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青藍のストライダー ~星々を駆ける冒険者たち~  作者: Omega Blue
第3話 星路に潜む影

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第3話 星路に潜む影 5

 冒険者ギルドの支部施設を出た2人は、改めてフロンティア・ナリスの街へと足を踏み出した。

 まずは街の中央にある役場付近を訪れる。

 役場にはかつて開拓者達を運んできた植民船の艦橋がそのまま利用されていた。

 また役場の正面は広場と公園として整備されており、住民達が休憩をしたり子供達が集まって遊びに興じていた。

 植えられているのはまだ若木ばかりで、十分な木陰を作るには頼りなかった。

 住民達に混じって冒険者と思しき者達の姿もあり、どうやら開拓作業を手伝っているようだ。

「この街にいるのは下級冒険者だけのようだな」

「中級や上級の人達はいないみたいですね。これだけの規模の街ならば、先に来ていそうな印象があったのですが」

「知名度も周辺の情報も足りていないならそんなものだ。それに、中級はともかく上級冒険者というのは刺激がある場所を求める」

「刺激——ですか」

「この街は拠点としてはもちろん理想的ではある。だが、まだ周囲の状況が分からんせいで、挑むだけの価値があるのか分からん。上級冒険者としての俺の所感だな」

 上級冒険者達の多くは危険な場所に挑む。それはもちろん実力から来る自信もあるが、やはりそれだけの利益が見込めるからだ。

「ベテランの冒険者は、結構当てずっぽうに探しているものだと思っていたんですけど」

「そういう奴もそれなりにいる。だが、まったく手掛かりのない場所に闇雲に飛び込む上級冒険者は少ない。俺だってアティグウから言われなきゃ、たぶん来なかっただろうしな」

 明確な目標も定まらないまま、いたずらに資金や物資を費やすわけにはいかなかった。

「それじゃあ興味を引く何かがあれば、もっと冒険者達は来るのでしょうか?」

「来るだろうな。だが、先に来ていた連中からしてみれば上級冒険者の到着というのは面白くないものだ」

「それだとレヴァリスさんやエレフィエルさんが、何だか邪魔みたいになりませんか?」

「周りの様子を見てみるといい、たぶんすぐに分かるぞ」

 そう促されてサレナが周囲に目をやると、近くにいた下級冒険者達はレヴァリスに視線を向けていた。

 レヴァリスを見ていた何人かの下級冒険者達は、互いにひそひそと話し合っている。

 中には純粋に興味を向けている者もいれば、どこか警戒するような視線を向ける者もいた。

「皆さん確かにこっちを見てますね」

「そうだろう。後からやって来た上級冒険者なんて、下級や中級からしてみれば邪魔者みたいなものさ」

 レヴァリス自身も、先に探索していた場所へ格上の冒険者が現れた時には、面白くないと感じたものだ。

 上級になってからは、今度は自分が同じ視線を向けられる立場になった。

「だから先に来ている連中の仕事を、横から奪うような真似はしないのさ。上級には上級なりのやり方がある」

「上級なりのやり方ですか?」

「ここにいる下級冒険者達の多くは、現地で仕事をしつつ新しい発見を狙ってるんだ。俺達はあいつらの手に余る仕事を引き受ければいい」

「まずは地元との信頼関係の構築ですね」

「ああ、そうだ。だが、その前に現地の情報を集めることが先決だ。次は市場にでも行ってみるか」

「えっと、街の南東側でしたっけ。行ってみましょう」

 2人は公園を後にした。

 

 公園を抜けてしばらく歩くと、やがて街の南東にある市場へと辿り着いた。

 土や野菜の匂いに混じって焼いた穀物の匂いが漂い、露天商の掛け声や出来立ての食事に舌鼓を打つ人々の声が聞こえる。

 正午も近いことから昼食や休憩がてら訪れた買い物客で賑わっていた。

 商品の並びや価格にはその土地の暮らしぶりがよく表れる。

 レヴァリスはまずこういった場所に赴くことで、開拓地の生活事情を把握しようと考えていた。

 約5000人の開拓民の生活を支えるだけあって、市場は開拓地としてはかなり大きな規模だった。

「露店の商品は農作物が中心ですね」

「野菜と穀物の種類と量は悪くなさそうだ。そうなると次は——」

 露店を一通り見渡したところで、ふと1軒の店が目に留まった。

「肉屋は一応あるみたいだな」

 注目したのは穀物や野菜を扱う露店の中にぽつんと店を構える肉屋だった。

 その店の前だけはひときわ大きな人だかりができていた。

「さあ冒険者が獲ってきた肉が入ったよ!」

 売られていたのは狩猟で得たと思しきジビエ肉で、店主のかけ声を聞くと冒険者が獲ってきたようだ。

 店の前には大勢の客が我先にと肉を買いに来ており、店主は次々と飛んでくる注文をさばくのに追われていた。

 そしてあっという間に肉は売り切れてしまい、店主はすぐに“売り切れ”の札を掛けた。

「需要に対して肉が足りていないようだ。この分だと、まだ牧畜が始まっていないか、始まっていても供給が追いついていないかだな」

「やっぱりお肉は食べたいですよね」

「贅沢は言えないが、さすがに毎日の食事が野菜や穀物ばかりじゃ味気ないからな」

 それからも2人は市場を歩き回りながら、露店に並ぶ商品を観察していく。

 日用品などの生活必需品には大きな不足はないようだった。

 手に取った商品には現地で製造されたことを示す刻印が付けられており、少なくとも日用品の多くは現地生産で賄えているようだ。

 その一方で嗜好品や娯楽品の類は不足しているようだった。

 とある雑貨露店を見た際には、輸入品の酒が相場よりもかなり高めに売られていた。

「交易店で買ったお酒も高く売れるんじゃないですか?」

「どうだろうな。酒が高すぎて逆に売れないかもしれん。見ろ、客は酒のケースは見ているが誰も買わん」

 そう言われたサレナは酒の置かれた棚の前にいる人々を観察する。

 彼の言う通り酒を物欲しそうに眺める客がほとんどで、実際には購入する客はいなかった。

 露店の店主も酒が売れずに客が離れる度に、大きな溜息を吐いていた。

「確かにこれじゃあ売れないかもですね」

「品薄だからって高値を付ければ売れるというものでもない。買える奴がいなけりゃ、そもそも意味がないからな」

「住民のお財布の中身も大事ってことでしょうか?」

「そういうことだな。どうだ、少しはフロンティア・ナリスの状況が分かったか?」

「はい、これだけ大きな開拓地でも色々と足りていませんね」

 レヴァリスはサレナの答えに満足するように頷く。

「こういう場所での俺達冒険者の仕事は、住民にとって足りないものを手に入れることだ。手っ取り早いのは何だと思う?」

「市場を見た限りだとお肉でしょうか。狩猟とかですか?」

「そうだな。街から離れれば草食獣ぐらいはいるだろう。だが、この街に狩猟のルールがある可能性を忘れているぞ」

「あっ、そうでした。勝手に獲ったら密猟になっちゃいますね」

「こういう時は支部で地元の依頼を引き受けるのが一番だ。あるいは役場や住民に聞いて、地元のルールだけは把握しておけ」

 冒険者だからといって好き勝手に獲物を狩ってよいわけではない。

 余所者である以上は、現地の法や取り決めを確認してから行動するのが鉄則だった。

「北東は住宅街だからあと見るとすれば、南西の工房地区ぐらいだな」

「工房地区ですか」

「ああ、街の拡張のための心臓部だ。せっかくだし見に行くとしよう」


 フロンティア・ナリスの南西には工房地区があり、建材や生活用品などの生産や加工を担う工房が集まっていた。

 あちこちから工具や加工機のけたたましい音が響き、溶接の白い閃光が工房の軒先から絶え間なく漏れている。

 開拓地の拡張工事が続いているため資材を扱う工房には職人達や、素材を調達してきた冒険者達がひっきりなしに出入りしている。

「117番地の住宅用資材が出来上がったぞ、持っていけ!」

「やっと商人が資材を持ってきたんだ、遅れた分を急いで取り戻すぞ」

 職人達の話を聞いてみると、どうやら先ほど到着した<ヴェイメルローク>の積荷によって製造を再開したばかりらしい。

 他の工房でも職人達が額に汗を流しながら生産作業に精を出している。

 一方で工房の幾つかは稼働を停止しており、職人達の姿が見えない所もあった。

「見たところ原材料の供給が足りてないな。停止している工房の職人達は、自分達で調達しに行っているようだ」

 休業している工房に掛けられた看板には“採掘作業のため本日は休業”と書かれていた。

「今稼働している工房もエルメティさんが資材を持ってきてくれたおかげで、やっと作業が再開できたという感じでしたね」

「だが、軽貨物船1隻の積荷じゃ長くは持たないだろう。冒険者どころか職人自ら調達しているようでは、生産に回せる人手まで削られていると見るべきか」

「こっちでもやることが多くありそうです」

「誰か手の空いてる奴はいないか! 現場に運搬できる奴はいないか!」

 運び手も足りないのか、ある工房の親方が周囲に声を張り上げている。

 さらには歩いている2人のもとにも職人達がやってきて、原材料の調達を直に頼んできた。

 もっともその場では引き受けず、正式な依頼として支部を通すよう職人達には伝えた。

「えっと、街は肉不足で、嗜好品も足りなくて、物を作るための原材料も足りてない——ってとこですか」

「おまけに人まで足りてないときている。これだけの問題を解決するのは苦労しそうだな」

「人を増やすにしてもお家がもっと必要で、そしたら食糧も必要で……あれ、でも物資も足りない?」

「課題を挙げたらキリがなさそうだ。だが、それだけ冒険者にとっては稼ぎ時ということでもある」

「お仕事には困りそうにありませんね。そういえばそろそろ昼食にしますか?」

 サレナにそう言われたレヴァリスが時間を確認すると、既に正午をだいぶ過ぎた頃合いだった。

「昼食をとりに<ペイルライダー>へ戻るか。ビープに頼んだ修理もそろそろ終わるだろう」

「はい、そうしましょうか」

 2人は騒がしい工房地区を離れ、<ペイルライダー>の待つ発着場へと引き返した。

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