り掛かった。
一方でレヴァリスはスキャンされた地形図をじっと見ていた。
「もっとも、そこにあるのが遺跡とは限らないんだがな……」
第3話はこれに完結です。次回からは第4話に入ります。
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